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THINK PIECE

KEIICHIRO SHIBUYA

音楽家・渋谷慶一郎の5枚目のソロアルバム
「ATAK019 Soundtrack for Children who won't die, Shusaku Arakawa」が発売

13 11/7 UP

photo: Kenshu Shintsubo interview & text: Tetsuya Suzuki, Madoka Hattori

音楽家・渋谷慶一郎が手がける、美術家・荒川修作のドキュメンタリー映画『死なない子供、荒川修作』の
サウンドトラック「ATAK019 Soundtrack for Children who won't die, Shusaku Arakawa」が発売された。
前作の杉本博司とドキュメンタリーのサウンドトラックである「ATAK018 Memories of Origin Hiroshi Sugimoto」、
そして伊勢谷友介監督の映画「セイジ -陸の魚-」のサウンドトラックである「ATAK017 Sacrifice」に続いて、
3作連続となる映画音楽のリリース。初音ミクを起用したボーカロイドオペラのパリ公演を控えた渋谷が語る、
2013年に聴かせる音とは──。

 

──
前作の杉本博司の作品は、映画のサウンドトラックとしてリリースされましたが、渋谷さんのオリジナルアルバムとしても聴き応えがありました。今回も同じようにオリジナルアルバムとしての精度が上がっている。杉本さんの場合サントラはピアノを中心とした楽曲が多く、より映画に寄ってましたよね。一方、本作はより自由度を増してつくられた印象です。
「2年前に作った映画音楽で、今回リリースにあたって大部分を作り直したんですが、作ってから時間が経っているので客観的に見られたんです。当時は物凄いスピードで作ったので、無意識が暴れていて面白い部分もたくさんあった。それを殺さないように、しかしかなりエディットしました。原型を留めていない曲もあるし、追加トラックもある。結果的に70分を超えていたりして、映画のサントラというより、ソロアルバムのようになった」
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2013年の現在において、エディットしていく中での発見があったり、渋谷さんの音楽の作り方が2年前とは明らかに違っているということでしょうか?
「こういう言い方は身も蓋もないけど、ドレミもノイズも両方あるのは素晴らしいなと思いますね(笑)。これはピアノとノイズもそうだけど、シンセサイザーもノイズとドレミを混ぜれるから面白いんですよね。こんなのは当たり前だけど。このアルバムでもノイズが鳴っているんだけれど、メロディーにも聴こえる。どっちを聞いているかわからない。それが今、面白いと思います」
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コンピュータのサウンドの質感の捉え方が、大人っぽくなっていますよね。単なるインパクトではなく、より深く効果的に使われている。絵画で言えば、シンプルで色数は少ないのだけれど、アブストラクトな中に強い印象を与える。
「確かに、音楽のフォームが新しい場合は特にフォーカスは重要なんです。じゃないと単に複雑なだけで面白くならない。このアルバムの2曲目と3曲目は新境地だと思っていて、音を重ねていないんですよね。常に一つの音しか鳴ってないんだけど、その音の情報量が高いからそう聴こえない。単旋律で進んでいく中に、すごく細かい音が入っている。例えばドンって鳴っている低音にカチカチいう音が混ざっていたりして、今までになかった作り方かな」

 

──
荒川さんの作品からの影響はありますか?
「荒川さんの映画に音を付けるわけだから、作品は改めて見たりしますよね。僕は高校生の頃から、荒川さんの大ファンだったんです。映画を作る少し前に初めてお会いして、映画音楽を作り始めた頃に突然亡くなってしまったんですが、初めてお会いした時は感激でした。『ATAK010 filmachine phonics』という僕のセカンドアルバムが出来たばっかりで、初対面なのにヘッドフォンを無理矢理つけて聴いてもらったら“わたしならこの音楽に対して後ろ歩きだけのダンスを作る!”とか言って突然、後ずさりされたりして、結構盛り上がったんです(笑)。荒川さんの作品は、色彩はあるけれどソリッド。それは音を作る上でも意識していて、そうしたほうがやっぱり映画と合うんですよね。あと、4曲目には少しメシアンのように聴こえる、『死なないための葬送曲』という曲があるのですが、それがメインテーマになるはずだったんです。でも、ちょうど映画のために音楽を作くり始めたときに荒川さんの訃報を聞いて、パートナーのマドリンの“Reversing Destiny Happen!(天命は反転した!)”っていうメッセージがTwitterで流れてきて、なんか感動したんですよね。ガーンとなったのね、渋谷の交差点かなんかだったと思うんだけど。それで家に帰ってアプライトピアノに向かったら自然に出てきたのがCDの1曲目で、こっちをメインテーマに変えたんです。なぜかコラールみたいなのが出てきて自分でもびっくりした」
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映画はストーリーがあり、物語の起伏がある。それに対して音楽のストーリー性はどのように意識していますか?
「基本的に、映画音楽は時間があまりないんですよね。めちゃくちゃ急いで、直感的につくるので、結果的に何にも似ていないモノができやすいのがいいんです。杉本さんのサントラの時もそうでしたが、その引き出される感じが面白いから、映画音楽は積極的に引き受けているとこともある。“いつかドローンだけで1枚アルバムを作ってください”とか、昔からのファンに言われたりするんだけど、とてもじゃないけど時間がない(笑)。でもこういう映画音楽にドローンとかノイズ、ミニマルの要素が入っているのはいいかなと思うんですよね。合ってれば実験的とかナントカっていう制約は関係ないから」
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この作品をエディットしながら、同時にTHE ENDもアップデートしていたんですよね? よりオリジナルアルバムに近づけていく作業とは異なり、THE ENDは自分らしさだけではないプロジェクトとして、映像や言葉などを含んだディレクションをしています。その対比はどう捉えているのでしょうか。
「大変だけれど、両方やることでバランスはいい。70分を超えるアルバムを2ヶ月続けてリリースするって、尋常じゃない体力がいるんだけど、精神的にはとてもヘルシー。どんどん自分が更新されていく感じがあります」