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THINK PIECE

シング・ストリート 未来へのうた

青春音楽映画のあらたな金字塔。
オリジナル至上主義をつらぬくジョン・カーニー監督にインタビュー

16 6/30 UP

interview & text: Yusuke Monma

『ONCE ダブリンの街角で』でアカデミー賞歌曲賞を受賞し、前作『はじまりのうた』では
ニューヨークの街角を音楽で彩った、ジョン・カーニー監督の最新作『シング・ストリート 未来へのうた』。
美しい少女に一目惚れした14歳の少年・コナーが、バンドを組み、音楽の力で未来を切りひらいていく物語は、
恋することの喜びや大人になることの切なさで観る人の共感を呼ばずにいられない。
他に類のない音楽映画を作り続ける監督に聞いた。

 

 

──
『シング・ストリート 未来へのうた』は1985年のアイルランド・ダブリンを舞台にした青春音楽映画です。ダブリン出身のカーニー監督が実際に経験したこと、目にしたことはどのくらいここに反映されていますか。
「50%は実際に経験したこと、残りの50%はフィクションかな。最初は自分自身の回想録みたいな作品を作りたいと思って取り組みはじめたんだ。でもそれほどよく覚えていなかったし、あまり面白くないかもしれないと思ってね。よりクリエイティブになるためには、自分自身のストーリーから外に出たほうがいいんじゃないかって。だいたい僕は事実に基づいて書く伝記作家やノンフィクションライターみたいなタイプではないんだ。僕が求めているのは何よりまず創造性。考えているうちに、大人の目から見た子どもたちのバンドストーリーもいいんじゃないかと思ったので、それぞれのキャラクターに息吹を与えて、映画としてオリジナルの物語にしていったんだ。確かに始まりは自伝だったかもしれないけどね」
──
なるほど。とはいえ、これは監督の自伝的なエピソードじゃないかといろいろ気になることもあって、ちょっとうかがいたいんですが、例えばデュラン・デュランみたいなバンドを初めに組んだのは実話ですか?
「若い頃にバンドを組んだのは事実だし、確かにカバーもしたけど、僕のは全然違うタイプのバンドだったよ。映画の中に登場するバンドはとてもいいバンドだよね。プロフェッショナルだし、このままいったら有名になれるんじゃないかな。僕のバンドはもっと酷かった気がする(笑)」
──
あともうひとつ確認しておきたいんですけど、映画の中に「フィル・コリンズなんて誰が聴くんだ!」っていうセリフが出てきますよね。あれは監督の本心だったりしますか?
「ん、フィル・コリンズのこと?」
──
はい。
「ああ、そうだね。フィル・コリンズの音楽があまり好きじゃないんだ。 “フィル大好き!”っていうような女の人を愛することはできないと思うな(笑)」
──
ははは。よくわかりました。今回の映画は『ONCE ダブリンの街角で』や『はじまりのうた』と同じように音楽をモチーフにした作品です。もともとザ・フレイムスのベースプレイヤーで、ミュージシャンとして活動していたという経歴は、こういった作品を作るうえでどのように生きていますか。

 

「おそらくスポーツも同様だろうけど、音楽について映画を作る場合、自分に経験があって、ちゃんと音楽のことを理解できていないと危ないんじゃないかな。観ている人が嘘だってわかってしまうだろう? 『ONCE』にしても『シング・ストリート』にしても、本当に歌を歌って、本当に楽器を演奏しているんだと伝わることが大事だと思うな」
──
監督の作品はいつも映画オリジナルの楽曲を使用していて、なおかつそれらのクオリティが高いのが特徴的です。そんな音楽映画はほかにありません。制作の手順としては、まず脚本を書いて、その後で作曲に取り掛かるんですよね。
「いや、脚本の執筆と作曲は同時進行なんだ。脚本を書くことが曲作りに影響して、反対に曲作りが脚本に影響する。お互いに作用して膨らんでいく感じかな。だから脚本を書くときに、既にどんな歌詞でどんなメロディーかはわかっているんだ」
──
へえ、すごいですね。だからこそ監督の作品では音楽がストーリーと密接なんだと思います。バンドを組んだ主人公たちが、それぞれの楽器を奏でて、曲を作り上げていくシーンがとてもエモーショナルですが、監督の作品には必ず似たような場面がありますね。そこで描きたいと思っているのは、音楽そのものが生まれる瞬間の感動みたいなものなんでしょうか。

「確かに僕は創造のプロセスにすごく興味があって、そのプロセスを描くストーリーが好きなんだ。その瞬間、マジカルなものが生まれるだろう? 人間の中にあるクリエイティビティーが世に生み落とされる瞬間を、これからも撮っていきたいと思っているんだ」
──
映画の後半ですが、バンドが「Drive It Like You Stole It」という曲を演奏すると、不仲の両親が仲良く踊り出したり、疎遠になっていた憧れの少女が現れたりする、まるでファンタジーのような音楽シーンがあります。あの場面も音楽が持つマジカルな力を表現した素晴らしいシーンですよね。監督が考える音楽の力を端的に言うと、どのようなものなんでしょうか。
「うーん、その質問に答えるのが難しいのは、この映画が答えそのものだと思うからなんだ。この映画が描いているのは、音楽が多くの人たちをひとつにしたり、多くの人たちに同じような感動を与えたりする、魔法みたいな力だよね。一方で、音楽の現実逃避的な側面も描いていて、それはドラッグみたいなものなんだ。主人公の兄・ブレンダンの中ではそれが一緒になってしまうんだけど、それは現実とは異なるものだよね」