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THINK PIECE

José Parlá “Small Golden Suns”

ホセ・パルラが描く、都市と時代とカルチャーを貫く多層な壁。

16 10/18 UP

photo:Shoichi Kajino
interview:Naoko Aono

日本では3年ぶり、2度目の個展を開いているホセ・パルラ。1973年マイアミ出身、現在はブルックリンを拠点に活動している。
ジャクソン・ポロックらアメリカの抽象表現主義の系譜に連なるアーティストとして評価も高い。
今回の個展は天王洲に移転したばかりのYuka Tsuruno Galleryで開かれている。教育など、社会的な活動にも携わっている彼に聞いた。

 

──
この個展に出されている新作について教えてください。“子供”がテーマの一つだそうですが?
「今回に限らず、僕の作品にはいろんなものがレイヤーになって積み重なっているんだけれど、この個展では子供のための活動をしている人に依頼されて制作した作品も展示していて、子供は重要なテーマの一つになっている。小さな子供だけじゃなくて誰でも自分の中に子供の部分を持っているよね。そのエネルギーが人生を輝かせ、フレッシュなアイデアを生み出す。また僕たちは作品をクリエイトする世代として次の世代をリードし、僕たちが蓄積した情報を手渡す義務がある。僕自身、子供の頃から絵を描き始めたからそういったことが大切だと思うんだ」
──
ホセさんの絵は壁そのもののように見えることがありますね。
「僕はストリートで壁に描くことから始めたからね。今ではカンバスに描いたものをギャラリーで展示することが多いけれど、ストリートではグラフィティ的な側面ではなく、その場所が持つ心理的な側面に注目していた。とくに建物の壁や塀にはポスターが貼られていたり、それが剥がされた跡があったり、ペンキを塗り直したりとその場所をめぐる社会的・経済的な歴史が塗りこめられている。誰かが失業したとか離婚した、といった人生の苦難や喜びも読み取ることができるんだ。僕の絵は抽象的だけれど、本当の壁のように見えるのはそんな理由があるんだと思う」

──
ハバナではJRとストリートでコラボレーションしていました。
「〈Wrinkles of the City Havana Cuba〉というプロジェクトで、JRが街の老人のポートレイトを撮影して壁に貼って、僕がカリグラフィみたいなペインティングを描いた。お年寄りはその街の歴史やいろいろな人の人生を知っているヒーローだ。その顔に刻まれたしわと、壁に刻まれた都市のしわ、歴史のしわを比べてみる、というのがプロジェクトの趣旨だ。JRは老人や虐げられた女性など、社会的弱者に目を向けている。僕も同じトピックを扱っているけれど、JRの作品が具象なのに対して僕は抽象だから、パーフェクトな組み合わせになったと思う」

 

Jose Parla, Small Golden Suns
(C) Jose Parla Studios, courtesy Yuka Tsuruno Gallery

 

──
ホセさんは何度も日本に来ていますが、日本の壁とそれ以外の国の壁は違いますか。
「東京の中でも場所によって違う。銀座だとどこも新しくてこぎれいだけれど、上野や池袋といったダウンタウンではもっと粗いテクスチャーになる。でもニューヨークだと貧しいところとリッチなエリアの格差はもっと大きい。新しい建物が多いのも東京の特徴だ。戦争で破壊されてしまって建て直さなくてはならなかったからね。ニューヨークはヨーロッパに比べるとまだ若いけれど、それでも東京よりは古い建物がたくさんある。僕が東京で特に好きなのは高架下の道路の壁だ。苔が生えていたり、コンクリートに鉄骨の錆がついて茶色くなっていたり、トラックが衝突した傷があったりするのが面白い」
──
ペインティングの他に、インスタレーションなど空間的な作品には興味はありますか。
「前に別のギャラリーでやった個展では展示室に彫刻をインスタレーションしてまとまった空間を作った。今回の個展でも最初は白い壁の比較的大きな部屋に絵がかけてあって、そのわきに青やグリーン、グレーで塗られた小さな部屋がある。性格の全く違う空間を続けて経験することで驚きを味わって欲しいんだ。太陽など、強い光を見てから目を閉じるとまぶたの裏に光の点が見えることがあるよね。あんなふうに空間が変容する感覚を再現したいと思った」

 

Jose Parla, Speed
(C) Jose Parla Studios, courtesy Yuka Tsuruno Gallery

 

──
ホセさんは自分の作品を制作する他にも、子供のためのワークショップなどをしていますね。
「他のアーティストと一緒に「国境なき医師団」などに寄付をしたり、エイズにかかった子供たちのための病院に絵を描くといった活動をしている。普通の病院だとあまり色味もなくて、病気の子はますます気が滅入ってしまうからね。その他に僕のスタジオや、美術館などが持っているスペースに子供たちを呼んでワークショップを開くこともある。家庭が崩壊しているなど、難しい状況にある子供たちに来てもらって絵を描くテクニックを教えたり、皆で一つの大きな彫刻を作るといったワークショップだ。日本ではやったことがないけど、いずれやってみたいね。僕の友だちのアーティストやギャラリストに来てもらって、アート・ビジネスについての
ワークショップを開くこともある。アーティストになる以外にもグラフィック・デザインや映画、アート・ブックの編集、ギャラリーの運営、キュレーターなど、アートに関わる持続可能で現実的な選択肢はたくさんある、ということを伝えたいんだ。僕自身もごく普通の家庭の出身だから、ポジティブな姿勢でいれば道は開けるということを知って欲しい。僕はカラヴァッジョやミケランジェロなど古典的なアートも好きだし、ラスコーやアルタミラの洞窟画などの先史文明、中東や日本の書道、マティス・ピカソ・カルダーなど20世紀の美術など、いろんな時代のアートに興味を持っている。そういった伝統的な美術と光や映像、コンピュータなどのテクノロジーを使ったものやユース・カルチャーとの橋渡しをするのが僕の役目じゃないかな、と思っているんだ」

 

Jose Parla, Duality
(C) Jose Parla Studios, courtesy Yuka Tsuruno Gallery

 

ホセ・パルラ「Small Golden Suns」
会期:〜2016年12月3日(土)
開廊時間: 火 - 木、土 11:00 - 18:00、金 11:00 - 20:00
休廊日: 月、日、祝
会場: ユカ・ツルノ・ギャラリー 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
http://yukatsuruno.com