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THINK PIECE

Sound Concierge × Numéro TOKYO
-Utopia-

FPMによる選曲のマジックが冴える、Sound Concierge最新作。

08 12/5 UP

Text:Tetsuya Suzuki Photo:Kentaro Matsumoto

Fantastic Plastic Machine=田中知之のライフワークとも呼ぶべき
コンピレーションシリーズ『Sound Concierge』。
最新作となる第11弾は、東京のファッション&クリエイティブシーンのエッジを
感度鋭くキャッチする雑誌『Numéro TOKYO』とのコラボレーション。
Numéro TOKYOとFPMがタッグを組んだと聞けば、
さぞやキャッチーでエッジィーでスタイリッシュなアルバムが出来上がるであろうと思いきや……。
いや、確かにキャッチーでエッジィーでスタイリッシュなアルバムではあるのだが、それは予想とは大きく異なる。
だって、小泉今日子、YOU、美空ひばり、松田聖子がセバスチャン・テリエ、
ベンジャミン・ダイアモンド、ブラック・アイド・ピーズらと並んでいるのだから……。
そう! これこそは、FPMにしかできない"選曲のマジック"が凝縮されたアルバム。
まさにSound Conciergeの面目躍如、なのである。

 

──
こういうコンピって、まずトラックリストをチェックしますよね、やっぱり。たいていの人はそこでこれがなんなのか、わからなくなるでしょう(笑)。とはいえ、勘の良いFPMリスナーなら『これはヤバい。田中さんは何かを考えているはずだ』とわかると思います。というか、田中さんじゃければ成り立たない選曲です。
「そうでしょうね(笑)。僕にしてもNuméro TOKYOという"虎の威"を借りなければ、できない選曲でしょう。もともとこの企画の発端は、アコちゃん(田中杏子・Numéro TOKYO編集長)から、『"Numéro MUSIC"といったイメージで選曲をお願いすることはできますか?』というオファーからなんです。それが、ちょうどSound Concierge・シリーズの新作の準備をしようとしていたときだったので、『Sound Concierge・シリーズとしてNuméro TOKTYOのCDをつくるというのはどうですか?』と返したわけですね。そういう経緯で始まったには始まったんですが、いざ、どんな選曲をするのかというハナシになって、ちょうどCDのリリースタイミングで発売されるNuméro TOKYOの特集が『家族をテーマにしたUTOPIAというタイトルになる』と聞いて。それ、ちょっと意外に感じたんですよ。Numéro TOKYOって"自立した女性のスタイリッシュな生き方を提案"ってイメージがあるでしょう。そして、その意外に感じた部分が、ちょうど今の音楽シーンに対する僕の感覚と繋がるような気がしたんです。
たとえば一連のエレクトロってジャンルの音楽は喜怒哀楽という人間の感情のなかの一面だけを極端に増幅させているようなところがあるじゃないですか。それは悪いことではないし、むしろそういうニュアンスを僕自身、受け入れているところがある。ただ、一方でもっと陰影に富んだ、違うテイストの音楽の在り方というのも今、気になるんですね。それって、一見スタイル至上主義に見える『Numéro TOKYO』が"家族"をテーマにするという感覚と通じるものなのかな、と思ったんです」

 

──
最先端を見ているからこそ、エッジを際立たせることをゴールとせず、違う在り方を提案する、という感覚でしょうか。とはいえ、結果として選ばれたトラック群からは、大きなテーマ的な枠組みだけでは捉えきれない、もっとフォーカスされたコンセプトというか、"狙い"が感じられるんですが。
「もちろん、Numéro TOKYOからもいくつかリクエストを受けていて、それはマニアックな音楽ばかりにしないでほしい、ということと、いろんなタイプの楽曲を入れてほしい、ということ。そして、当然、Numéro TOKYOにゆかりのある人の楽曲も入れようと。小泉今日子さんやYOUさんの楽曲は企画当初から収録することを決めていました。まあ、そんな感じでミーティングをするのなかで、盛り上がっていっちゃった部分がありましたね。『美空ひばりさんや松田聖子さんの楽曲も入れましょう』とか、『美空ひばりとセバスチャン・テリエが一緒にコンパイルされていたら、それこそ、Numéro TOKYOですよ!』とか、編集部の会議室で言ってましたね (笑)。とはいえ、そういうアーティストたちの楽曲を収録するにしてもトータルで聴いたときにエッジィなセンスを感じさせるものにしなければNuméro TOKYO的ではないし、ましてや僕がやる意味も無い。さらにこの手のコンピってクリアランスの問題っていうのが付いてまわるわけですよ。その辺で実に微妙なバランス感を維持しながら、洋邦問わず、メジャー/アングラ問わずの、壮大な音楽の旅をなんとか完成させることができたかな、とは思います」
──
フレンチハウスで始まり、途中、松田聖子、美空ひばりを経て、浅野忠信の弾き語りで終わる。めまぐるしくもイマジネーションに富んだ旅ですね。
「正直ね、やってみるまでどうなるかわからない部分はありましたけどね(笑)。結果、これしかないと思って選んだ楽曲を、これしかないという曲順で繋ぐしかなくて、そうしたら不思議とピタっと収まったんです。まさに天からの授かりものといいましょうか(笑)。Sound Concierge・シリーズはもちろん、これまでたくさんのコンピレーションをつくってきたけれど、こんな経験は初めてですね」