シング・ストリート 未来へのうた
青春音楽映画のあらたな金字塔。
オリジナル至上主義をつらぬくジョン・カーニー監督にインタビュー
16 6/30 UP
interview & text: Yusuke Monma
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- 今回の作品では、閉塞したダブリンの街から主人公が音楽を武器にして抜け出そうとします。観ていて、音楽が希望を切りひらくというポジティブな側面が強調されていると思ったのですが。
- 「うん、そうだね。当時のダブリンは雨ばかり降っていて、誰もが貧しく、本当に灰色の街だったんだ。でも創造性に満ちていて、自分で洋服をデザインしたり、自分でアートを作ったりする人が多かった。もちろんお金がなかったからでもあるんだけど、それがアイルランドの伝統なんだろうね。アイルランドの人たちは昔から輸入に頼らず、食べものも芸術もエンターテイメントも、すべて自分たちのコミュニティーで生み出そうとしてきた。それを外国に輸出して、大西洋の小さな島国でありながら、まあまあ上手くやってきているんだ。今回の作品は80年代が舞台だけど、そんなアイルランドの薄暗さとそこから生まれる美しい音楽のコントラストを、はっきりと描くことができたんじゃないかな」
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- 家族との関わりが描かれている点も非常に感動的です。“家族”も今回の作品の重要なテーマですよね。
- 「僕は軽い音楽映画なんて作りたくなかったんだ。もっと実のあるものを作りたかったからね。その点、音楽と家族という組み合わせは他になかなかないだろう? 観客だって現実逃避だけの音楽映画はもう観たくないはずだし、もっと人生にとって意味のあるものを観たいと思っているんじゃないかな。家族は僕に音楽を教えてくれた存在でもあるし、今回はそういったことを描きたかったんだ」
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- 主人公のバンドが家で練習していると、お母さんがティーセットを持って部屋に入ってきます。同じように『ONCE』でも、バンドが練習していると親がティーセットを持って入ってくる場面がありました。あれはあなたの大切な思い出と関わりがあるんですか。
- 「実はたまたまなんだけど、そのアイデアは僕にとってとても魅力的なものなんだ。ポップミュージックというのは、大きなスタジアムだったり、巨大なショーだったり、いまや聴き手に非現実的なものを想像させるよね。でもそんなポップミュージックも、実際はベッドルームやリビングルームのような、日々生活している空間から生まれると思うんだ。それこそお母さんがお茶を持ってきてくれたりするような、日常的で何気ない場所からね。きっとビートルズやボブ・ディラン、U2だってそんな感じだったんだと思うよ。ベッドルームで音楽を作っていて、家族に“うるさい!”って怒鳴られたりしていたんじゃないかな(笑)」
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- ちなみに監督はグザヴィエ・ドランの映画を観たことがありますか?
- 「いや、ないね」
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- それならクエンティン・タランティーノでもいいのですが、ドランやタランティーノの作品もある種の音楽映画と言っていいような気がするんです。でも彼らはもとからある既成曲をたくさん使用しますよね。ああいった音楽の使い方は、オリジナル曲をふんだんに使用する監督の目にはどう映りますか。
- 「デヴィッド・O・ラッセルもそうだけど、タランティーノのような映画の作り方は、僕自身はあまり興味深いとは思えないね。自分で曲を作るのが好きだっていうこともあるし、例えば他人の曲をずっと演奏し続けるのは退屈なんだ。他人が作った音楽で自分のシーンを作り上げるなんてイージーすぎるだろう? 他人のアイデアを盗んで、自分のアイデアにしてしまうようで、それは悲しいことじゃないかなと思う。僕は新しい音楽を作ることと新しい映像を作ること、そのふたつを同時にやりたいんだ。音楽と映像が一緒に生まれてくるところに面白みを感じているからね」
John Carney(ジョン・カーニー)
ダブリンを拠点に活躍する脚本家、映画監督。過去にはアイルランドのロックバンド、ザ・フレイムスでベーシストをつとめていた。『ONCE ダブリンの街角で』(06)がアメリカでわずか2館の公開から口コミで140館まで拡大する異例のヒットとなり話題に。サウンドトラックはグラミー賞にノミネートされ、主題歌「Falling Slowly」はアカデミー賞のオリジナル歌曲賞を受賞。続く、キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン出演の『はじまりのうた』(13)の大ヒットでさらに、音楽と映画に幸せな出会いをもたらすことのできる稀有な監督として世界中から支持を集める。
『シング・ストリート 未来へのうた』
監督・脚本:ジョン・カーニー
音楽:ゲイリー・クラーク&ジョン・カーニー
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー、ボイントン、ジャック・レイナーほか
原題:Sing Street/アイルランド、イギリス、アメリカ映画/106分
配給:ギャガ
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7月9日よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国順次公開
http://gaga.ne.jp/singstreet/