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THINK PIECE

Éditions M.R

生粋のパリジャンが提案する、エレガントなバッドボーイのアティチュード

16 6/21 UP

photo: Shoichi Kajino
interview: Tetsuya Suzuki
text: Ryu Nakaoka

MELINDAGLOSS(メリンダグロス)からブランド名を変更し、初めてのシーズンとなる2016年秋冬コレクションを
発表したÉditions M.R(エディションズ エムアール)。デザイナーのマティユ・ドゥ・メノンヴィルと
レミ・ドゥ・ラキャンターヌは、ブランドの新たなスタートにあわせて、歴史ある家系に生まれた自分たちのルーツや、
影響を受けてきた50〜70年代のカルチャーを一冊のコンセプトブックとしてまとめたという。
そして築き上げられたコレクションは、ノンシャランでセクシー、デカダンな“パリの伝統的カジュアル”。
彼らの考えるリアルなパリジャンのアティチュードとは。

 

──
Éditions M.Rとして初めてのコレクションですが、ブランド名が変わったきっかけは何でしょう。
マティユ・ドゥ・メノンヴィル(以下、M)
「以前のブランド名、MELINDAGLOSSは架空の女性の名前なのですが、詩的で、少しおもしろみのあるところが気に入っていました。しかし、メンズブランドなのに女性の名前であるというこのユーモアは、フランスをはじめとしたヨーロッパ諸国、東京では受け入れられたものの、北米あるいはファッション業界の外からは理解を得るのが難しかったのです。ブランドが成長し、これまでより広い範囲の顧客にリーチしたいと思ったとき、簡単に理解ができる名前である必要性を感じました」
──
それでは、Éditions M.R というブランド名に込められたテーマやコンセプトについて教えてください。
M
「もちろん、MはMathieu(マティユ)、RはRémi(レミ)のイニシャルです。Éditionsと名付けたのには二つの理由があります。一つはパーフェクトなメンズワードローブをedit(編集)するプロセスが私たちのクリエイションであるから。クレイジーなデザインではなく、リアルでベストなアイテムを揃えるのがこのブランドです。もう一つは、ファッションだけでなく、自分たちの好きな音楽、映画、本など、様々な要素を“編集”し、表現していきたいと考えたからです」

──
MELINDAGLOSSの頃から、伝統的なアッパークラスのカジュアルスタイルをモダンにアップデートするのがお二人のクリエイションのテーマだと思いますが、現在のメンズファッションの世界で“ベーシックなカジュアル”をブランドのアイデンティティとするのは、難しいのではないでしょうか。そんななか、Éditions M.Rがアピールしているのはどういったポイントでしょう。
M
「他との違いは、まずプロダクトそれ自体。ベーシックであったとしても、シェイプやディテール、ファブリックなどをこだわり抜き、基本的にフランスで生産しています。さらにブランドを取り巻くストーリーです。何かを買うとき、商品だけでなくその背景も重要であり、商品を選ぶことはストーリーを選ぶことでもありますよね。Éditions M.Rには私たちのパーソナリティが反映されており、プロダクトのすべてのディテールがストーリーを語っているのです。こうしたストーリー性をファッションとは別のかたちで表現したいと考え、昨年秋にオンラインのエディトリアルプラットフォーム『Chambre 42』を立ち上げました。ここで行っているのは、映画や文学、写真などといった文化産業に従事している私たちのコミュニティ内の人々とのコラボレーションです。毎月、気になるアーティストや映画監督、作家などを呼んで1時間ほどインタビューし、4分間の映像にまとめて公開しています」

 

レミ・ドゥ・ラキャンターヌ(以下、R)
「時を経ても残っていく、ベストなベーシックを作りたいと考えています。激しいデザインが施されて、実際に着ることから遠ざかってしまうような服は作りたくないのです。プロダクトとしてリアリティを保ちながら、ストーリーの部分でファンタジーを込めています」
──
今回のコレクションの背景には、どういったストーリーがあるのでしょう。
M
「『Chambre 42』での最初のインタビューの際、私とレミはサン=ジェルマン=デ=プレにあるホテルの42号室でコニャックを飲みながらゲストを待っていました。そのときふと、ホテルで生活するということにとても強いインスピレーションを受けたのです。“必要なものものすべてが入ったかけがえのない一つのスーツケース”というアイデアから、コレクションを構想しました」

Éditions M.R 2016年秋冬コレクション

「Chambre 42」のインタビュー動画コンテンツ

R
「コレクションの中にバスローブのようなコートがあるのですが、これは外でも家の中でも着ることができるものです。昔の映画にはバスローブを羽織って外に煙草を買いに行くというシーンがよくありますが、このアイテムはそうしたシチュエーションを思い浮かべた結果、生まれました。ノンシャランなアティチュードですね」
M
「コートを肩にかけて外へ出て、部屋では靴を履かずに過ごすデカダンスな生活。パーティで酒を飲み、煙草を吸うこと。ある種のエロティックさ。セルジュ・ゲンズブールのような、バッドボーイのアティチュード。Éditions M.Rの重要な要素です」
──
ベーシックと言っても、ただ真面目なだけではなく知的でセクシーな大人の不良のスタイルですね。非常に魅力を感じますが、今の若い世代には、少し遠い存在に見えたりするのかなとも思います。自分たちのスタイルを下の世代に伝えていきたいという気持ちはありますか。