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THINK PIECE

The Man Who Fell to Earth

『地球に落ちて来た男』リバイバル上映
“デヴィッド・ボウイのスタイリスト”高橋靖子が語る記憶

16 7/28 UP

interview: Yasuhito Higuchi(boid)
text: Ryu Nakaoka

──
『地球に落ちて来た男』の話をしたことはありますか?
「実はそういう話って、ほとんどしていなくて。どこかお昼ご飯に連れて行って、とかそういう話ばかり(笑)。でも、上映された当時も観たし、その後も映画館でリバイバルされることも多かったから、何度も観ました。やっぱり、日本人のセンスじゃ絶対に作れない映画ですよね。あのしょぼい宇宙船、ユーモアがあっていいじゃないですか。地球人との恋愛とか、家族を置いて浮気をするとか、ドロドロな感じが変にリアルで(笑)。なんか凄すぎて、毎回圧倒されちゃう」
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僕が最初に観たときに衝撃を受けたのは、当時からすでに世界的な大スターだったデヴィッド・ボウイが惜しげもなく裸になっていたことです。

「そう、すごい見えちゃってますよね(笑)。彼はいわゆる“スター街道”みたいなところとは外れたセンスを持っている人だと思うんです。あの映画でぶっ飛んだ、不思議なことをしたのも、きっと快感だったんじゃないかしら。私が好きになるスターって、イギー・ポップや中村達也さんもそうなんだけど、ちょっと変わってる」
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デヴィッド・ボウイ本人が“地球に落ちてきた男”で、人々が当然だと思っている世界の外側からやってきて、ふっと紛れ込んでしまう人だったのかもしれません。“本来いるべきじゃない場所にいる”という感覚を常に持っていたんじゃないかと思うんです。
「アーティストとして、そういうところはあったかもしれません。でも、私は音楽の話も映画の話もしなかったから、彼としても過ごしやすかったんだと思う。20年前くらいに彼が来日した時期、私、プライベートですごく悩んでいたんです。普段、人には絶対に愚痴を漏らさないんだけど、そのとき彼にはいかに辛いことがあったかをとうとうと話してしまって。彼、とても辛抱強く聞いてくれたんです。あとになって考えれば、あんな素晴らしい人に何話していたんだろうって思うんだけど(笑)。でもそのときデヴィッドは、“ヤッコ、悲しかったね、頑張ったね”って言ってくれて。だからまた例によって、べったりくっついて写真を撮ってもらっちゃった(笑)」
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ちゃんと話を聞いてくれたんですね。髪の毛が高額で売れるような大スターなのに……(笑)。

 

1980年 東京のスタジオでの、鋤田正義氏による作品撮り

1980年 六本木のチャイニーズレストラン「東風」にて(photo: Masayoshi Sukita)

 

「私たち、どちらかというとそういう個人的な付き合いだったのです。あのね、これからはこういう自慢大会を目一杯しようと思ってます(笑)。例えば、80年代、90年代に東京のデザイナーズブランドの洋服をデヴィッド・ボウイが着てステージに立っていたのは、全部私がラフォーレ原宿で買って渡していたからだとか、私が着ていたコムデギャルソンのSサイズのジャケットを彼が欲しいって言うんであげたら、つんつるてんのまま着てたとか」
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スタイリストとして気をつけていたことはありますか?
「それが全然なくて、すごく楽でした。私がいいな、と思うものは自然と受け入れてくれました。本当に、相性がよかったんじゃないかしら。彼もすごく信頼してくれていました。それが、『Heroes』のジャケット写真にも繋がったと思います。あれ、原宿のスタジオで、私がレザージャケットを用意して、鋤田さんが撮ったのね。実はそのとき彼はイギー・ポップと来日していて、イギーもその場で撮っていたんだけど。まさかあんな風に使われるとは思いませんでした。あと、よく覚えているのが、やっぱり東京で鋤田さんと撮った写真。デヴィッドがサラリーマンのように出勤している様子を撮りたい、と言って、トレンチコートを用意したんです。おかげさまで、素晴らしいことに関わらせてもらいました」
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最後にデヴィッド・ボウイに会ったのはいつですか?
「2004年かしら。私、自分から会いに行きたいって言わないの。例えば、こんなおしゃべりだけど、楽屋はアーティストが自分の世界に入る場所だから、自分から絶対に話しかけないし。そういう意味では控えめなのです。それに途中から、デヴィッドにはココ・シュワブさんっていう強力なパーソナル・マネージャーがついたから、コントロールも強くて。でも、ココさんにはまた会いたいな」
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僕の知り合いで、この映画を30回観た人がいるんですよ。他にも、10回以上観たっていう人が結構いる。彼自身の歌は聞こえていないけれど、本人を観るにはとてもいい映画だと思います。本人として出てきているようにも見える。
「この世にいない人の息遣いまでわかるなんて、不思議な気持ちになりそう。今回の上映の間、どこかの映画館でぽつっと一人で観ているはずです」

 

高橋靖子(たかはし・やすこ)

1941年生まれのスタイリスト。早稲田大学政経学部卒業後、大手広告代理店を経て、フリーランスのスタイリストとして活動を開始。現在も広告を中心に活躍する。著書に『表参道のヤッコさん』(河出文庫)、『時をかけるヤッコさん』(文藝春秋)など。

TシャツはMachiko Jinto、ジャケットはアレッサンドロ・ミケーレによるGUCCIのメンズ、スカートは自作。

 

『地球に落ちて来た男』
監督:ニコラス・ローグ

原作:ウォルター・テヴィス
出演:デヴィッド・ボウイ、リップ・トーンほか
原題:The Man Who Fell To Earth/1976年/イギリス/139分
配給:boid
© 1976 Studiocanal Films Ltd. All rights reserved.
渋谷ユーロスペース、シネマート心斎橋、ほか全国の劇場で順次公開中

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