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FIGHT FOR JAPAN

格闘家 川尻達也が体現した「生きてゆく勇気と力」

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photo&text:Susumu Nagao

4月9日(現地時間)米国サンディエゴで行われた総合格闘技ストライクフォース。
同大会の世界ライト級チャンピオンシップに挑んだ川尻達也は3月11日、日本を襲った東日本関東大震災で被災していた。
キャンセルするであろうと思われた大会に強い気持ちをもって挑んだ川尻を写真家 長尾 迪が追った。
過酷な状況の中で戦う姿勢から見えたもの、感じたものとは一体なにか。同氏の写真と手記から迫る。

 

 

3月11日以来、東京は毎日のように余震が続いている。朝から深夜まで、時間と場所を選ばない。就寝中も余震で目が覚め、寝不足気味だ。東京ですらこんな状態なのに、茨城県は大丈夫だろうか?減量を含め、自身の練習ができているのだろうか?余震のたびに、私は川尻達也のことを想った。
川尻達也とは修斗の元チャンピオンで、現在はDREAMを主戦場とする格闘家だ。茨城県出身で、地元茨城のジムで練習をしている。ストライクフォース(米国)世界ライト級王者のギルバート・メレンデスへの挑戦が発表されたのは、今年の2月。
タイトル挑戦を目の前に、川尻は被災した。私は川尻が試合をキャンセルすると思っていたが、あえて試合をするという。その理由として、彼はこう話す。「被災地民である自分がベルトを巻き、日本の皆さんに元気になってもらう。これがいま、自分のできる世の中に対する恩返しだ」
 
川尻の気持ちに応えたい、というようなカッコいい理由でもないのだが、私も急遽、応援(撮影)に行くことを決めた。
メレンデスは、川尻がベストの状態で戦ったとしても、勝てるかどうかという強豪だ。今回の現地での下馬評も、川尻の圧倒的不利が伝えられた。試合前日の計量で、両者が裸で向かい合う。川尻の仕上がりは悪くはないが、贔屓目に見ても川尻が小さく見えた。
試合当日、川尻はセミファイナルに登場。普段は日本人相手にブーイングを浴びせる米国のファンが、珍しく大人しい。川尻の表情を見ると、やや緊張気味で、落ち着きがない。そして1R 3分14秒、グランドでエルボー4連打を受け、レフリーが試合を止めた。
最強王者を相手に、逃げることなく果敢に打ち合い、活路を見出そうとした川尻。真っ向勝負を挑んだ末でのKO負け。彼はどんな局面でも、現実と正面から向かい合っていた。それはまさしく、いまの日本人に必要なことだろう。私は川尻の戦う姿から、生きてゆく勇気と力をもらった気がする。