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THINK PIECE

MOODMAN
"Crustal Movement Volume 03. SF"

最新MIX作品から見る、謎に包まれたMOODMANの音楽性。

13 5/7 UP

photo: Satomi Yamauchi interview: Tetsuya Suzuki

80年代後半より特定のジャンルやシーンに囚われず、常に全く異なる音楽を分裂的に掘り下げてきたDJ、MOODMAN。
その独自のスタイルながら、あらゆるダンスフロアからのラブコールが絶えず、唯一無二の音響空間を通じ、
驚きや発見、記憶につながる音楽体験を提示し続けている。
今回のインタビューでは、先日リリースされた最新MIX作品“Crustal Movement Volume 03. SF”を通して、
謎に包まれたMOODMANの音楽性を解き明かす。

 

──
5年前の作品「Adult Oriented Click」ではクリック・ハウスをテーマにされていましたが、今回は何がインスピレーションとなったのでしょうか?
「今回のミックスでは僕なりにディープハウスのサイドから、ベース・ミュージックにアプローチすることをテーマにしています。ベース・ミュージックと一言で呼んでも、ジャンルとジャンルの狭間を縫うような新しい音楽が次々に生まれていて、その辺りがちょうど個人的に面白いと思ったので、今回の作品でも中心的にピックアップしました。それから、僕は昔からインテリジェント・テクノと呼ばれていた音楽が好きだったのですが、そのアーティスト達は当時のレイヴ・カルチャーから受けた影響を自分たちの作品に活かしていて、その感覚がここ最近のベース・ミュージックのシーンにも近いものを感じていたんです。なので、その二つをうまくコンパイルしてミックスしたものを作るように意識しましたね」

──
MOODMANさんはジャンルレスであると同時に全てのジャンルに対応するDJをされていますが、この作品を作る上でどのシチュエーションでも機能する音楽というものを意識しましたか?
「今回ピックアップしたのはどれもキャラクターがはっきりせず、そのまま捨てておかれる可能性のあるものなのですが、そういうものをミックスすることでそこに価値を与えるようには意識しましたね。それから、データでDJをするようになってからミックスが短くなったんです。おそらく、アナログでは曲だと考えていたものがデータでは素材だと感じるようになったからだと思うのですが、その素材を繋ぎ合わせて一つの曲にするという感覚ですね。ミックスCDを作る際にはいつも、何度聴いてもその時々で新しい発見があるように意識しているんですが、クイックミックスもそれを実現する上での手段の一つなのだと思いますね」
──
実際の作業はどのように行ったのですか?
「まずWAVファイルで音源を入手して、ミックスはCDJを使った部分と、PC上でミックスした部分、またCDJでミックスしたものをPCで編集した部分などを組み合わせて形にしています。僕の現場でのDJの手癖をあえて残している部分もあるし、様々な手法を用いて複合的に作ました。マスタリングもデジタル特有の平たい音を避けるために、UREIを通して鳴らしたような音に近づけてもらいました。とはいえ、手法としてはデジタルだからこそできたミックスですね」

 

──
一般的にはDJのデジタル化が進んでいる中でも、依然アナログ派を貫いているDJも多いですよね。
「僕もアナログが譲れない部分はあるんですよ。実際、デジタルを買うようになってからもアナログを買う量は減っていないですし、自分の中では別物だと思っているんです。今、DJをやる時は現場の音の環境によって臨機応変にしています。お客さんにもアナログの音が聴きたいという人は多いので、そういう時はアナログの良さを引き出すようなプレイをするように心がけています。あと、曲によってもそうですね。スカやレゲエをかける時は断然アナログの方がいいですし、ダブステップの時はデジタルの方が鳴りがいいんです」
──
MOODMANさんのDJはあまりにも多面的なスタイルがあるが故に、あらゆる現場、作品においてのプレゼンテーションのされ方、見られ方に違和感を感じることはありませんか?
「一時期それで悩んだこともあったのですが、もうDJとして20年以上のキャリアがあって、歳を追うごとに音楽の趣向が更に拡散しているので、もはや考えることをやめました。今は声をかけてもらったそれぞれの現場でベストなプレイをすることだけを意識しています。世の中を理解しようとする時に一つのことを極めて悟るという人もいると思うのですが、僕にはそれができないんです。地図を書くことに例えるなら、俯瞰して書くのではなく、伊能忠敬のように歩き回って書く方が向いているんだと思いますね(笑)」
──
20年以上のキャリアがありながら、DJを職業としては捉えていないところが、またMOODMANさんが他のDJ達とは異なる部分ですね。
「こだわる部分が違うのかもしれませんね。結局、何でも突き詰めていくとアートになると思うんですが、僕はその一歩手前の状態が好きなんですよ。ミックスCDを映像で言うと、僕が作りたいのは映画ではなく、ドキュメンタリーに近いんです。ドキュメンタリーは常にフラットに撮っていくものですが、編集の過程でそれぞれの個性がでますよね。僕にとってはそれくらいの自己表現がちょうどいいんです」