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THINK PIECE

José Parlá

ルーツを強く持ちながら、常に独自の進歩を遂げるホセ・パルラ
かけがえのない場所、日本で描く“Haruichiban”

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photo: Shoichi Kajino text: Tetsuya Suzuki

ホセ・パルラの個展「PROSE」が東京で開催されている。
世界中を旅する中で訪れた街の壁からインスピレーションを受け、その土地の歴史、文化、
現代社会のエネルギー、人々の記憶や心理が宿る作品郡を創作し続けて来た。
キューバやインドを旅して、たどりついた日本で迎えた春。
滞在制作の壁画を描き上げるまでに至った彼自身の変遷とは。

 

──
今回のエキシビションでは力強さはそのままに残しつつも、これまでにはなかったカラフルでポジティブなイメージに溢れていると感じたのですが、何か心境の変化があったのでしょうか?
「おっしゃる通り、これまでは暗いイメージの作品が多かったのですが、今回はそれとは異なりますね。私はもともとストリートのカラフルなグラフィックアートに影響を受けてアートの世界に入ったのですが、父の死、そしてNYの街に住むようになったことで、スタジオで制作する際にはモノクロの作品ばかりを作ってきました。しかし、キューバやインドといった国を旅して各地の文化に触れたことで、自分の心境に変化が生まれてきたんです。今回キューバから直接東京に来たのですが、日本はちょうど春がスタートしたばかりの季節で、“春一番”という言葉を知りました。咲き誇る桜、清々しい春の陽射し、心地よい風、そして夜の東京のネオンが、キューバから持ち帰った私の感覚とミックスされ、新しい作品へのインスピレーションが湧いたのです」

Haru Ichiban / First Wind of Spring / Through the Tokyo Alleyways - Her Voice Sings.., 2013, 181.8 x 1591 cm

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ホセさんのパーソナルなストーリーが作品に反映されている一方で、ストリート・アートがファイン・アートとして評価されるようになったことなどのシーンの変化に影響を受けている部分もあるのではないでしょうか?
「私の作品自体にではなく、作品を見る人の目にその変化が影響を与えているのだと思います。確かにこの10~20年でストリート・アートが芸術として評価されるようになりましたが、それがあまりに肥大化したことでその作品の良し悪しに関わらず、ストリートのアートであるというだけで評価される状況になってしまっています。私が作品を作る上で大切にしているのは“初心忘れるべからず”ということで、自分のルーツを強く持ちながら、常に個人的な進歩を続けることなのです」

 

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今回のエキシビションにおいてホセさんはコンテンポラリー・アートのアーティストとしてプレゼンテーションされていますが、現在のアート・シーンではそれとは別に、よりシリアスで知的なゲームとしてのみ存在するシーンがあると思います。そこはホセさんの才能や作品とは相容れない場所だとは思うのですが、そういったアーティスト達とも比較されるステージにまで来ているのではないでしょうか?
「確かにコンテンポラリー・アートの世界ではたくさんのゲームが存在していて、様々な戦略を用いてアートを評価させようとする人達がいますが、私はアートに戦略を用いることが好きではありません。自分のルーツを大切にしながら作品を作り続け、あとは自然な流れに身を任せるべきだと思うのです。私は10年前にストリートを卒業し、以降スタジオでの制作に専念するようになったのですが、昨年JRというアーティストと共にハバナのストリートで作品を作るコラボレーションを行いました。そのプロジェクトがスタートするまでにはとても美しいストーリーがありましたし、事実そのエキシビションも素晴らしいものでした。また今回日本で展覧会を開催するまでにも、過去に何度も日本でアートやファッションのコラボレーションをしてきましたし、正しいタイミングが訪れるのを待っていました。そして、私が心からリスペクトする人達と共に、ようやく実現したものなのです。そこにしっかりとしたストーリーがあるからこそ、私の作品に触れる人達は余計な先入観を持たずに作品に向き合えるのだと思います」
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戦略的であることに反対だとおっしゃるのは、絵を買ってくれる人達はもちろん、ある感受性を持った世界中の人達に対して平等にメッセージを伝えているということですよね。
「アートだけでなく、何かを創るということは人に何かを“与える”ということです。ですが、ここでいう戦略的な人々は、与えるのではなく自分の利益のために“取り上げて”いるのだと思います。強欲にそれを続けてしまうと、シーンのバランスが崩れて、本来のクリエイティビティが失われてしまうのです。クリエーターは常に与え続ける側ですが、悪いものを与えてしまえばそこまでです。だから私はポジティブなものを与え続けて、先に進んでいくことに集中しているのです」

Pedestrian Ensemble, 2011, 182.9 x 354.8 cm