14 10/7 UP
Photo:Takehiro Goto
Text:Arina Tsukada
イラストレーションの領域を飛び越え、世界を股にかける画家へと変貌を遂げた五木田智央。
現在、自身初となるDIC川村記念美術館での企画展『THE GREAT CIRCUS』が開催中だ。
この展覧会は五木田の経歴を一新するばかりでなく、日本のアートシーンにとっても重要な位置付けとなることだろう。
なぜなら、世界に匹敵する日本人アーティストとしてこれまでとは全く異なる文脈を提示できる可能性があるからだ。
絵画で時代を更新していく、五木田の類まれなる才能に迫った。
五木田智央という人物は、おそらくこの10年で最も希有な発展を遂げた画家である。90年代にはサブカルチャーのシーンと深く交わり、CDジャケットからTシャツなどの多様なイラストレーションを手がける人気クリエイターのひとりだった。その時代を知る人々からすれば、彼が海外のギャラリーを飛び回り、そして現在、DIC川村記念美術館で史上稀なる企画展が開催されるという事実に驚くかもしれない。しかし、展覧会場に一歩足を踏み入れれば、自ずとその理由がわかってくるはずだ。
DIC川村記念美術館といえば、抽象絵画の大家マーク・ロスコの部屋を持つことでも知られ、パブロ・ピカソ、マルク・シャガールからフランク・ステラに至る多彩なコレクションを有する美術館。ここで、まだ40代の五木田に白羽の矢が立ったのは美術館史上かつてない異例の事態だ。しかし、キュレーター(学芸課長)の鈴木尊志は、2012年に同館で開催されたグループ展『抽象と形態』(2012年)で初めて五木田作品を展示したときから、彼の可能性を確信していたという。
「“具象と抽象”という相矛盾する表現にフォーカスしたとき、五木田さんの絵画が果たしていた圧倒的なイメージに目を見張るものがあったんです。抽象的な空間から現前する形態の力強さやその偶然性は、五木田さんがイラストレーターとして活躍していた背景からも、絵画における様々な領域を横断するものだと感じました」
今回のために制作された11点の新作は、これまでの五木田の絵画を更に革新するものだった。モノクロームのアクリルガッシュで描かれたこれらの連作は、50号(116.7×116.7cm)の正方形キャンバスを、描く度に90度や180度ずつ回転させ、天地を常にひっくり返しながら同時進行で描いていったという。こうして生まれた具象と抽象の狭間を行き交うイメージは、まるで夢の中に迷い込んだかのごとく、それぞれのカタチや空気のようなものが浮遊し、互いに共鳴し合うような空間性を内包している。また《やさしい妖怪》や《風船小僧》など、初めて日本語で付けたという個々の作品タイトルには五木田得意のユーモアに溢れている。
今回は五木田の名を海外に知らしめた国内未発表作品も多数紹介されている。中には2003年にNYのATM Galleryで小さなグループ展に出品した際に一躍注目を集めた作品もある。当時は日本のコミックやサブカルチャーの文脈が強い展覧会だったというが、五木田の絵だけが強烈な異彩を放ち、即座に複数のギャラリーから声がかかるようになった。それから10年経った今年1月、五木田が10代の頃に強い影響を受けたニューペインティングの作家たち——ジャン・ミシェル・バスキアやジュリアン・シュナーベルらを輩出した伝説をもつMary Boone Galleryで念願の個展を開催し、見事に出品作17点すべてが完売するという快挙を成し遂げた。