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THINK PIECE

MURO「Diggin' for Beats」

“King of Diggin'” 約5年振りとなるビート・アルバムが完成。

12 12/17 UP

photo: Kentaro Matsumoto text: yk

国内ヒップホップ・シーンを黎明期からリードし続け、
DJ/プロデューサーとして世界中から支持を得る“King of Diggin’“こと、DJ MURO。
世界中を旅しながら各地のレコードを発掘し、サンプリング/コラージュといった
レコード愛溢れる手法で作り上げた最新作「Diggin’ for Beats」は、実に約5年振りとなるビート・アルバム。
ここ数年の活動、そして今作の制作を通して見出したMUROの理想の場所とは。

 

──
今作「Diggin’ for Beats」はオリジナルのビート・アルバムとしては5年振りとのことですが、このタイミングにリリースされた経緯を教えてください。
「ここ数年、DJも含めて自分の理想の場所というものを模索していたのですが、それを見つけるためには、まず自分から動き出さなくてはいけないと思ったんです。トラックは常に作り続けていたので、作品としてリリースすることで何かが見えてくればいいなと」
──
MUROさんが考える理想の現場、シーンとはどのようなものですか?
「DJをする場所という意味で言うと、DJがPCでプレイすることが主流になった頃から、自分の中では違和感を感じていたんだと思います。レコードの音で踊るというのはすごく楽しいものなので、僕はその文化を残したいし、作り直したいと思うようになったんです。その第一歩として11月にUnder Deer Loungeで“THE JUKE JOINT”という、7インチのドーナツ盤しかプレイしないイベントをやったのですが、300人くらいの人が来てくれて、雰囲気もすごく良かったんです。7インチはもともと、ジューク・ボックスのために作られたものなのですが、それをDJがプレイするということ自体が面白いし、そういった文化を伝えていきたいんです」

──
そのイベントではヒップホップに固執しているわけでなく、あくまでアナログレコードの良さを伝えるという点にフォーカスしているのですか?
「そうですね。ゲストとしてNYからNatasha Diggsという女性のDJを呼んだのですが、他の出演者も様々なジャンルで7インチDJをしている方にお願いしました。それが7時から12時という時間帯でのイベントだったにも関わらず、お店のお酒が無くなるほどに盛り上がって。今回のイベントでは仕事終わりにフラっと立ち寄れる場所で、お酒を飲みながら良い音楽を聴ける、かつ終電で帰れるという社交場的なコンセプトにしたのですが、実際に終わってみて感じたのは、今お客さんが求めているイベントの時間や場所がこれまでとは変わってきているんじゃないかということなんです。去年はDo Overというロサンゼルスのイベントをディクショナリー倶楽部の前の広場でやったのですが、日曜の昼間にも関わらずもの凄く盛り上がって、僕の中では久しぶりに新しさを感じたんです。これまではイベントと言えばクラブでオールナイトというのが常でしたが、今は必ずしもそうではないのかなと感じています」

 

──
自分の理想とする場所を数年間模索してきて、ようやくMUROさんの中でそれが見え始めたタイミングでリリースされたのが「Diggin’ for Beats」であると。
「そうですね。自分の中で常に”旅”がコンセプトにあって、訪れた場所ごとで感じたことを形にしておきたいんです。この間もイスラエルに行ったので、ご当地のものをループしてみたいなとか思ったりして。前回のアルバムではアメリカやイギリスのレア・グルーヴのように、それまで自分が通ってきた道を意識して作ったのですが、今回はその後に訪れた様々な国、特にアメリカナイズされていない国で感じた、自分が基準でいいという自由さを意識しました。今は自分の自由に表現ができる時代だと思うので、今ヒップホップをやっている若い子にとってはいい環境だと思うんです」
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これまでの作品でも使われてきたサンプリング/コラージュ的な手法をベースにしながらも、今作ではある種の多民族性というか、本当に様々な音楽がミックスされていると感じたのですが、具体的な制作方法はどのようなものでしたか?
「プロツールスを使って、サンプリングした音をパズルのように組み立てる作業ですね。バスドラムやスネア、ハイハットといったリズム隊も、それぞれ違う曲から取り込んで組み合わせるというような、90年代のサンプリング文化の美学に大きな影響を受けたので、それは今作でも生かしています。DJをやる時も、インストとアカペラで違う曲同士をブレンドしてプレイするという感覚が、僕の中で一番大切にしたい部分なんです」