Michael Costiff
ロンドン・カルチャーの伝説の人物
マイケル・コスティフの刺激的なメモワール
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photo: Yayoi Arimoto interview: Misho Matsue
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- さらに、2007年にはコム デ ギャルソン オム プリュスのショーでモデルも務めていますよね。ガリンダの話に戻りますが、やはりマイケル&ガリンダのカップルはロンドンカルチャーのアイコン的存在だったと思います。彼女について改めて教えてください。
- 「僕と出会う前、ティーンエイジャーの頃にパリのファッションスクールの生徒だったけれど、あまり真面目じゃなかったらしいね(笑)。彼女のオリジナルな着こなしは、勉強して身につけたものではないんだよ。二人ともすごくエキセントリックなところがあって、一目で惹かれ合ったと言えるかな。ずっと独身で過ごすんじゃないかと心配していた僕たちの両親は、それは喜んだよ(笑)。ロンドンに出てきてから僕は“I Was Lord Kitchener’s Valet”というスウィンギング・ロンドンを代表するブティックで働いていて、その頃からいろいろなものを集めていたんだ。初めて僕のフラットに来たガリンダが、『あなたはアンティークのディーラーなの?!』と驚いたほど。それから少しすると、彼女が僕の手に負えない収集物をフリーマーケットに出品できるよう手配してくれた。ドイツ人だけあってビジネスの感覚があるんだな、と思ったね(笑)」
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- 本の中には、例えばリオ・デジャネイロのカーニバルの写真も収められていますが、二人はよく旅に出ていたのですか。
- 「そう。あるパーティーでコスチュームコンテストがあり、僕がガリンダのコスチュームを作ったんだけど、その優勝賞品としてリオ行きのチケットを贈られたんだ。そして2週間後にはブラジルに旅立ったよ。それ以来、14年続けてリオのカーニバルを訪れたんだ。旅では奇跡のようにいろいろなことが起こったね。いまでも、旅先では必ずマーケットをチェックしているんだけど、観光客向けではなく、ディープなエリアのほうが好きかな。インターナショナルなビッグブランドのプロダクトにはない、街の生活、文化、歴史を感じられるさまざまな面白いものが集まっているからね。退屈なビーチにだけは絶対に行かないよ(笑)」
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- マーケット以外で、東京でお気に入りの場所はありますか。
- 「来るたびに明治神宮に行っているよ。静かで落ち着いた、あの雰囲気が好きなんだ。それから前回訪れた根津美術館もとても良かった。でも、どこに行っても新たな人々との出会いを楽しんでいるよ」
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- 旅を続けるバイタリティはどこから来るのでしょうか。
- 「僕にもわからないな(笑)。ガリンダとの別れという、人生で最悪の出来事はもう乗り越えたのだから、これ以上の哀しい出来事は起こりえない。だから今は、いろいろな心配をせずにポジティヴに過ごせている、というのはあるかもしれない。ただ、最近はほとんど仕事関連の出張が多いかな。プランも、キャリアさえもない僕にこうやって声をかけてもらえるのは、とてもありがたいことだと感謝しているけれど」
青年時代のマイケル(中央)と自転車ラヴァーであった
若き頃の祖父の写真。
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- とんでもない、素晴らしい歴史をお持ちです。
- 「そうだといいけれど。とはいっても、クリスマス休暇にキム・ジョーンズとLAを旅したり、プライヴェートでも時間を見つけて出かけてはいるんだ」
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- いま、ルイ・ヴィトンのメンズ スタイル・ディレクターのキム・ジョーンズの名前が出ましたが、この本は彼のプライベートレーベル、「Slow Loris」から出版されているんですよね。
- 「キムとは、たしかマーク・ジェイコブスに勤める友人に紹介してもらって知り合ったんだと思う。ある日彼が僕のフラットに遊びに来た時、話の流れで僕が書きためてきた日記を見せることになったんだけど、キムはその時すごく興奮して、これは多くの人に見てもらうべきだ、という話になって。それからスムーズに出版の話が進んだんだ」
マイケル自身のメモと当時ファッションアイコン
でもあったガリンダがモデルを務めた
スティーブン・ジョーンズのDM。
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- キム・ジョーンズといえば音楽をはじめカルチャーへの深い愛情でも知られていますね。ジェネレーションが違えど仲の良い友人として、彼のことはどう思いますか。
- 「キムは思いやりがあるし、会った人のことをディテールまで本当によく覚えていて、とても素敵な人物だよ。毎シーズン、ルイ・ヴィトンのコレクションにも招待してくれて、パリのランウェイも見ているけれど、とても才能のある男だしね。すごく面白いものを手に入れた時は、写真を撮ってキムに送りつけ、うらやましがらせているんだよ(笑)」
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- このたびDSMGのWorld Archiveも一周年を迎えましたが、このショップはロンドンにあった「World」がドーバー ストリート マーケットに復活したものということで、改めてショップのコンセプトを教えてください。
- 「さっきも話したように、旅ではいつも面白いものを探してショッピングしていて、あまりにもモノが増えすぎてしまったのがWorldを開いたきっかけ。世界中の民族衣装やアクセサリーを扱っていたので、ショップには頻繁にスタイリストがやってきて、シューティング用の小物としてよく雑誌にも掲載されていたんだけれど、僕としてはショップを持っていればもっと色々なものが買えていいな、と思っていたね(笑)。僕は特別に何かを学んだりしてきたわけではないけれど、これまでファッションデザイン、ショップ、インテリアなどさまざまなことに携わってこられたのは、周りのみんなが僕のテイストを信頼してくれたからであって、レイもその一人。これは天からの贈り物なのだと思っているよ」
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- 今日も手元のカフがとても素敵ですが、最後に、もしファッションのポリシーがあれば伺えますか。
- 「その日の気分で着たいものを着ているだけ。でも一つ挙げるとすれば、あまり若すぎる格好はしないように気を付けているかな(笑)」
Michael & Gerlinde's World: Pages from a Diary
ハードカバー 10,500円[税込]
ペーパーバック 5,250円[税込]
ドーバー ストリート マーケット ギンザにて発売中