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THINK PIECE

ATAK015 for maria

渋谷慶一郎が亡き妻に捧げた初のピアノソロアルバム

09 10/28 UP

Photo: Kenshu Shintsubo
Text: Tetsuya Suzuki

──
確かにアルバムの冒頭の和音の印象が非常に鮮烈です。
「そのうえで今回、"気配感"というのを意識していて、あたかも、『そこで誰かがピアノを弾いている』ように聴こえるCDが作りたかった。これはまず僕がそういう音を求めているということなんだけれど、現在ピアノをCDで聴こうという場合、立派なコンサートホールで録ったような音ではなく、もっと親密で“近い”音が聴きたい人は多いと思うんです。ただ、それをいかにテクノロジカルに、つまり現実的に作品化するかというのは、かなり難しい。よくローファイにピアノも自宅で録ればいい、とかいう人がいるけれど、そういう方向には興味がないんですね、昔から。目的に対して、現在出来る最善を尽くすという意味ではテクノロジーは外せないわけで、過去の名盤と言われるものはそのチャレンジの結果なわけでしょう。今回はその『どうやって?』という部分で、DSDのような究極に高解像度なメディアを駆使しました。これは、今までやってきたように、どこまで複雑な構造を持つ音を作れるか、とか、音楽外のロジックで音楽を作れるか、というのと同じくらい、あるいはそれ以上にハードルの高い問題設定だと思います。あと、さっきの話に戻ると、ここまで繊細にレコーディングして、なおかつ音量も入っているCDというのは、今までになかったと思います」
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その気配感というのも、やはり、今回のアルバムで特筆されるべき点です。この感覚は今の多くの音楽から失われていると思う。
「デジタル、アコースティックに関わらずその傾向は強いと思います。パーソナルな側面が弱く、マニュアル的な定型が強い。もう20年以上も続いている傾向ですけれど、結果的に音楽というジャンル自体が持つエネルギーも落ち続けている。このアルバムの場合は、その気配感やパーソナルな側面を極端にフォーカスしましたが、それは何よりも自分に必要だったからなんですね。自分には音楽しか救いにならない、というときに作りたくなったのは、こういう音楽だった。救いになるというのは、僕にとっては音楽を作ることもそうだし、音楽を聴くことで救いになるというのも初めて知った。僕にとって音楽はもっと構造物のようなものだったから。それにはね、"近さ"が重要だと思ったんです」

──
このアルバムを発表して、これからどこに向おうと考えていますか?
「一般に、『先鋭的』と『攻撃的』とはほぼ同義に捉えられているけれど、すごく繊細で柔らかい膜のようでいて新しい、というのは可能なんじゃないか、とマリアと話していたんですね。といっても、アンビエントみたいな安易なものではなくて、複雑なシステムやプロセスがあってもそれは膜に覆われている、でも聴いていて何となく感じることは出来る、というような。ただ具体的にどうやって作るかというところまでは行っていなくて、そのときはそれこそ雲を掴むような感じだったけれど、直感的に二人とも次はそれだろう、というイメージを持っていたんです。そういう部分では彼女はすごく敏感というか感覚が速かったから、フロアベースでノイズとビートを組み合わせるというのも飽和しているし、もちろんノイズ原理主義みたいなのもあり得ない、と二人で話しながら絞られていったんです。ただ、このアルバムを作るときにはそんなことは忘れていて、とにかく必死だったけれど、もしかしたらこういうことだったのかもしれないな、という気もしています。『our music』という最後に出来た曲のタイトルを決めてアルバムが完成したときに、このアルバムをインスタレーションにすることは可能だし、コンサートツアーも絶対にやろうと思ったんです。それですぐにYCAM(山口情報芸術センター)で『for maria installation version』というのを作って10月から展示させてもらっているのですが、それは柔らかくて新しい空間になっていると思います。新しい楽園のような」
──
コンサートではアルバムをどう再現するのでしょうか?
「11/1から年末にかけて、京都、名古屋、福岡、東京で『for maria concert version』というツアーをやります。京都ではダムタイプの高谷史郎さんとコラボレーションしますが、僕にとってコンピュータを使わない初めての完全なピアノソロのツアーになります。ただ、アルバムの『concert version』なので、ピアノソロ・コンサートというよりも、アルバムで実現した解像度と“近さ”をさらにライブで押し進めたものになると思います。例えば、自分が小人になってピアノの蓋の中でピアノの音を聴けたら凄そうでしょう? 響きの中にいるというか、響きに包まれているんだけれど決してノイジーではない。コンサートではホール全体をそんな風にピアノの中みたいにしようと思っていて、PAなども相当工夫しています。アルバムの曲とカバーも少しやろうかと思っているのですが、これも柔らかくて新しいコンサートにする予定です。こうやって、このアルバムから既にインスタレーション・バージョンもコンサート・バージョンも生まれて、『for maria』というのがプロジェクトネームになって、当たり前のように生きている。それが僕にとってすごく大きいし、救われている。だから、日々色々とやっているけれど、彼女に少し追いつけたかなと思っています、最近は」

