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THINK PIECE

ディーン、君がいた瞬間(とき)

前作から8年。ジェームズ・ディーンの生涯を描いた最新作。

15 12/14 UP

photo: Kentaro Matsumoto
text: Naoko Aono

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映画を撮ることで写真の撮り方が変わったりしましたか。
「写真に関してはずいぶん変わったと思うけど、どう変わったかは自分ではよくわからない。でも映画を撮るようになったことだけでなく、ミュージックビデオを作るのをやめたのも写真に影響している。ビデオで試していたいろいろなアイデアを写真に応用することが多くなったからね。映画ではストーリー展開を考えるようになったことで、写真でも小道具を使った演出もするようになった。初期の頃には使わなかった太陽光で強い影を出す手法も、ビデオや映画を撮り始めてからとるようになったものだ。こういった変化は突然起こったことではなく、何年もかけてゆっくりと変わっていったんだけどね」
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デニス本人に会ったことはありますか。彼は5度結婚するなど、やや破綻した人生を送ったようですが。
「僕はデニスには会ったことはなかった。というのも彼は2010年に亡くなっていて、僕がこの映画の話を受けたのは2013年だったから。映画を作るにあたっては未亡人を始め、デニスを知る人に会ったり、デニスのインタビュー映像を見て彼の実像をつかもうとした。彼の人生を破滅的という人もいるけど、5度も結婚したんだから構築的というべきかもしれない(笑)。映画に出てきた、別居している息子と不器用なやりとりをするエピソードでもわかると思うけど、プライベートではあまり幸福だったとは思えない。

ただ、インタビュー映像では自分の仕事に自信を持っているように感じた。彼は仕事に生きるタイプだったんだろうね。でも彼には秘密が多くてわからないことも多いから、僕が推測したことも多い。映画では若い頃のデニスを扱っているから、晩年よりも自信がない、少し不安げな感じを出したかった。デニス・ストック役のロバート・パティンソンはそのあたりをとても上手く演じてくれたと思う」
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ジェームズ・ディーンには興味がありましたか。

 

「プロデューサーから脚本をもらうまでは全く関心がなかった。僕はディーンが死んだ年に生まれているんだけど、僕が育ったオランダの街では映画館もなかったし、遠い国のできごとでしかなかった。映画を撮ることになってディーンについてもリサーチして初めて、彼が偉大な俳優だったことに気づいた。今でも彼のポスターやTシャツをよく見かけるよね。すでに亡くなってずいぶん経つのに、これだけ存在感のある俳優はなかなかいない」
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今後、「コントロール」や「ディーン、君がいた瞬間(とき)」のような伝記映画を撮る予定はありますか。
「『コントロール』が公開されたあと、伝記映画を撮ってほしいという依頼はたくさんあったけど、全部断ってしまった。ほとんどがミュージシャンの映画だった。誰か有名なミュージシャンが亡くなるたびにそんなオファーがきたよ(笑)。『ディーン、君がいた瞬間(とき)』の撮影を受けたのは、これが単なる伝記ではないからだ。二人の若い男が出会って、お互いの人生に影響を受ける。決して大きなメッセージを持つストーリーではないけれど、僕にはとても興味深く思えた。『コントロール』を撮る前も

『君は映画を撮るべきだ』といろんな人から言われていた。でも僕は自分が映画監督になれるとは思っていなかった。自分のことは僕が一番よくわかっているし(笑)、とてもじゃないけど無理だと思ったんだ。でもイアン・カーティスだけは別だった。短い間だったけれど彼らとはとても深いつきあいをしたし、僕にとって重要な人物だったから。技術的な懸念はあったけれど、彼らに対して抱いていた感情のほうがはるかに大きかった。確かに大きな冒険だったけど、それが今の僕の仕事につながっている」
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次の作品の構想はありますか?
「ギルバート・キングという作家の『Devils in the Grove』というドキュメンタリーの映画化を考えている。1949年に4人の黒人が17歳の白人の少女をレイプした嫌疑で逮捕され、無罪判決が下されたが、白人至上主義団体のKKK(クー・クラックス・クラン)が彼らを襲撃した、という事件だ。キングは事件の60年後に情報公開されたFBIのファイルなどを丹念に調査してこの本を書き、2013年にピュリッツァー賞を受賞した。まだ配役も決まっていないけれど、とても興味深いテーマだと思っている」

 

『ディーン、君がいた瞬間(とき)』

監督:アントン・コービン
製作:イアン・カニング/エミール・シャーマン/クリスティーナ・ピオベサン/ベニート・ミューラー
出演:デイン・デハーン/ロバート・パティンソン/ジョエル・エドガートン/ベン・キングズレー/アレッサンドラ・マストロナルディ
配給:ギャガ

2015年12月19日公開
http://dean.gaga.ne.jp/

Caitlin Cronenberg, ©See-Saw Films