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THINK PIECE

KENGO KORA × SHIN SUZUKI

俳優・高良健吾と写真家・鈴木心が挑戦する、新しい形の写真集

11 2/25 UP

photo:Shin Suzuki, Kengo Kora text:honeyee.com

──
逆に高良さんは、被写体として沢山のカメラマンに撮影されますが、その中で鈴木さんにはどのような印象を持っていましたか?
K
「心さんと仕事をする時は"写真を撮られている"という感じがしないんです。なんというか…映画を撮るような感じに近くて。心さんは"ここでポーズして"とか"こうして、ああして"ということを全く言わない。今回の写真集でもいきなり、海にポーンと投げ出されて、そこで僕が何をするかを見ているんです」
──
それは、試されているのでしょうか。
K
「そうではなく"ここからは高良くんの番だよ"って。自由なんです。単にポーズを変えながら、何枚も何回も撮るのは楽ですが、そこには何も無い。今回は、僕自身必死に海と格闘していたので、ただ写真を撮られているという感覚ではなかったです」
──
一方的に受け身に撮られるのではなく、一緒に作り上げていると。撮られている時は、俳優としての高良健吾なのでしょうか?
K
「まず、自分の事をモデルだと思ったことはなく、モデルとして海の中にいるつもりも無かった。とはいえ、役者としてでもなかった。心さんと僕のふたり、"高良健吾"そのものです。正直、何か演じたりすることができないくらい過酷で寒くて暗くて、波もすごく高くて…」
S
「いやいや、撮影したのは8月だったので、本当はそんなに寒くないんですよ(笑)。高良くんは色んな所で『寒かった』と言っていますが、脂肪があまりないから寒く感じただけで」
K
「あとちょっと体調も悪かったかな。でも、気を許すと海にもっていかれる感じがしたんです。フラッシュのライトで目はみえないし、真っ暗な海はとても怖くて。もっていかれるなと感じると、それとは反対に "生きたい!"という気持ちが出てくるじゃないですか。それは自分が意識しなくても写るだろうと思いました」
──
鈴木さんは、高良さんを裸で海に連れて行く事で、何が出てくると思いましたか?
S
「海という要素を入れた一番の理由は、僕自身は何もしなくてよくなるからです。海だと、例えば波がくるので、高良くんが自動的に何かをしなければいけなくなるじゃないですか。それで十分絵になり、かつ何かがきっと起きる。そこには、役者ではない生身の"高良健吾"そのものが出てくるはずです。また、街では看板など余計な情報がどうしても入るのですが、海では情報が排除されていて、いつどこで撮影したのかもわからない。高良健吾に付いている意味を全て外し、"高良健吾"そのものを撮りたかった」

 

──
撮っている時から、いいモノが撮れているという実感はありましたか?
S
「正直、写っているか不安でした(笑)。何度も波にのまれていくうちに、機材が壊れてしまったんです。フラッシュが点かなくなって、そのカメラに対応していない別のフラッシュを無理矢理使ったりして…。夜が明けてからはデジカメで撮影していたので、どんな風に撮れているか見えましたが、最初は不安でしたね。ファインダーを覗いても見えないので、覗かずに撮っていたのですが、シャッターを押してピカッと光った時に、一瞬止まってみえた高良くんはすごくいい感じだった。途中から、高良くんが海を殴り始めたんです。叫びながら海を殴ったり、波にのまれる時の情けない表情も写っています」
──
今回の写真集では、役者としてはあまり表にでてこない、高良さん自身のエモーショナルな部分が表現されているように感じます。
S
「あの場で海を殴るというアクションは、僕は何も指示をしていない。高良くんは海に入る時に、海に向かって手を合わせて"よろしくお願いします"ってお辞儀をしていたんです。何か霊のようなモノを感じて、そこにあらがおうとしていたのかなと」
S
「海にもっていかれると思ってましたからね。だから、どういう表情をしようとか考える事もなく、ただ海と向き合っていました。正直、僕は撮られた後は何でもいいんです。どんな表情でもいい。写真の中で表現されているのも自分だし、映画でどんな風に撮られても自分は自分です。なにひとつ作ったモノはなくて、自分の心や脳みそから出てきた"僕自身"だと思っています」
──
映画やドラマなどは、大人数のスタッフが関わってひとつの作品ができあがります。今回のような、最低限のスタッフのみで作品を作り上げることで何か発見はありましたか?
K
「たった4人で写真集が作れるということが、僕には驚きでした。本をつくるということはもっと大掛かりなことだと思っていたので。でも僕は写真だから、映像だからといって何か変えるつもりはないんです。写真集に限らず何かをやったことで、必ず自分自身の価値観は変わります。今回の写真集でやったことは、二度と同じようにはできない。次に写真集を作るとしたら、ここには無いモノができると思います。僕はこんなに生々しい表情を撮られたことはなかったので、すごく嬉しかったです。でも、本当に寒かった(笑)」