 

『ATAK015 for maria』
Keiichiro Shibuya (ATAK)

¥2,500[税込]

for mariaサンプル
http://www.youtube.com/watch?v=dgnCUxpsNKM

hnyee.Store
http://store.honeyee.com/products/detail.php?product_id=5408


 

for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo tour 2009

for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo
Shiro Takatani playing visuals

2009年11月1日(日)18:00開場/19:00開演
会場: 京都芸術センター
京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
Tel: 075-213-1000
入場料: 前売り3000円 当日3500円(全席自由)
出演: 渋谷慶一郎 (Piano)/高谷史郎 (visuals)
主催: ATAK、dumb type office
共催: 京都芸術センター
前売りチケット: http://atak.jp/reservation
ローソンチケット(http://l-tike.com/ Lコード:56178)
e+(http://eplus.jp
京都芸術センター(窓口販売のみ 10:00〜20:00)

[問] dumb type office
Tel: 075-812-4925
[email protected]

ATAK
[email protected]

for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo

2009年12月5日(土)19:00開場/20:00開演
会場: 電気文化会館ザ・コンサートホール
名古屋市中区栄2-2-5 電気文化会館地下2階
Tel: 052-204-1133 Fax: 052-201-6505
入場料: 前売り3000円 当日4000円(全席自由)
出演: 渋谷慶一郎 (Piano)
主催: ATAK
前売りチケット: http://atak.jp/reservation
ローソンチケット(http://l-tike.com/ Lコード:48437)
e+(http://eplus.jp
電気文化会館 ザ・コンサートホール プレイガイド 052-204-1133

[問] 電気文化会館 ザ・コンサートホール プレイガイド
Tel: 052-204-1133

for maria concert version 名古屋公演事務局
[email protected]

ATAK
[email protected]


2009年12月11日(金)20:00開場/21:00開演
会場: ROOMS
福岡県福岡市中央区大名2丁目1-50大名ONO(オーエヌオー)ビル3F
Tel: 092-751-0075 Fax: 092-791-9170
入場料: 前売り3000円 当日4000円/1drink order(全席自由)
出演: 渋谷慶一郎 (Piano)
主催: ATAK
協力: popmuzik records
前売りチケット: http://atak.jp/reservation
ローソンチケット(http://l-tike.com/ Lコード:85832)
e+(http://eplus.jp
popmuzik records 092-732-5265

[問] ROOMS
Tel: 092-751-0075
[email protected]

popmuzik records
092-732-5265

ATAK
[email protected]


2009年12月25日(金)19:00開場/20:00開演
2009年12月26日(土)18:00開場/19:00開演
会場: ラフォーレミュージアム原宿(ラフォーレ原宿6F)
東京都渋谷区神宮前1-11-6
Tel: 03-3475-0411
入場料: 前売り4000円 当日5000円(全席自由)
出演: 渋谷慶一郎 (Piano)
主催: ATAK
協力: ラフォーレ原宿、ヤマハ株式会社ベーゼンドルファー・ジャパングループ
前売りチケット: http://atak.jp/reservation
ローソンチケット(http://l-tike.com/ Lコード:78544)
e+(http://eplus.jp

[問] ATAK
[email protected]

 

渋谷慶一郎+evala「 for maria installation version 」
[新作サウンドインスタレーション / YCAM委嘱作品]

2010年1月31日(日)まで開催中
10:00–20:00
会場: 山口情報芸術センター[YCAM] 中庭A・B 山口県山口市中園町7-7 Tel: 083-901-2222
入場無料
休館日: 火曜日(祝日の場合は翌日)
*10月26日(月)-11月6日(金)は展覧会のみ臨時閉場
*12月29日(火)-1月3日(日)年末年始のため全館休館
主催: 財団法人山口市文化振興財団
後援: 山口市、山口市教育委員会
協力: ATAK
技術協力: YCAM InterLab
企画制作: 山口情報芸術センター[YCAM]