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THINK PIECE

FPM『Moments』

FPMデビュー20周年を記念した、3枚組ベストアルバム。

15 10/20 UP

photo: Erina Fujiwara
interview: Tetsuya Suzuki

 

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それでもFPMには初期の頃からダンスミュージックではくくり切れない、メロディ志向のポップさがあったような気がします。ポップミュージックとしても独立しているというのがFPMらしさなのか思うのですが。
「ダンスミュージックであることと同じくらい、ポップであることは重視してきました。ただ、歌で言えばAメロ、Bメロ、サビがあるとか、豊かなコード進行を使っているとか、そういうことがポップの定義ではないんですよね。結局、人に受け入れられたものがポップということで、その意味で僕はポップ志向です。しかしFPMとして大ヒット曲を作ったわけではないので、ポップという命題を最終的なところまで貫けたかは分からないのですが。もしかしたらFPMはダンスミュージックにポップスを導入して、歌があって、豊かな情緒が表現されて、馬鹿騒ぎできるというEDMのようになりたかったのかもしれないと思わざるを得ないときもあります。しかし、EDMという言葉が騒がれ出したのが2013年くらいだったとしたら、その時代に僕が作りたかったのはいまのEDMではなかったんです。もっとかっこ良くて、もっと独自のものを作りたいという理想があるので、いまだにその理想を追い求めています。だから自分はEDMの地点には到達できなかった反面、したくもなかったとも言えますね」
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ベスト盤3枚にはそれぞれ新曲が1曲ずつ入っていますが、これがFPMの最新形なのでしょうか?

「歌ものあってのFPMですが、今回のアルバムでは過去作品にきちんとフォーカスするため、あえて歌ものの新曲は入れなかったんです。『あなたの人生のサントラ盤』っていうキャッチフレーズをつけたくらいですから。そういえば、このアルバムのマスタリングが終わった頃から、永田町周辺で世の中がざわつきはじめたんです。でも僕は昔から、社会の喧騒に背中を押されて楽曲を制作することにリアリティがなかったんですよ。例えば、ボブ・ディランが『風に吹かれて』という反戦歌を作ったのは21歳の頃。

 

それは21歳の若者が作ったからこそ響くものがあるのであって、おっさんの戯言なんて誰が聞きたいんだって思ってしまうんです。ですが先日、安保法案が成立する日にたまたまスタジオに入っていたとき、何かざわざわとしたものを感じていて、結果的に非常にエモーショナルな曲が出来上がったんです。いままでは過去の音楽を聴いたり、そのレコードをサンプリングしたり、スタジオのハードディスクの中に音源を放り込んでゴチャゴチャ混ぜたり、というのがクリエイティブの源だったのに、世間の喧騒が自分の背中を押して音楽を作らせたということに非常に驚いています。

SOUND MUSEUM VISIONで行われた『Moments』リリースパーティにて

そのように出来上がった楽曲が、ベスト盤以降第1曲目の作品なんですけど、ここからデビューでもいいというくらいの曲になりそうです。つまり、ベスト盤で『これでもうFPMはいいかな』と思っていたときに、『これがデビュー曲でもいい』っていう曲が生まれた。今はそれに夢中で、次のその曲をどう仕上げるかが一番楽しみなんです。これまでもFPMに真摯に向き合ってきましたが、すべて自分の理想を具現化して楽曲が出来上がるのがインテリジェンスだと思っていました。しかし、今回のように世間の大きなうねりに巻き込まれることがクリエイティブにつながることがわかったと報告できたことが、今日は何より嬉しいです(笑)」
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20周年の一区切りとしての作品を作り上げ、また新しく見えてきたものもあったということで、この先の20年もまた楽しみになりますね。
「20年やるかもしれないし、1年で辞めてしまうかもしれないんですけど、とりあえず20周年の節目に、いままでを全部捨ててでもフォーカスしたい曲を作りはじめることができたのがものすごく嬉しいです。ベスト盤ってお葬式だと思っていましたが、お葬式をやったことで新たに生まれる、余生じゃない新しい生がありました。お葬式したら、生まれ変わっちゃったみたいな(笑)」

 

FPM『Moments』
avex trax
3枚組 4,000円[税抜]
単品 各2,000円[税抜]

http://www.fpmnet.com/