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THINK PIECE

EDEN/エデン

90年代、パリのクラブシーンで夢を追いかけた若きDJの物語。
瀧見憲司と梶野彰一に訊く、本作の見どころ

15 9/10 UP

photo: Kentaro Matsumoto
interview: Tetsuya Suzuki
text: Aika Kawada

“フレンチタッチ”のムーブメントとともに、最高潮の盛り上がりを見せていた、90年代パリ クラブシーン。
その中で、ダンス ミュージックにのめり込み、情熱を燃やし続けた1人の若きDJポールの20年間を追った映画『EDEN』
が、日本で公開された。脚本を手がけたミア=ハンセン・ラヴ監督の実兄で、当時DJとして活躍していた、
スヴェン=ハンセン・ラヴの実体験に基づいて制作された本作は、1本の青春映画であるとともに、パリの音楽シーンを
ベースにしたノンフィクション的な要素も散りばめられている。そんな本作の見どころを、
オルタナティヴ ディスコ シーンにおけるパイオニア的存在であり、DJとして活躍を続ける瀧見憲司と、
90年代末以降のフレンチ タッチのフィーバーを現地パリで体感し、そのシーンに精通する梶野彰一とともに、リプレイ。

 

──
まず、ご覧になってみていかがでしたか。
梶野彰一(以下K)
「本作は、音楽が時系列を辿るわけですが、最後の場面でDaft Punkのアルバム『Random Access Memories』(2013年)の曲がかかることからも気付かされるように、つい最近のことまでを描いていますよね。そこに、現実味というかシーンが現在進行形であることを感じましたストーリーは1996年にシャンゼリゼにあるクラブQUEENで始まったパーティ、RESPECTが中心となって進行するのですが、そこは確かにフレンチタッチの温床ではあったと思います。ただ、この映画の主人公のポールが追求するサウンドは、いわゆるフレンチ タッチと呼ばれる流れからは少し外れていますよね」
瀧見憲司(以下T)
「フレンチ タッチというより、ガラージとDJの生態のディティールに異常にこだわっている。その辺りの視点と偏執狂な感じが面白いというか、完全にクラブ、ダンス映画版『戦争のはらわた』(1976年)ですよ。フィクションとノンフィクションが入れ子状態で、実際にあったことと映画が伝えようとする世界観がリアリティのある高いレベルで融合しているし、使われている音楽とシーンのシンクロ具合が音楽の中身と完全に多重構造になっていて、音楽が活きている映画だなと思いますね」

K
「90年代当時のクラブは、パリだけではなく全世界的に本作の雰囲気があったんではないでしょうか。もちろん日本も含めて。でも、徐々にパリには特有のシーン、ムーブメントができてきて、その結果、フレンチ タッチと呼ばれるジャンルが生まれたと思います」
──
お二人も東京での「当事者」であった90年代音楽シーンが舞台なわけですが、作中の世界観にこれだけリアリティを感じる作品は珍しいのではないですか。

 

フェリックス・ド・ジヴリ扮する、主人公のポール

パリ郊外で行われる、レイヴ パーティの様子

 

T
「スヴェン・ラヴは、普通の映画にはないようなマニアックすぎるDJの“あるある”を数多く盛り込んでいて、音楽とクラブシーンの相関関係をあまりにリアルに描いていると思いました。ある時代風俗としてのディスコやクラブ、パーティを取りあげた映画は、例えば『サタデー・ナイト・フィーバー』(77年)を始め、『クラッシュ・グルーブ』(85年)や『54 フィフティ★フォー』(98年)などがあるけれど、ここまでDJにフォーカスした作品は今までなかったと思う」
K
「『24アワー・パーティ・ピープル』(02年)︎や『トレイン・スポッティング』(96年)とかもですよね」
──
よく映画で出てくるクラブとは、描き方が明らかに違いますよね。「犯罪の温床的」なやたら危険な場所の設定だったり、逆に物凄く華やかな世界として描かれたり。
T
「シーンとしては、表層的な感じで登場人物に事件が起こる前の前振りがパターンですよね。『スプリング・ブレイカーズ』(13年)は、
今のアメリカのティーンにとってのサード サマー オブ ラブの姿をリアルに描いているとは思うけど、本作は本来のクラブカルチャーにフォーカスした映画で、DJに対する捉え方が的格だと思います」
──
特にどういったところで感じましたか。
T
「例えば中盤でJoe Smoothの『Promised Land』をDJがかけるとき、ターンテーブルを指で押してピッチを合わせるところにフォーカスしていて、そことかは明らかですよね。映画では、普通そこまでさせないと思いますが、監督が何を撮りたいか明確に意図が出ていましたね」
K
「なるほど。きっと、助監督のようにスヴェン・ラヴが現場にいて、演技指導をしたのかもしれませんね」
──
事実に基づき、当時のシーンを魅力的に描いています、けれど、決して美化しすぎていない。

 

パリのシャンゼリゼにあるクラブ、Queenで撮影された"Respect"のパーティ シーン

 

K
「登場人物たちのキャラクターやストーリーのリアルさにはドキュメンタリー的な要素もありますよね。撮影自体も、実際のクラブや登場人物の実際の住まいで当時の様子を再現して撮影をしたそうです。むしろ、“フィクション”という意味では、シャンゼリゼにある“QUEEN”というクラブが当時のフレンチタッチの中心であって、撮影も実際にそこを使っているのですが、映画では、なぜか“KING”という名前になっているんです。裏でドラッグをやっているシーンがあるので、名前の使用許可を取れなかったのかな(笑)」
T
「『8Mile』(02年)みたいに頑張って成功した!みたいなカタルシスはないしね(笑)」
──
本作は2つのパートで構成されていますが、第1部「PARADISE GARAGE」で、印象に残ったシーンとかありますか。
T
「オープニングのシーンで、『Sueno Latino』が流れるのですが、この曲は永遠に終わらない、終わりの始まりを象徴するトラックで、ここにこの曲が置かれることで、映画自体の構造がクラブの

パーティ後の朝、川縁を歩き帰宅するポールと友人

一晩になっている事を示唆していることと映画のトーンを決定づけていて、完全に引き込まれました。それに続く、ポールが朝、川べりを友人たちと家に帰るシーンで、カメラが後ろから少し高い位置で沿っていくシークエンスで、万感の思いがこみ上げるんです。クラブ行った人なら、誰もがわかる、パーティ後の朝の雰囲気がパーフェクトにそこにあって」
K
「そう。『Sueno Latino』がかかる中で、『EDEN』というタイトルが浮かび上がった瞬間、軽く鳥肌が立って、映画の世界にぐっと引き込まれました」
T
「その前のポールが森の中で一人でいるシーンとかもいいよね。音楽と向き合う姿が。こういう瞬間あるよなって。この映画のテーマが“孤独と時間”だということもわかるし」
K
「音楽と人のリンクということですね。おそらくは『One More Time』がかかる辺りが第1部のクライマックスではあるけれど、僕も、オープニングの朝のシーンが印象的でした。クラブ帰りの寒いパリの朝を思い出します」

ガラージの本場ニューヨークの郊外に位置する、NY MOMA PS1でのパーティ

 

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