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THINK PIECE

恋の渦

恋心と下心が交錯し、本音と嘘が渦巻く群像劇。
大根仁監督インタビュー

13 9/13 UP

photo: Takehiro Goto text: Chiho Inoue edit: Madoka Hattori

部屋コンに集まった男女9人が、その夜を境に“ゲスでエロくておかしな恋愛模様”を繰り広げていく──
映画監督デビュー作『モテキ』が社会現象となり、その次回作も期待されていた大根仁の二作目は、
劇団ポツドールの主宰・三浦大輔の脚本・原作による『恋の渦』の映画化だった。
山本政志監督率いるワークショップ「シネマ☆インパクト」の一企画として制作された本作は、
自身のキャリア上初のインディーズ映画であったにも関わらず、
オーディトリウム渋谷で連日キャパオーバーの大ヒットとなり、現在は全国拡大上映中だ。
いまを切り取るヒットメーカー大根監督に、その制作秘話をたずねた。

 

──
ギャルとギャル男の恋愛模様を描いた青春群像劇を初めて観ました。原作は劇団ポツドールを主宰する三浦大輔さんの戯曲ですが、舞台をご覧になって、映画化したいと思われたのでしょうか。
「ずっと引き出しにしまっておいたという感じですね。10年前ぐらいにやっていた深夜ドラマ『劇団演技者。』というシリーズで、三浦くんのポツドール作品をドラマ化した流れで舞台を観て、『恋の渦』はすごく面白いなと思っていたんです。でも『劇団演技者。』はジャニーズの役者さんや有名どころがつねに出ていたので、それよりもポツドールの特性でもある役者の匿名性、つまり『知らない人だからこそリアル』っていう部分を踏襲したいと思っていて。ただ、なかなか無名の役者で撮る機会もない。今回ワークショップというかたちでつくるというオファーがあったので、それだったらいけるかなと考えて」
──
ワークショップというかたちをとった、自主映画なんですよね。
「ワークショップって普通、講師がやってきて稽古場で芝居のコツを教えるという、その場限りのものが多いですが、『シネマ☆インパクト』では、監督を呼んで一本の映画をつくって劇場公開するんです。普段はオレも講師とかワークショップ的なものはあまり好きじゃないし特に教えることもないから断っているんですけど、主宰している(映画監督の)山本(政志)さんからお話を聞いたらちゃんと映画を一本つくって公開するというので、それなら面白いなと思って引き受けたんです」

──
四日間で撮影したそうですね。驚きました。
「よく言われるんですけどね、『劇団演技者。』での経験値もあったので、単純に一日一部屋、計四日間あれば撮れるなと思いましたね。一週間ぐらい稽古して、あとは決まったシチュエーションで、カメラさえあれば撮れるんですよ」
──
なるほど。演劇っぽいのに、エンターテインメントとしての映画に仕上がっているのはさすがだなと思いました。同時に、前作の『モテキ』であれだけガンガン鳴っていた音がまったく鳴っていないことに、いい意味で裏切られました。最初の“部屋コン”のシーンで『ぷよぷよ』の音がうっすら聞こえているのもすごく生々しくて。
「初めは音楽を入れないとは考えていなくて、ただ、音楽をつけるお金もなかったんですけど、編集しながら『(音楽が)なくてもいけるな』と思ったんです。最終的にはインターミッション(『2時間後』などの字幕が入って映像が切り替わる)のところにブリッジ的に音を入れました。『モテキ』で初めて映画を撮って、幸いにもヒットして、いろんな人から『二作目は大事だよ』って言われましてね、『オレ映画監督じゃないしなぁ』なんて思いながらも、『次は違うことをやろう』と、どこかで意識していたかもしれないです。具体的に言うと、音楽はあまり使わないとか、派手な仕掛けはなしで演技だけにするとか、なるべく最小限のロケーションでいこうとか。今回は、外ロケすらないですからね」

 

──
“深夜バスで地元に帰る”みたいなシーンも外を映すわけでもなく、どこへ帰るのかすらわからない。けれど、新宿あたりに住んでいて数時間で到着するなら山梨かな、静岡かな……なんて想像するのも面白くて。見せないことがかえってリアルでした。
「惜しい、長野あたりですかね(笑)。もともとの舞台の設定が四つの部屋だけだというのもありますけど、まぁ普通だったら映像化する際に移動経路は描きますよね。電車に乗っていたり、走っていたりとか。時間的な制約があるということもあったんですけど、台本がしっかりしているので敢えてそこは見せないことで距離感とか、東京の土地勘がある人だったらどの駅のあたりに住んでいるのかみたいなことは想像してもらったほうがいいかなと」
──
オリジナルの舞台を拝見していないのですが、映像化にあたって大根さんらしい演出をどんなところに効かせていったのかも気になりました。サトミが下着のままうろうろしながら何度もお尻を掻いていたところとか(笑)。
「そこは別に得意技ではないですよ(笑)。オリジナルでは部屋着のショーパンみたいなものを履いているんですけど、同棲カップルって下着でうろうろしたりするかと思って。女の子はよくお尻を掻くしなぁとか……」
──
あと、衣装もよかったです。
「オレは自主映画にあまり詳しくないですけど、お金がないから普段着で普段のテンションで喋って、友だちの家借りて撮影してみたいな貧乏臭いことは嫌で、少なくともお金をとって人様に見せるんだったならせめて役になりきるとか、部屋の飾りをちゃんとするとか、そういうことは意識しました。役者たちとみんなで『メンズナックル』を見て勉強したり。衣装は知り合いの女の子や伊賀(大介)くんに借りたりもしましたが、女の子たちがショップ店員という設定だったので、自分でルミネに買いに行ったりして。上から下まで7,800円で揃っちゃうんです。びっくりしました」