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THINK PIECE

BYREDO

私的な香り。アートとしての香水。

11 6/22 UP

text:Jun Namekata

2006年にストックホルムで誕生したフレグランスブランド、"バレード"。ファッションやアートとも深いつながりを持ち、その前衛的ともいえるスタイルで世界から注目を集めてきたブランドが遂に今年、本格的な日本上陸を果たした。既存のブランドにはないその圧倒的な存在感はどこから生まれてくるのか? 香りとアートの関係性とは? 自らを香水業界のアウトサイダー=異端児と認めるディレクターのベン・ゴーラム氏に直接話を聞いた。

BEN GORHAM (ベン・ゴーラム)

ストックホルムの美術大学を卒業後、調香師のピエール・ウルフとの出会いを機に香水の奥深さ、とりわけ"記憶"と"香り"の関係に魅了され、バレードを創立。以来、まるでアートピースをつくりだすように、繊細かつ個性豊かな香りを生み出している。
http://byredo.com/

 

──
大学ではファインアートを専攻していたが、今は香水をデザインしている。まずはそのいきさつを教えていただけますか。
「私の父はカナダ人で、母はインド人。生まれたのはストックホルムだが育ったのはカナダやアメリカなんだ。最初はアメリカの大学に通ってサイエンスを専攻していたんだけど、途中でインテリアデザインや建築に専攻を変え、卒業後にストックホルムに戻って美術大学に入りファインアートを学んだ。そこを卒業したときにある調香師に出会ったのが、香りに興味を持ちはじめたきっかけだね」

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それから香水をデザインすることになったのでしょうか。
「いや、そのときはまだ香水という捉え方ではなく、単純に香りが持つクリエイティブなメディアとしての魅力に惹かれただけだった。つまり私にとって香りは、写真や絵といった芸術的な媒体として同じということ。自分のアイデアを香りに翻訳して創造することができるとても新しいメディアだと感じたんだ。それまでもインテリアや建築、ファインアートから学んだことを通して創作活動はしてはいたけれど、どれも物質的なものだった。一方で香りはものすごく抽象的な存在で、それであるにもかかわらずダイレクトに感情に訴えかけてくる。そしていずれ消え去ってしまう儚さもある。その特異性に面白みを感じたんだ」
──
つまり香りをあくまでアートとして捉えていると?
「その通り。香りは、自分の内面にあるアブストラクトな感覚を他人とシェアできる最も論理的な方法のひとつだと思うんだ」

 

──
それは創作活動としての「香り」だけでなく、「香水」作りにおいても反映されている?
「もちろん。とりわけ、私的な記憶を香りで表現するということにとても興味があったので、香水作りではまずその翻訳作業からはじめた。最初は私がまだ幼かった頃の父の記憶。次に母の故郷。『グリーン』や『アンサン ションブール』という香水があるがそれがまさにそう。そういったパーソナルな作業が終わったあとは、感情や概念といったよりアブストラクトなものをテーマに香水を作るようになってきた。写真やポエム、小説、道に転がっている石など、ありとあらゆるものから影響を受けているよ。大切なのは自分の主観。逆に言えば、私の主観抜きにして香りを創造することは皆無と言える」
──
とはいえ抽象的なものを香水にするためには、その個人的な感覚を調香師と共有しなければいけない。とても難しいことのように思えますが。
「香りのイメージを伝えるために、写真や音楽などの資料を集めたブリーフもつくるけど、一番重要なのはコミュニケーション。わかり合えるまでとことん話し合うんだ。例えば大きな香水ブランドはものすごくたくさんのパフューマーを使うけど、"バレード"はNYに1人とパリに1人の2人だけ。そしてひとつのパフュームには私と1人のパフューマーしか関わらない。だから話し合いも1対1。コンセプトではなく、私の人生観や視点、価値観をもわかってもらえるようにとにかく密なコミュニケーションをとっている。最初はとても難しかったけどね」
──
一般的に香水は、マスなものかスノビッシュなものかのどちらかという印象がありますが、"バレード"はどちらにも属さないように思えます。それは意識した上でのことでしょうか?
「この10年で香水業界はものすごく大きくなった。そしてマスが何を求めているかを中心に香りを作るようになった結果、どれも似たような香りになり、香水の持つ本来の魅力が希薄になってきていると思う。つまりマスになっている反面、バリエーションがどんどん狭くなっている。香水のラボには2~3000もの原料がおいてあって、組み合わせ次第で限りなくたくさんの香りを生み出せるはずなのに。かといって限定された人たちのためのスノビッシュなものを作るつもりもない。そういった既存の価値観を排したうえで、香水をクリエーションしたいんだ」

50ml ¥14,700
100ml ¥24,570
BYREDO(バレード)/ HEAD-ON JAPAN
tel: 03-6416-3606