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THINK PIECE

THA BLUE HERB "PRAYERS"

東北の被災地3箇所でのライブツアー収めた映像作品。

13 8/9 UP

photo: Kentaro Matsumoto text: yk

3.11以降にTHA BLUE HERBが抱えていた想いを込めたアルバム「TOTAL」のリリース後、
ライブを重ねることでさらに磨きがかけられた曲達を携え敢行された“CAN'T STOP TALKING TOUR”。
宮古・大船渡・石巻を巡るライブツアーでの様子を収めた映像作品“PRAYERS”では、
圧巻のライブ映像はもちろん、被災地の現在の街並み、
そして人々と実際に言葉を交わすTHA BLUE HERBの姿が収められている。

 

──
今回の“CAN'T STOP TALKING TOUR”のきっかけとなっている“東北ライブハウス大作戦”とはどういったものなのでしょうか?
「長年パンクやバンド・シーンを支えてきたミュージシャンやライブハウスのスタッフやPAの人達が集まって、被災地にライブハウスを作ろうというプロジェクトだね。震災後の早い時期からスタートしていて、自分たちで土地を押さえて内装もやって、イチからライブハウスを作り上げていったんだ。俺たちは実際に完成してから知ったことなんだけどね」
──
BOSSさんが実際に被災地に訪れたのは、今回のツアーが初めてだったのですか?
「震災の100日後に仙台でクラムボンのライブに参加したことがあって、その時に一度だけ石巻に行ったよ。当時はまだ街全体が崩壊して、至る所で煙がくすぶっている状態だったけれど、今はもう全て片付けられて更地になっていた。ガランとした空洞感が広がっていて、震災後間もない時期とはまた異なる痛みを感じたよ」
──
DISC1に収められていた前半部分のオフショットでは、意外とリラックスした表情がうかがえましたね。
「いつもと変わらない感じでいられたのは空港を降りてから宮古に着くまでだけだね。そこから先、目の前の景色と被災地の現実を目の当たりにして追い詰められていったんだ」
──
収録されているライブ映像からは集まったお客さんの熱気や想いといったものがストレートに伝わってきましたが、BOSSさんは実際にステージで何を感じていましたか?
「震災から2年目の最初の週末というタイミングで、大音量で音楽を鳴らしたり、人によってはお酒を飲んで楽しんだりということが、果たして正しいのかという恐れがあったよ。お客さん達はその重みを俺らなんかよりずっと強く認識しているわけだからね。そんな中でも来てくれたお客さんが心底あがってくれているところをステージから見て、本当に救われた気分だったよ。現地の人達の器の大きさのおかげで、なんとかライブを成功させられたんだ」

 

──
ある人に“せっかく来たんだから遠慮するな”と言われたことで吹っ切れたとおっしゃっていたシーンが印象的だったのですが、やはり被災地の方に直接的な言葉を投げかけることに対する恐怖があったのでしょうか?
「間違いなくあったよ。実際に行ってみないとどんな人がいるのか、どんな状況なのかは分からないけど、ライブの前はそのことを想像しながらセットを組まなくてはならないからね。今回俺は少し遠回しな伝え方を考えていたんだけど、”遠慮するな”と言われたことで、もっとお客さんとの距離を近くに感じて、直接的な言葉を投げかけなければ逆に失礼だと思えるようになった。皆が色んなことを思い出してしまっている時期に俺らが遠回しな表現をしたって何も伝わらないと思ったんだよ。そもそもライブって一時間五十分しかないから、その限られた時間の中でどれだけお客さんの心に訴えかけられるかって考えたら、直接的な方が話は早いよね」

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今回のツアーでは高校生以下に対して特別料金を設定されていましたが、この試みにはどういった狙いがあったのですか?
「現地のライブハウス側に提案されたアイデアなんだけど、被災されて、ハードな状況で生活をしている人に年齢なんて関係ないと思ったんだ。皆同じだけの悲しみを背負っているわけだからさ。今回は俺らが伝えたいことを、世代問わずできるだけ多くの人に届けたいと思ったから企画したんだよ」
──
LIVE後に高校生にインタビューをするシーンでは、うまく言葉には表せないけれどとにかくヤバいものを観たという、高校生ならではの正直な感想が収められていて、被災地の未来への希望を感じさせる、今回の作品の中でもハイライトの一つだと感じました。
「俺もすごく好きなシーンだね。俺も今年42歳になるし、今の高校生が日頃持っている感情を代弁して歌っているわけじゃないんだよ。17、18歳の高校生の感情と42歳のラッパーが書くリリックがリンクする部分を作るのは相当難しいし、それは今の20代のラッパーがやればいいことだと思う。でもさっきも言った通り、震災で家や家族を失った方々の心情に年齢なんて関係ないからさ。実際このツアーでライブをやっている時も、若い人に向けてとかではなくて年齢関係無しに言葉を発していたんだ。だから終わった後映像を観て、彼らの感想を聞いて、本当に驚いたし嬉しかったね。まさか彼らにも分かってもらえるとは思っていなかったし、俺らの音楽から高校生が人生を生きる上での何かしらのヒントを得るなんて生まれてこの方考えもしなかったことだからさ。そこで逆に、これまでの俺自身の考えの未熟さと器の小ささを知ったよ。でもとにかく嬉しかった。このシーンに関しては監督とも話していたんだけど、本当に未来を感じる良いシーンだよね」