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THINK PIECE

FPM『Moments』

FPMデビュー20周年を記念した、3枚組ベストアルバム。

15 10/20 UP

photo: Erina Fujiwara
interview: Tetsuya Suzuki

2015年9月30日でデビュー20周年を迎えた、DJ/プロデューサー田中知之によるソロ・プロジェクト
FPM(Fantastic Plastic Machine)。それを記念し発売されたベストアルバム『Moments』は、近年の avex 楽曲は
もちろんのこと、デビュー期であるコロムビア時代の楽曲も多数収録した3枚組。朝でも夜でも、雨でも晴天でも、
リビングでもベッドルームでも、そしてドライブでもパーティでも…あらゆるシーンに対応する全 45 曲が
3つの異なるテーマに分かれてコンパイルされた、FPMの20年に渡る活動の軌跡。

 

──
今回の20周年のベスト盤で、FPMとしてのキャリアの一区切りがついたという気持ちはありますか?
「自分はこの20年間、平日はスタジオに篭って自分の曲や人の曲、CM曲などのレコーディングスケジュールをこなし、週末には全国各地でDJをするという、毎日変わらない生活をしています。なので、時間の流れについては日々まったく考えなかったので、スタッフから『この日で20周年なんですよ』と言われてはじめて振り返ったという感覚です。特にダンストラックのクリエイターの場合、過去に執着するのは時に負のパワーをもたらすものだと思っているので。過去を捨てていきながらでないと前に進めないと自分にも思い込ませるようにしていたんですが、FPMってそもそも、単に時代感を反映した最新鋭のトラックだけを狙って作ってきたわけじゃなくて、自分が過去に様々な音楽から受けた恩恵をお返しする場でもあったんです。誕生の瞬間からそのように特異だったからこそ、20年もやってこれたんだと思います。ポップに振り切ることも、アンダーグラウンドにダンスミュージックに特化することもあえてしなかったからこそ、FPMが今も存在していて、まだまだやれることがあるんじゃないかという気になったんです。正直、この20年を3枚のアルバムにまとめたら、もう辞めてもいいんじゃないかという考えもあったりしたんですが、逆におかしな自信を得て、その作業自体から今後へのポジティブなパワーが生まれました」
──
ベスト盤の3枚には”Alone”、”Rapture”、”Lust”というテーマが設けられていますね。

「FPMって、いい意味でも悪い意味でも芸風がいっぱいあるんです。作りたいものを作りたいままに作ってきたので、自分が出してきたオリジナルアルバムはどれも、アルバム内で振れ幅が大きい。このベスト盤のように、ひとつのテーマにしたがってFPMのアルバムとしてまとめあげるということが初めてだったので、一つのチャレンジでもあったのですが、意外にすらすらと選曲できて違和感はありませんでしたね。名前自体にプラスチックやマシーンという言葉が入っているくらい、FPMは人工的で、架空の存在です。つまり、ナチュラルに自分から出てくる音楽をまとめあげた存在ではない。FPMという虚像に対して僕ないし共同制作者がアプローチし、虚像を実像に変えるという作業の歴史がこの20年でした。決して、シンガーソングライターのように内から出る音を紡いで内なる叫びを音楽に変換しました、というものではないわけです」

 

──
ダンスミュージックはその時々のトレンドを意識せざるを得ませんが、その一方で貫き通してきた、普遍的なFPMらしさとは何でしょうか?
「FPMらしさは結果的に現れてくるものです。ダンスミュージックは本来自由なもので、ダンスという機能だけがお題としてあり、それが足枷でもモチベーションでもあるのですが、他には何にも制約されずに音を作ることができます。僕が理想とするダンスミュージッククリエイターの姿は、スタジオでの実験によって誰もやっていなかった風合いの音楽を作ること。

FPMでは、『もっと違う音出したい』、『いままで僕がレコード屋さんで聴いたことのないようなものを生み出したい』という点のみに情熱を注いできました。現在のダンスミュージックのシーンでは、あの大ヒット曲を作ったEDMのプロデューサーさんの使用機材はこれです、それのパラメーターはこれです、みなさんこれに負けないような楽曲をこれで作りましょうみたいな感じで、EDMをはじめとしたワールドスタンダードのフォーマットに対してどれだけアプローチできるかという点のみにクリエイティブなエネルギーが注がれている。ダンスミュージックの世界はいま、そのように非常に閑散たる状況なわけです。例えばbeatportを覗いて、エレクトロハウスのジャンル(多くのEDMのトラックがこのジャンルに含まれている)のベスト100を一曲目から試聴していくと、全部同じ人が作った同じアルバムの中の曲なのかっていうくらい。正直ここ15年くらい、ダンスミュージックに大きな革命は起きていないし、ダンスミュージックを自分の唯一のお題にしてやっているFPMってバカじゃないのって思うことがあるんです。ダンスミュージックから抜け出したら、面白い音楽って世の中にいっぱいあるじゃないですか。ダンスミュージック以外からは自由なアーティストが結構出てくるし、ダンスミュージックの足枷が外れた瞬間に成功するアーティストもたくさん出てくる中で、ダンスミュージックを作ることが自分にとっていいことなのか考えたことは何度もあります」