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THINK PIECE

菅付雅信『物欲なき世界』

早くも増刷決定!! 『物欲なき世界』を通して考える
消費が飽和した後の世界

15 11/10 UP

photo: Shoichi Kajino
interview: Tetsuya Suzuki
text: Kohei Onuki

出版からウェブ、広告、展覧会までの編集をはじめ、『東京の編集』『はじめての編集』『中身化する社会』
などの著書で知られる編集者、菅付雅信。その彼が新刊『物欲なき世界』を発売した。
先進都市の人々の物欲がなくなる中、世界はどのように変わり、そして生き方はどのように変わるのか?
消費が飽和した後に来る世界を内外の取材と圧倒的な情報量で描き、
発売前にしてアマゾンの本の売れ筋にランクインし、早くも増刷が決定した話題の一冊。
その『物欲なき世界』を通して考える、消費が飽和した後の世界。

 

──
ソーシャルメディアの普及により、商品やサービス、そして人までも、その「中身」が可視化されてしまう社会で、人々が見栄や無駄なことにお金や時間を使わなくなり、衣食住すべてにおいて本質を追求するようになる社会を描いた前作『中身化する社会』。その前作のテーマを、より掘り下げたものが今作『物欲なき世界』なのでしょうか。
「基本的には前作の拡大発展版です。前作を書く中で、今作のテーマが見えてきました。先進国では、人々がファッションにかけるお金が減少している。それは明快なデータとして示されています。そこでよくよく調べてみると、ファッションに限らず、クルマなど、見た目に分かりやすいものに使われるお金が減る一方で、先進国の特に都市部では、住居費や食費が上昇しています。ファッションやクルマの消費の落ち込みは、景気後退の影響だけではなくて、『目に見えて分かりやすいものを消費することで得られる喜び、幸せに疑問を感じている』という、消費に対するマインドリセットが起きていて、さらに、資本主義の経済システムは人々に消費を要請するわけですが、その資本主義の構造自体が疲弊してきた、制度疲労を起こしてきたのではないか、と思いこの本を書きました」
──
前半では、ファッション誌が「ライフスタイル」という言葉を、またアパレルメーカーがライフスタイル関連商品をこぞって打ち出しているのは、人々の消費マインドの変化の象徴である、と書かれています。また、後半では、資本主義自体の制度疲労が「物欲なき世界」の消費マインドに結びついている、と書かれている。「ライフスタイル」という言葉に象徴される消費者心理の変化を菅付さんは先ず感じたわけですね。

「はい。特に流通業界の現場では、人々の消費マインドが反映されるスピードが速いですよね。例えば、ファッション業界の勘のいい人たちは、衣類が消費の柱ではなくなるから、『ライフスタイル』を商品として打ち出しています。『ファッションそのものが時代の最先端を表している』という人たちもいますが、みんなが服のデザインに気を使わない現在の状況で、『ファッションが時代の先端を表している』とは言いにくいです」
──
「ライフスタイル」を「脱ファッション」と考えた時に、考え方は二つあると思います。一つは、売るものが変化しただけで、商売の方法は変わらない。例えば、「ライフスタイル」「ロハス」「スローライフ」「サードウェーブ」といわれるようなものに関連するものが「流行」として消費されるだけ、という。また一方で、「ライフスタイルは消費されるものではない」という考え方もあると思います。菅付さんは現在の日本で「ライフスタイル」という言葉がどのような意味を持ち、浸透していくと思いますか。

 

「『ライフスタイル』という言葉は便利ではありますが、漠然としていますよね。流通業界が飲食や生活用品に力を入れて、『ライフスタイルビジネス化』しているのは事実です。しかしながら、『ライフスタイルを商売にするとはどういうことなの?』という考え方も確かにあります。商域が非常に曖昧ですし、企業と消費者の関係においても、どこでお金のやり取りが発生して、どこでお金のやり取りが発生しない、という点も曖昧です。例えば、この本で取材をさせていただいたビームスの設楽社長は『これからビームスが売るのはコミュニティ』だと話しています。ビームスの商業施設やECサイト、イベント……そのコミュニティのどこかで消費者がお金を払ってくれればいい、と。それはビームスの雑貨なのか、飲食店なのか、イベントなのか、分かりませんが、『ライフスタイル』をマネタイズする方法は色々とあるわけですね」
──
とはいえ、サービスが多岐に渡ると、ひとつの事業としてのコントロールが難しいのでは。ライフスタイルをビジネスにすることは容易ではないとも感じられます。
「確かにそうですね。ただ、流通業界がライフスタイルを打ち出しているのは、消費社会が最終段階に突入したと表れだ、とも思います」
──
この本では、経済のあり方が10年後、20年後には、全く違うものになろうとしている中で、そのとき「人々の幸せとは何か?」というテーマも浮かんできます。「人々の幸せ」とは普遍的なものかもしれないし、時代により異なるのかもしれしれませんが、菅付さんは、今後「人々の幸せ」はどのように変化していくと思いますか。