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THINK PIECE

Christian Louboutin×VERBAL

"レッドソール"に秘められたパンクな精神

10 12/8 UP

photo:Kentaro Matsumoto text:Jun Namekata

官能的な赤いソールをアイコンに、世界中の女性を虜にしてきたシューズブランド
「クリスチャン ルブタン」の、待望の日本初の路面店がオープン。
来日中のデザイナー、クリスチャン・ルブタンと、かねてからその靴のファンだったVERBALとの対談が実現した。
日本の旗艦店について、 ルブタン氏が見た日本について、その類い稀なデザイン哲学について。
内に隠れた思いを、VERBAL氏ならではの視点で迫る。

 

クリスチャン・ルブタン

1964年、パリ生まれ。少年時代にパリのナイトライフに出会い、
弱冠16歳でダンサー達に販売するためのシューズを作ることを決意。
<シャネル>や<イブ・サンローラン>といったメゾンでインターンを務めた後、
1992年に自身のブランド<クリスチャン ルブタン>を立ち上げ、パリに1号店をオープン。
現在は世界中で12店舗のブティックを展開。
世界でもっとも官能的なシューズを作るデザイナーのひとりとして知られる。

VERBAL

ヒップホップMC、音楽プロデューサー。m-floやTERIYAKI BOYZ®といった活動のほか、
DJやジュエリーブランドAntonio Murphy & Astro™、AMBUSH®のデザイナーとしても活躍。
また、日本のホップホップをテーマとしたドキュメンタリー映画の監督もつとめるなど、
類い稀なセンスを武器に幅広いシーンで活躍中。

 

──
まずは国内初の路面店を銀座に選んだ理由、ショップのコンセプトなどを教えていただけますか。
Louboutin(以下: L )
「『Christian Louboutin』は世界各国に直営店を持っているけれど、実は大通りに大きな店舗を構えるということはまずしない。どちらかというと裏路地にあって、そして角に建つ小さめの隠れ家的な店舗が多いんだ。だからこの物件を見たとき、まさにぴったりだと思った。光の入り方や大きさもまさに理想的。もともと銀座は好きなエリアだったこともあって、ここに決めたんだ。内装デザインを手がけてくれたのは私の好きなアーティストであるニコラ・セスブロン。ウッドの螺旋階段やオピュームのつぼみのようなウッドのシャンデリアが彼によるものなんだけど、店内に差し込んでくる自然光に美しい陰影を付けてくれているでしょう? とにかく、私はよくある、ただ明るいショップや大きくて暗いショップとは違ったものにしたかったんだ」
──
要所に日本的なデザインも感じられますね。
L
「路面店を作るとき、その都市や国をリフレクトするということはとても重要なことだと思っている。例えばLAにあるショップは、パラマウントスタジオのようなアーチ型のセットを持つ内装になっているんだけど、それはつまりフランス人の私から見たLAというもの。いつも自分なりにその土地のイメージをショップに反映させているんだ。だから東京のショップも同じように、僕の目から見た日本をリフレクトさせている。例えば、このショップの壁や天井にある切り絵をイメージした細工は、僕から見た日本らしさを表したものなんだよ。ほかの国だと、とにかくサイズやスケールの大きいオブジェが評価されることも多いけど、日本人はそうではなく、緻密さや繊細さにこだわるでしょう? 建築デザイナーにはディテールを入れ込み過ぎなんじゃないかと言われたんだけど、今回はあえてそこにこだわったんだ」
──
VERBALさんは、お店を見られてどう感じましたか。
VERBAL(以下: V )
「日本らしさの取り入れ方が斬新ですよね。海を渡って戻って来た独特な感じというか。パリと京都は姉妹都市と言われているけれどそれがとてもわかるようなデザインだと思います。お互いリスペクトし合っているからこそできたものなのじゃないかなと。それに “うちらはこう言うブランドだから世界中どこでもいっしょ!”みたいな感覚じゃないところがすごくいいですよね。クリスチャンはいつもそうやってその土地に合わせたショップデザインを考えているのですか?」
L
「いきいきとしたデザインを完成させるためには、決まりきったものではなく、あらゆるデザインをする必要があるんだよ。それにその方がエキサイティングでしょう? だから私はいつでもすべてのプロジェクトに関わって、常にショップは自分で完成させているんだ。そのためにはその土地について知らなければいけないし、その土地の人々が見ているものに敏感にならなければいけない。特に東京はエキサイティングな街だよ」
V
「日本に路面店をオープンさせるのはもっと早くても良かったと思うのですが、なぜそんなに時間がかかったのでしょうか?」

 

L
「まずひとつは、いい場所を探すことが大変だったこと。そしてもうひとつは、日本人に向けてショップを作るということはほかの国でショップを作るのとはワケが違うと感じていたからかな。細かい要素をしっかりつめていって、これこそが『Christian Louboutin 』だと提案しないかぎり受け入れてもらえないだろうと思ったんだ。なんというか、日本というのはアジアの中でもとても特別な国で、どこかスロウなムードがあるようで、それでいて目覚めたような気分にもなる。それは単なる私の時差ボケなどではなく、この国には自分のツボを刺激する何かがあると感じているんだ。それは香港に行った時もインドに行った時も感じられないものだった。ソフィア・コッポラの映画『ロスト・イン・トランスレーション』はまさにその独特なムードをとらえていると思うのだけど」
V
「たしかに。日本にはそういう独特なムードがあるかもしれないですね。ところで、クリスチャンが靴を作り始めた頃、それはショーガールのためだったと聞いたのですが、今はだれか特定のミューズだったり、イメージしている女性像があったりしますか?」
L
「ミューズを一人に特定することはできないね。そういったインスピレーションは常に変わっていくものだから。ただし、以前マリリン・モンローに関する本を読んだのだけど、それはすごく魅力的な本だった」

V
「それは伝記ですか?」
L
「いや、伝記じゃない。『ブロンド』という名前の本なんだけど、正確に言えば、実はマリリン・モンローのことを書いた本であるということなんてどこにも書いてないんだよ。だけどそれは、読んだ瞬間からこれはマリリン・モンローのことでしかないだろうと思わせる、実に興味深い内容だった。是非みんなにも読んでほしい本だね。それもあって実は先シーズンのコレクションはマリリン・モンローからインスパイアを受けているものが多いんだ。そう言う意味では、一番最近のアイコンは彼女だったかもしれないね」
V
「マリリン・モンローは女性にも時代にも強い影響を与えましたよね」
L
「60年代から70年代のはじめのフランスでは、マリリン・モンローのように女性らしく着飾るということはどちらかというと下品なことだととらえられていたんだ。ハイヒールを履くということもそのひとつだった」
V
「当時のフェミニズムはコンサバだったんですね」