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THINK PIECE

FPM of FPM

新作アルバム『FPM』表現されたFPMサウンドの真髄。

10 2/2 UP

photo: Shoichi Kajino text: Tetsuya Suzuki

DJ、音楽プロデューサー田中知之のソロプロジェクト=FPM。
FPMがその原点である「ダンスミュージック」の魅力と可能性に
改めてフォーカスしたアルバムをリリースした。アルバムの名は、ズバリ『FPM』。
本作ではメロディアスで親しみやすいポップミュージックとしての魅力を備えつつも、
ダンスミュージックの進化を見据えたクラブシーンのリーダーとしての自覚に満ちた楽曲が並ぶ。
今作はまさにアップデートされたFPMサウンドであり、デビュー以来一貫して追求してきたFPMサウンドの真髄が結晶している。

 

──
本作『FPM』は、アルバム全体にダンスミュージックとしての完成度が意識されていると思います。
「このアルバムの制作中も、いつものペースで大小さまざまなパーティのDJの現場にい続けたんです。『フロアに居続けることこそが制作だ』という気持ちが僕のなかにあったんですね。つまり今作っている曲が、目の前のフロアでどんなリアクションを引き起こすことができるかというのが、このアルバムの制作のなかで重要な判断のポイントだったわけです。かといって、ダンスフロアの流行やマナーだけを純粋に抽出した物を作るというのも、FPMの音楽としてはちょっと違うんじゃないかとも思いました。もちろん、ダンスミュージックの最前線にある質感や傾向を自分なりに掴んでいるし、シーンに対し、いわば勝負を挑み続けているつもりだけれど、その上で、やはり、FPMらしい質感を加えていくことが自分に課せられたテーマである、と」
──
ダンスミュージックの進化を現場で感じながらも、それだけでは「FPM」にならない。そこに、田中さんならではの幅広い音楽的経験から得た要素を幾重にも織り込んで行く必要がある、と。
「そう、いわゆるダンスオリエンテッドではない音楽、例えばメローなレアグルーヴなんかも自分の中には重要な要素としてあるわけで、アルバムの制作に入る前はそういう、リスニング志向の楽曲を中心にするというアイディアも無くは無かった。あるいは、ダンスとリスニングの2枚のディスクに分けるとか。でも今回に関してはダンスフロアにきっちり対応できて、なおかつフロアの“現場主義”のみに貫かれたものではない、フロアの外でも聴きたいと思わせるアルバムにすることを意識しました。ダンスミュージックとして機能するというのは、フロアのサウンドシステムのポテンシャルを使い切れる、という風に僕は考えていて、つまりキックの音がきちんと“鳴って”フロアの隅々まで行き渡らせられるということ。それは“ダンス風味”のものが、世の中に増えてきているけれど、ダンスミュージックと呼べるものが増えているわけではないという思いがあって、それゆえ、ダンスミュージックを自分なりに定義付ける必要があったわけです」

 

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つまりダンスミュージック以外の要素が多いからこそ、ダンスミュージックとしての自作に対して厳密になるということですね。
「エレクトロ以降、世界的なダンスミュージックのトレンドというのは、どんどん手数、音数が減っていくというミニマルな傾向にある。それに対してこのアルバムは音数も多いしアレンジも複雑で、その意味では流行に逆行しているかもしれない。けれど、音の質感の部分ではエレクトロを通過したあるポイントを超えたものでないと、もはや自分の耳が受け付けないというのもあるんです。簡単に言うと、数年前に作られたものがものすごく古く感じるようになっている。だから、自分が今作るものをその数年前で止まったものにはしたくないし、そもそもできないというのも一方ではあって。その古臭く感じないものを、という点では世界のDJシーンとも互角に渡り合えるよう、自分に対して厳しくジャッジしたつもりです」
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シーンの最先端では、その音数が減った結果、ビートがより強調されある種、暴力的な印象のトラックが増えているように思います。
「“FUCK!”を連発するようなハードなダンストラックも嫌いじゃないし、それがフロアで機能するのもよくわかっているけれど、やはり、僕のマナーではないと思うんです。FPMは、叙情性や文学性といった昨今のダンスミュージックがともすれば排除してしまいがちなものをビートのなかにとどめてきたわけです。最近の音楽のなかにはエキセントリックなアイディアだけで存在価値を持つというようなものもあるけれど、それでは僕は満足できない。インスト曲としては成立してもボーカルが入った途端にダメになる曲というのもあるでしょう。ボーカルのメロディが入ることにより、ダンスミュージックとしてはもちろんポップスとしても通用するものを作るというのは大変だけれど、その分、やりがいのあることなんです」
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そうしたFPMの音楽の重層性は、結果として実にオリジナルというか、それを表すには専用のジャンル名を作らなければ間に合わないほどです。ただ、一方でそれらは、スタイルとしてはFPM自身がすでに発明してきたものではあると思います。つまり、ラウンジからヒップホップ、ハウスさらにはロック、ポップスの歴史までを網羅し、そこに旬のサウンドを絶妙なバランス感で取り入れることで、確実にアップデートされた2009年のFPMの音に変換し、新しいサウンドーー“エレクトロニックAOR”や“ディスコ・ラウンジ”とでも呼ぶようなーーを完成させたのではないでしょうか。
「ダンスシーンのカッティングエッジを突き詰めていこうとするなら、今回のような楽曲は作ろうと思わないし、作れないと思う。実際には何の計算も無くて、自分がこれまで作ってきたスタイルの延長にあるわけで。けれど、ちょっとしたことの違いで、それが今の音にもなるし、古くもなる。当然、今の音にしなくてはいけないわけで、そのための試行錯誤は相当に行いました。その試行錯誤の結果、最終的なジャッジは結局、自分が好きと思うかどうかに行き着くことを実感しました。つまり、このアルバムの収録されたのは、すべて僕の好きな音楽。これからもずっと変わらない、僕なりの普遍性を持った音楽なんです」

 

『FPM』

(AVEX-TRAX)
3,000円[税込]
http://www.fpmnet.com/

UNIQLO CALENDARの楽曲制作もFPMが担当。
http://www.uniqlo.com/calendar/