『郊遊〈ピクニック〉』
廃墟に描かれた壁画との出会いが生んだ奇跡の映画
蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督インタビュー
14 8/25 UP
photo: Takehiro Goto
interview & text: Eiji Kobayashi
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- 高俊宏はその後あなたが演出した舞台にも出演したそうですね。
- 「今年の5月にブリュッセルとウィーンで行なった舞台に、李康生(リー・カンション)と2人で出てもらいました。彼の作品制作の姿勢やイメージに私自身とても近しいものを感じてました。そして彼と実際に知り合って話をしているとき、今は廃坑になっている日本占領時代の鉱山の坑道に、当時酷使されて亡くなった労働者たちの絵を描いたという話を聞いたのですが、彼が描き始めて4日目に現場行ったときに、絵がすっかり消されていたというんです、その絵は木炭で描かれていたので、水で洗えばすぐ消えてしまうものだったんですね。それを聞いて私は、『その絵は君の記憶の中にしか存在しないんだね』と言いました。そして、それは私が近年取り組んでいる演劇と同じかもしれないと考えたんです。演劇というのも、そこで演じてしまえば観客の記憶の中にしか残らないですよね。『だったら、ぜひ私たちの演劇に参加してくれないか?』ということで出演の話がまとまりました。実際に彼と仕事をしてみて、とても魅力的な人物だとわかりました」
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- 映画の主人公たちがこの壁画を見つめる様子は、観客が映画館でスクリーンを見つめることにも重なるように思いました。
- 「そうですね。この壁画に向かってじっと立つ、じっと見るというシーンを私は2箇所入れています。1箇所は野良犬に餌を与える陸奔静(ルー・イーチン)が1人で見ているところ。そしてもう1箇所は、最後の長回しのシーンで陳湘琪(チェン・シャンチー)が李康生と2人で立っているシーンです。この最後のシーンはもともと脚本にはなかったもので、この場所を見つけたからこそ作ったシーンです。やはりこのロケーションからいろんなものが発展していったんですね。そして、この壁画を見るということ、またそれを見ている様子を観客が見るということが、映画とはどういうものかということを我々に示してくれています。つまり、観客が映画を見るということは、本当に『見る』ということなんだということです。ストーリーを追ったり、様々な情報やプロットを理解するということは映画の本質ではありません。映画とは、『見る』ということで人生を考え、生きている意味を考えていくということ。そういう思考をするということが、この場所、この壁画、この空間によって生み出されたのです」
蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)Tsai MingI Liang
1957年、マレーシア生まれ。77年に台湾に移り、大学在学中からその才能で注目を集める。
91年、テレビ映画「小孩」で、後に彼の映画の顔となる李康生を見いだし、92年彼を主役にした
『青春神話』で映画デビュー。つづいて発表した『愛情萬歳』、『河』が世界中で絶賛され、
世界の巨匠のひとりとなる。2013年ヴェネチア国際映画祭にて、本作『郊遊〈ピクニック〉』を最後に
劇場映画からの引退を表明。現在は、アートフィールドにて、映像作品や舞台演出などを手掛けている。
『郊遊〈ピクニック〉』
父と、幼い息子と娘。水道も電気もない空き家にマットレスを敷いて三人で眠る。父は、不動産広告の看板を掲げて路上に立ち続ける「人間立て看板」で、わずかな金を稼ぐ。子どもたちは試食を目当てにスーパーマーケットの食品売り場をうろつく。父には耐えきれぬ貧しい暮らしも、子どもたちには、まるで郊外に遊ぶピクニックのようだ。だが、どしゃ降りの雨の夜、父はある決意をする……。
9月6日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次公開
監督:蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)
撮影:廖本榕(リャオ・ペンロン)、宋文忠(サン・ウェンチョン)
出演:李康生(リー・カンション)、楊貴媚(ヤン・クイメイ)、陸奔静(ルー・イーチン)、陳湘琪(チェン・シャンチー)
原題:郊遊 英語題:Stray Dogs
2013年|台湾、フランス|136分|DCP|カラー|1:1.85|中国語後援:台北駐日経済文化代表処 配給:ムヴィオラ
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