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THINK PIECE

FILTH

アーヴィン・ウェルシュ原作の映画最新作はクライムコメディー
最凶最悪刑事ブルース・ロバートソン参上

13 11/29 UP

photo: Kentaro Matsumoto text: Nagako Hayashi

90年代、世界のサブカルチャーを牽引した大ヒット青春映画『トレインスポッティング』の原作者アーヴィン・ウェルシュによる待望の映画化最新作『FILTH』。同小説は英国で98年、日本では99年に発表され、裏工作、ポルノ、売春、不倫、アルコール、コカイン、なんでもありの凶悪刑事ブルース・ロバートソンの卑劣なキャラクターと共に、彼の愛の喪失と絶望を「サナダムシ」に語らせるという手法で世界中の文学ファンを魅了した。映画では、人を陥れては自尊心を満たす、あまりにも最低な男の感情の機微を、主演ジェームズ・マカヴォイが怪演。日本公開に際し、初来日したウェルシュ氏に、ブルース・ロバートソンとは一体どんな男なのか、そのあまりにも強烈なキャラクターの誕生秘話を聞いた。

 

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ご自身の書かれた小説の中でも、一番映画化したかった作品が『FILTH』だったと伺っております。
「主人公のブルース・ロバートソンは、とんでもなくクレイジーな男で、彼の姿をスクリーンで見てみたかったんです。キャラクターにぴったり合った役者が演じれば、スペクタキュラーな映画になると思っていました」
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小説を書く上で、ブルースというキャラクターは先にできていたのでしょうか。それとも物語全体の構想があって、後から肉付けされていったのでしょうか。
「キャラクターが先ですね。だいたいいつもキャラクターが先で、その人物像を通じてストーリーが生まれます。話の中でブルースは悪事をたくさん働きますが、それは、奥さんと子供に逃げられた失意に反応した行動です。彼は自分を見失なっていて、そもそも奥さんと子供を失ったのは彼の行動のせいでもある」

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彼の職業を警察官にした理由は?
「(スコットランドの)警察は、伝統的、閉鎖的、階層的。また、人種差別的で、女性蔑視で、秘密主義的なところもある。フリーメーソンに入っている人もけっこういるしね。そこにいる人たちを家族のように守る役目を果たす時もあるので、組織の内部にいると、よほど酷い状態にならない限り守られてしまう。自分の問題と直面せずになあなあになって、気づいた時には本当に酷い状態になっている。つまり、汚職もあれば女性蔑視もある警察組織は、ブルースの精神的な崩壊のカムフラージュになっているんです。工場などもそうですが、男性社会にはキャンティーン(食堂)カルチャーと呼ばれる風潮がある。若い頃、私が工場に勤めていた時、女性は2人だけで彼女たちは食堂で働いていたのですが、男性たちは、女性に対して差別発言を繰り返し、非常に攻撃的な態度を取っていました。警察も同様だから、ブルースの性格が特に目立たないんです」

 

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ブルースのセックスや自慰行為は、性欲に基づいたものではなく、人の自尊心を傷つけ、自分の尊厳を守るための道具のように読めました。ブルースの卑怯で汚い加虐性についてはどのようなキャラクター付けをしたのでしょうか。
「彼は、自分自身に居心地良さを感じていない。セックスからあらゆる感情を切り離していて、人をあやつるツールとしか考えていないんです。なぜなら、彼には子供時代のトラウマがあるから。彼は人をコントロールしたがり、その結果、相手を追いつめる。そういう態度が妻をも遠ざけてしまう。これは人間の面白いところなんですが、間違いを犯す時、たいだい自分で墓穴を掘っている。でもやめられず、どんどん墓穴を掘り、人間関係を壊してしまうことが多いですね」

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自分の心と向き合わない。東洋には、自分の心を内観する思想がありますが、ブルースは、自分の心を内観したくないから、暴力的なセックスをしたり、人を陥れたりと、とにかく多動的に行動する人ですよね。
「一般的に、内省的なカルチャー、ツールは西洋の文化にはないですね。よく言われるのは、『自分の内側を見る』のではなく『外を見る』。人を見て、あいつに問題があると考えると、自分のせいにしなくて済む。ブルースもすべては人のせいで、自分に問題はないと考えている。自分の墓穴を掘るツールしか持っておらず、自分を省みる道具がない。西洋は、東洋よりナルシスティックだね」