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photo:Shoichi Kajino text:Tetsuya Suzuki
そもそも、このYO-KING+藤原ヒロシ=AOEQは2009年10月に行なわれたハニカム・プロデュースによるイベントで「産声を上げた」。そして、このときすでに‘AOEQ’というユニット名とともに、いくつかのオリジナル曲を披露したのだが、YO-KINGと藤原の共演が決まったのは、ほんの数週間前だったと記憶する。そのイベントでのライブに手応えを感じたのか、その後、AOEQは精力的にライブ活動を開始し、2010年4月には全国ツアーも敢行。ハニカム読者のなかにもAOEQのライブを体験した人は少なくないはずだ。
そんなAOEQがついにアルバムデビューを果たした。それも、10曲入りフルアルバムを2枚同時にリリースするという、なんとも彼ららしい、ひねくれたサービス精神(?)を発揮して。
まず2枚同時リリースとなった背景を考えよう。両アルバムともコンセプトやテイストに大きな違いはなく、これは、当初の予定より収録楽曲が増えてしまい「1枚で収まりきらない」という事態から、こうしたリリース形態が選ばれたと考えるのが妥当であろう。実際、両アルバムともに、すでにライブでおなじみの曲とこのアルバムのために作られた新曲がバランスよく収められている。ということは、つまり「2枚とも捨て曲ナシ!」ということである。そして、このAOEQの2枚のアルバム『think』『think twice』は、AOEQをいまだ体験していないリスナーはもちろん、彼らのライブに何度か足を運んだことのあるファンにとっても、少なからぬ驚きを与えるだろう。
ライブではYO-KINGと藤原の2人によるアコギ弾き語りスタイルが定着しているが、本作では沖山優司(ベース)、朝本浩文(キーボード他)をはじめとした辣腕ミュージシャンたちが参加し、各楽曲に豊かな表情を与え、結果、いわゆるフォークの枠には収まりきらないカラフルなダイナミズムとポップミュージックとしての高い完成度を実現させている。例えるなら、アコギ弾き語りによる2人だけのライブが、味のあるスケッチであるなら、数カ月を費やしてスタジオでレコーディングされた本作は、高度なテクニックを持つうえでラフな筆使いを選んでキャンバスに描かれた水彩画、と言えるかもしれない。そう、まさに政田武史によるジャケットのアートワークのように。
ホーンセクションが入りスカ/レゲエ的ニュアンスが加わった「ミスター・ロンリー」(『think』)、憂いの込めたられた2人のハーモニーとアコースティックギターを乾いたグルーヴが支える「最優先」(『think twice』)などは参加ミュージシャンたちとのコラボレーションによってライブとは一味違った新たなクオリティを手に入れた、と僕は感じる。
そして、さらに特筆すべき点として、藤原ヒロシのシンガーソングライターとしての覚醒っぷりを挙げないわけにはいかない。‘HFによるMJへの哀悼ソング’として、われわれ‘AOEQマニア’の間でも評価の高い「夢の世界」(『think』)は言うに及ばず、少年のようなクリアなハイトーンヴォーカルが見事に決まった新曲「colour」(『think twice』)も藤原の新たな個性と呼ぶべきイノセントなメランコリー感を携えた良曲だ。