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THINK PIECE

Jan Fabre

ヒエロニムス・ボスへの憧憬の意を込めて問う
旧植民地時代における、母国ベルギーの繁栄と侵略。

15 8/12 UP

text: Aika Kawada

© Louis Vuitton/Yasuhiro Takagi

 

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スカラベの鞘翅は、すべて緑色に統一されていますが、何か意味はあるのでしょうか。
「すべてグリーンジュエルビートルという生物を使っています。なぜこの品種にこだわるのかといえば、ボスの『地上の悦楽の園』においても、この色が使われているからです。一枚の羽には1500もの面が存在し、光の反射で色がオレンジからグリーンへと変化します」
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作品を制作する上で、苦労された点は?
「忍耐と欲望のバランスです。鞘翅を接着する方向は、受ける光に左右されます。実際に差し込む光がわからない場合もあり、配置する方向が読めないことがあります。アシスタントたちと一枚一枚、鞘翅を接着剤でつけていく作業には、膨大な時間と我慢強さが必要です。一方で表現したい欲望も強くあり、そのバランスをとらなくてはなりません」
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自然光が贅沢に入る、エスパス ルイ・ヴィトン東京での展覧会にあたり、観覧者に見て欲しいポイントや時間帯があれば、教えてください。
「設営作業をしている間、東京の街に浮遊する王宮にいるかのように感じ、このスピリチュアルな空間に感動しました。日中でも夕方でも美しい光がはいるので、特にこの時間帯というのはありませんが、日が暮れると、作品自体が青みを帯び強いインパクトが及ぶので、より印象深いのではと思います」
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作品を通じて過去の真実を語り続けることで、ベルギー国民のリアクションに変化はありましたか。
「2002年に、ベルギー王室の要請で、『HEAVEN OF DELIGHT』という王宮の天井画を制作しました。完成時には欧州全域にわたって賞賛されましたが、それらは歴史的な事柄には触れず、色彩の変化が刹那的で美しいというものばかりでした。しかし、4、5年ほど前から、公の場で旧植民地に関する歴史問題が暴露、議論される風潮になり、私の作品について言及されることも増えました」

© Louis Vuitton/Yasuhiro Takagi

 

SKULL WITH MACHETE I「髑髏とマチェット I」(2013)
Photo : Lieven Herreman Copyright : Angelos bvba

THE PLUNDERING HERALD OF LIFE AND DEATH「生と死の略奪の使者」(2013)
Photo : Lieven Herreman Copyright : Angelos bvba

 

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王宮の天井画を制作するにあたって、王室の方々、国民の反応はいかがでしたか。
「ベルギーは、フランドル地方、仏語圏、独語圏の3つの地方に分断されています。複雑な状況ですが、フランドル地方に関しては、極右政党の勢力が強く、私が制作する天井画についても3年間にわたって激しい反対運動を繰り広げました。王宮から制作の要求があり、それを受けたことが既にフランドル地方出身の私にとっては政治的な活動であったといえます。ベルギー人ではありますが、極右反対であり、フランドル地方独立を反対していることをいわば露呈しているわけですから。しかしパオラ王妃は、個人的に私の作品を支持してくれ、サポートをしてくれました」
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コンゴについて王妃とはお話しになったのでしょうか?
「実を言うと、制作に入る前の大型模型を見せるときに、王妃にどんな意味を持つ絵なのか詳しく説明をしませんでした。なぜならば、絵の内容を先にお伝えしてしまえば、彼女は反対しなくとも、周りの役人たちが許さないでしょう。しかし王妃は、何度も制作現場にお越し下さり、少しずつどのようなテーマが物語られているかを把握なさったのです」
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リスクを犯して美と倫理の融合に挑戦される理由は?
「美しか追求しない芸術家は、単に化粧をしているだけのようなものです。それは、アートではありません」
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最後に、歴史とはなんでしょうか。
「腕時計は、時間ではなく歴史を教えてくれています。そして、本当の意味でのアヴァンギャルドとは、常に歴史と紐づいているものだと思います」

 

© Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

1958年ベルギー、アントワープ生まれ。1970年代後半にアントワープ王立美術アカデミーとアントワープ市立美術工芸研究所に学ぶ。造詣美術家としての作品は、表面的な美しさの裏に物事や思想に対する抵抗や死に対する在り方について詩的につづられている。2008年ルーヴル美術館では、存命中のアーティストとして初の個展を開催。その他、名だたる美術館で個展を開催し、日本では、1991年グループ展「Irony by Vision」、2010年に彫刻家の舟越桂と開催した金沢21世紀美術館「Alternative Humanities」展や同年に東京現代美術館で行ったグループ展「Transformation」がある。また演劇やオペラ、ダンスなどの分野で演出や脚本、振り付けも手がけ、活動は多岐にわたる。

http://janfabre.be

 

「Tribute to Hieronymus Bosch in Congo(2011-2013)」

会場: エスパス ルイ・ヴィトン東京
所在地: 東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン 表参道ビル7階
会期: 2015年9月23日(水・祝)まで
時間: 12:00〜20:00
休館日: 無休
入場料: 無料