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THINK PIECE

INO hidefumi
"New Morning - 新しい夜明け"

自身のヴォーカルを大胆にフィーチャー。新境地を拓いた最新作。

13 5/28 UP

photo: Shoichi Kajino text: Tetsuya Suzuki

1stアルバム「Satisfaction」以降、“フェンダー・ローズに愛された男”として様々な作品を発表、
近年ではバンド編成でのエモーショナルなライブが各地で高い評価を獲得しているミュージシャンINO hidefumi。
今回発表されたニュー・アルバム「New Morning - 新しい夜明け」では、
これまでの作品では披露することのなかった、自らのヴォーカルにもフィーチャー。
常に自分に正直に、インスピレーションに導かれるままに活動を続けるINO hidefumiが辿り着いた先。

 

──
今回のアルバムを聴かせていただいて、今まで以上に猪野さんのパーソナルな部分が作品にされているという印象を受けました。例えて言うなら私小説的、といいましょうか……。
「私小説という感覚は強いかもしれませんね。起承転結の付け方の構造もこれまでとは全く違いますし、制作期間が3年ほどかかっているので、その間の日記的なニュアンスもあります。中途半端なものは表に出せないので、思いを込めて細部まで徹底的に作り込みました」

──
とはいえ、過度に情緒的ということもなく、猪野さん自身の内側から出てくる自然な感情が素直に表現されている。そこに音楽を作る、あるいは音楽で自分を表現をすることに対する強い自信を感じました。
「自分でも自信作と思える作品がようやくできたと思っています。リリースした後、聴き手によってそれがどう受け入れられるかは分かりませんが、自分としてはやれることは全てやり切ったという意味で、今は達成感を感じていますね。また今回はバンドサウンドを大々的に取り入れているのですが、そういったレコーディングの形態も含めて、これまでの作品とは大きく異なるアルバムです」
──
制作に長い期間をかけたとのことですが、その中で改めてご自分のルーツを見返して曲を作っていくことはありましたか?
「それはありましたね。もともと僕は20〜25歳くらいまでロックバンドでローズを弾きながら歌っていたのですが、今回のアルバムで自分の歌をフィーチャーしたことはその当時に戻ったという感覚があります。リスナーからしてみれば初めての歌モノなので戸惑う方もいるかもしれませんが、自分の中では違和感なく原点回帰した感覚ですね」

 

──
収録されているご自身のヴォーカル曲は全てカバーとなっていますが、選曲の基準はありましたか?
「“NEW MORNING”(=新しい夜明け)というタイトルに当てはまる楽曲ということですね。中でも美空ひばりさんもカバーしていた“Cry Me A River”は5年くらい前からライブで披露していた曲で、いつか音源化したいと思っていたんです。Mari Wilsonが歌っていたのを聴いたのが初めなのですが、自分で歌うなら日本語だろうということで、日本語詩でカバーしています」
──
Todd Rundgrenの“Hello It's Me”では鈴木茂さんが素晴らしいギターを披露されていますね。
「レコーディングの段階から感動するほど素晴らしかったです。レコーディングには朝から晩まで一日かかったのですが、一切の妥協なしに演奏してくださって、本当に頭が下がる思いです。自分でも納得できるものができたので、参加していただいて本当に光栄でした」
──
1曲目の“闇からひかりへ”はまさに私小説的、お子様へ向けたメッセージソングですよね。
「それはまさにそうですね。でもタイトルに関して、僕は全て後付けなんです。曲ができてから、自分の子供に名前をつける感覚でタイトルを決めています。僕の作る音楽はインストゥルメンタルを主体としているので、歌詞がない分、タイトルに曲の世界観や意味を集約して表現しているんです」
──
バンド編成でのレコーディングを取り入れたのは、どういった心境の変化があったのでしょうか?
「一人での制作に行き詰まったというわけではなく、毎回ほぼ変わらないメンバーでライブ活動を行ってきたので、ごく自然の流れでそうなったという感じです。とはいえ、今作でバンドでレコーディングしたのは5曲で、それ以外はこれまでと同様、一人で打ち込みで作っています」
──
元々バンドでヴォーカルを担当していたとはいえ、なぜこのタイミングで歌をフィーチャーしようと思ったのですか?
「実はファースト・アルバムをリリースする時にも自分で歌った曲があったのですが、作品としてのまとまりがつかなくなってしまうので収録しなかったんです。常々歌いたいとは思っていたのですが、去年、鈴木茂さんとライブで共演した際に20代の頃やっていたバンドの感覚を思い出したんです。それから、スタジオでリハーサルしている際にも茂さんに絶対に歌ったほうが良いと薦めていただいたこともきっかけになりましたね」