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Photo:HEDI SLIMANE
text: Shoichi Kajino
2012年、サンローランのクリエイティブ・ディレクターとしてモードの世界に華々しくカムバックして以降も熱い支持を受け続けるエディ・スリマン。彼がディオール オムを手がけていた時期からファッションと並行してのめり込んでいたのが写真という表現だ。
殊にエディのインスピレーション・ソースともいえる音楽のあるシーンをキャプチャーした作品、あるいはアーティスト自体を被写体に捉えたポートレート作品は、高い評価を得てきた。
「SAINT LAURENT MUSIC PROJECT」と掲げたキャンペーンでは、ダフト・パンク、ベック、マリリン・マンソンら、エディ自身がサンローランをまとったミュージシャンを撮り続けているのも話題だ。
現在イヴ・サンローラン=ピエール・ベルジェ財団で開催中の「SONIC」と題された展覧会では、文字通り、そんなフォトグラファーとしてのエディ・スリマンのこの2003年から2014年の音楽的側面からの写真をまとめて回顧する。2003年から2007年のロンドン、そして2007年から2014年のカリフォルニアとふたつのパートに仕切られた会場にコンパクトに並ぶポートレートとシーンの数々。
ルー・リード、ジョン・ライドン、ジェリー・リー・ルイス、ブライアン・ウィルソンにキース・リチャーズといったレジェンド(ルー・リードは彼の死のほんの数ヶ月前の姿を捉えている)もいれば、クリストファー・オウエンス、ガーデンズのシアーズ兄弟、そしてピート・ドハーティといったおなじみエディのミューズとも言えるアーティストのポートレート。
まだインディペンデントでその名を知る人も多くないアーティストや、ライヴやフェス会場でのオーディエンスにフォーカスしたものもあれば、エディが心酔するカセット・レーベル「BURGER RECORDS」のスタジオを切り取ったようなものまでが渾然一体としながらも整然と並べられているのが面白い。
エディの切り取るコントラストの強いモノクロームのフレームの中には、アーティストの一瞬の表情やそのシーンが、音とともに閉じ込められているようである。
さらに会場の奥にはスライドショーのコーナーがあり、こちらもロンドン・サイドとカリフォルニア・サイド、2つの大きな壁にエディの撮った写真が延々と流れ続けている。その色のないモノクロームな静寂の中に何時間でも滞在していられるような気になってしまう。
この展覧会「SONIC」が、これまでパリでの彼の所属するギャラリーAlmine Rechでの数々の展覧会、あるいは2011年、ロサンゼルス、MOCAで行われた「California Song」と圧倒的に異なるのは、これまでの活動を俯瞰するようなレトロスペクティヴな意味合いを持っているという点。さらには、エディをクリエイティブ・ディレクターとして迎えたイヴ・サンローラン、ピエール・ベルジェがこの展覧会の機会を作っているという点であろう。
ショーのフロントローで、いつも鋭い目でランウェイを見つめているベルジェ氏の視線の先、メゾンの全てを一任したそのか細い背中に、かつてのイヴの姿を重ね合わせていることだろう。
モードにおいて完全な独走を続ける孤高のカリスマ、エディ・スリマンが、黙々とファインダーをのぞいて切り取ってきた作品の集積には圧倒的な説得力がある。それは、そこに切り取られた数々のイメージが、そのままインスピレーションとしてファッションへと直結し、反映されているからに違いない。
この「SONIC」は一冊の写真集にもまとめられている。
展覧会場と写真集、併せてエディ・スリマンの力強い白と黒の世界を味わってほしいと思う。
日時:2014年9月18日~2015年1月11日
会場:FONDATION PIERRE BERGÉ YVES SAINT LAURENT
http://www.fondation-pb-ysl.net