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THINK PIECE

GREAT3「愛の関係」

活動休止・新メンバー加入を経て発表された、新生GREAT3の傑作アルバム。

14 4/22 UP

photo: Shoichi Kajino
interview: Tetsuya Suzuki

 

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そういった思いで音楽を作ると、わりとしんみりとした曲調になりがちだと思うのですが、今作はそうではなく、親しみやすいメロディとストレートな言葉で表現されていますよね。これまで片寄さんが通ってきた音楽の要素が自然な形でミックスされていて、変にトレンディーではなく、それでいて2014年のサウンドとして非常に説得力があると感じました。
「昨年フジファブリックと共演した時、旧知のディレクターで、ゆらゆら帝国なども手がけた薮下さんに『GREAT3って昔から知ってるけど、こんなに良かったっけ?』って言っていただきました(笑)。そう感じている人が他にもいるみたいで、時代が追いついたというような有り体のことは言いたくないですが、今の時代の空気とGREAT3が本来持っているものがうまく合ったような気がします。生きていくためにはタフでなくてはならないので、死を意識するからといって落ち着いたロックをやるのは違うと思いますし。僕は”泣きながら踊る”という言葉がすごく好きなのですが、”踊る”という命を燃やす要素、その中にある悲しみこそが生きるということなんだと思うので、それを音で表現したかったんです。あとはjanという非常に面白い20代のベーシストが加入したことも大きいですね。彼はGREAT3になってからベースを始めて、レコーディングでもライヴでもテクニックのギリギリの状態で演奏しているんです。でもそれが僕の歌詞の世界と相まって、いわゆるAORのリラックスした雰囲気とはまたひと味違った、特殊な高揚感を生んでいるんですよ。僕もギターに関してはjan寄りなので、何を弾いてもガレージになってしまう人間が、無理矢理AORをやることで、それがGREAT3の音の個性になっているんだと思います」
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janさんのベースも含めて、自分たちの今あるカタチを素直に出した時に、それを受容してもらえる空気を今の時代に感じているのではないですか?
「昔からGREAT3は分かりづらい、一言で表現しづらいバンドだと言われていましたし、周りを見てもキャッチフレーズをつけやすい人達の方が人気を得ていく状況がありました。でも今は日本だけでなく海外を見ても、一言では表現できないバンドがわんさかいますし、自分としてはやりやすい時代になりました。今だに自分自身もGREAT3を言葉で表現できないですが、それでもいいんだという空気を感じていますね」

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その上で、純粋に”良い歌”を作りたいという思いがあるのではないでしょうか?
「今はなんでもコンピュータで作れてしまう時代ですが、人の心に響くような良いメロディはコンピュータには書けないんですよね。2000年から10年くらいの時期はみんな先鋭的なビートやサウンドの質感に意識が向いていて、メロディが音楽の中でどんどん軽視されていたと感じて、それがとても寂しかったんです。でもここ数年は、世界的にメロディ指向に戻ってきていて、自分としても音楽史に残る素晴らしいメロディに負けない曲を書きたいと思っています」
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そのメロディは人の声によって表されるものなので、結果的に今回のアルバムでもメインのヴォーカルやコーラスワークが非常に印象的ですよね。
「それは何より嬉しいことですね。GREAT3は3人のヴォーカリストがいて、かつ3人ともがソングライターであるということがバンドとして重要なポイントなんです。The Beach Boysなんかもそうですが、僕はみんなのハーモニーが合わさった時に一つの声になっているバンドが好きで、それは人間の声で、しかも他人同士が集まった時にしか表現できないものじゃないですか。なので、今作でタイトルトラックになった『愛の関係』では頭からずっと3人のハーモニーになっていたりして、GREAT3でもそれを主軸に置きたいと思っているんです」

 

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とはいえ、詩は全て片寄さんが担当されているんですよね?
「活動休止が8〜9年近くあって、再開するという時にベースの高桑圭が抜けてソロに専念するという時に、高桑と中学校からの盟友だったドラムの白根賢一も当然一緒に辞めて、これでバンドは解散になると覚悟していたんです。でも結局、白根と話したら『片寄の言葉がほしいから、二人でやろう』と言ってくれて。自分のメロディに僕の歌詞が必要だ、なんて言ってくれたことはそれまで一度もなかったので嬉しかったですね。Janも含めてバンドの2人が僕の歌詞を好きでいてくれているので、それは僕がやるべき役割なんだと考えています」
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作詞をするにあたって、活動休止を経て、あるいは様々な人生経験を経て変わった部分はありますか?
「ネガティブなもの、人のダークサイドが創作の原点になっている部分は変わっていないのですが、今は最終的にそれを乗り越えて光の方向へ向かっていきたいという気持ちが強くなりました。死を意識することで、だからこそ生きるんだというところに行き着いたことが一番の違いで、それが今作でも反映されていると思います」
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サウンド面ではアナログテープでの録音をされたとのことですが、これは当初からコンセプトの一つだったのですか?
「そうですね。前作はドラムの白根の自宅スタジオで録音したので、コンピュータを使ってのレコーディングだったのですが、僕は家でもほとんどアナログレコードで音楽を聴くような人間ですし、janもそういった質感を求めていたので、今作ではアナログレコーディングに戻ってみることにしたんです。23歳のjanにもそれを体験させてあげたかったですしね。

5日間スタジオで録音して、自分でも久しぶりのアナログだったのですが、『こんなに良い音だったっけ?』と感じるほどのサウンドに仕上がりました。懐古主義ではないので、自分が求める音の質感を手に入れるためですね」
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そのアナログの質感も含めて、GREAT3のアイデンティティが再確認され、より強固にアップデートされた形でパッケージングされたのが今回のアルバムですよね。
「新生GREAT3になって前作を出した後に、3人ともがそれほど間を空けずに次の作品を出したいと思ったのが、そのバンドとしてのアイデンティティを強めたいという気持ちがあったからだと思います。メンバーも変わって、2010年代のGREAT3のアイデンティティを自分たちも確認したかったですし、もちろんそれを周りに提示したかったんです。まだまだ色々やりたいことがありますし、ここにきてバンドとしての絶頂期がこれから来るような気すらしています(笑)」

 

GREAT3「愛の関係」

UNIVERSAL MUSIC JAPAN
TYCT-60027
3,240円[税込]

発売中