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THINK PIECE

RYOJI IKEDA

池田亮司「test pattern[n°6]」が東京に与えた衝撃

14 11/21 UP

photo: Yasuharu Sasaki / Red Bull Content Pool
text by Arina Tsukada

テクノロジーの領界を越え、新たな現象を生み出すアーティスト・池田亮司。
NYのタイムズスクエアをはじめ、世界中を圧巻した『test pattern』の日本上陸は、
一体どんなインパクトを東京にもたらしたのか?
知覚を拡張していく池田亮司の世界を「体験」することの意味に迫る。

 

東京・青山で0時を回る頃、青山スパイラルビルには長蛇の列ができていた。深夜営業の音楽イベントでもない限り、こんな光景はついぞ見たことがない。彼らはアーティスト池田亮司のインスタレーション『test pattern[n°6]』を目がけてやってきた人々。11月5日〜9日の5日間、Red Bull Music Academy主宰によるアートイベントの目玉企画として開催されたこの展示だが、驚くべきことに金曜と土曜は24時間オープンとあって、深夜まで連日多くの人々が押し寄せた。
池田亮司といえば、パリを拠点とする電子音楽家・ビジュアルアーティストだ。音と映像の本質的な特性を追求することで、数学的な精度と美学を両立させた圧倒的なパフォーマンスを世界各地で開催し、見る者を震撼させ続けている。今年10月にはNYのタイムズスクエアのビルボード広告をジャック。世界巡回を続ける自身のシリーズ作品『test pattern』を47ものデジタルスクリーンに投影し、大都市の腹心部で白と黒のバーコード・パターンが高速点滅する驚異的なビジュアル空間を生み出した。
過去にはダムタイプの舞台音楽を手がけたことでも知られる池田だが、近年の世界的評価は目覚ましく、欧米からアジア、南米まで各地でワールドツアーや個展を展開するなど、現在は50におよぶプロジェクトが進行しているという。過去にライブパフォーマンス

公演などで何度か来日していたものの、東京における大型のインスタレーション展示は2009年の東京都現代美術館の個展以来だ。
今回発表された『test pattern[n°6]』は、テキストからサウンド、映像などあらゆるデータを2進法のバーコード・パターンに変換し、ときに高速で点滅する光とサウンドによって、デジタル機器表現における人間の知覚の極限に迫ったものだ。ここまで書くと、デジタルノイズに溢れた難解な空間を想像してしまうかもしれない。しかし、あの場所を体験した人々からは、体の力が抜ける「究極のリラックス空間」といった感想が各所でこぼれていた。完全シンクロしたサウンドと光の点滅は、聴覚と視覚が同時に刺激され、まるで自身の体内リズムと深い部分でリンクするかのようでもあった。ある刺激に対して複数の感覚が生じること、たとえば音に色を感じたり、カタチに味を感じたりするような知覚現象を「共感覚」と呼ぶが、これに通じるものとして視覚と聴覚を司るオーディオビジュアル表現における究極の体験がそこに存在していた。もちろん感じ方は人それぞれであるが、展示空間には床に寝そべる人、リズムに体を揺らせる人、ときには瞑想をする人(NYで披露されたときはヨガをする人まで)がいたことを見ても、ここに何らかの快感を誘発するものがあったことは間違いないだろう。

 

Ryoji Ikeda: Test Pattern 100m Version at Ruhrtriennale 2013‬