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THINK PIECE

オオカミは嘘をつく

鬼才・タランティーノが絶賛した
イスラエル発のクライム・サスペンス

14 12/2 UP

photo: Satomi Yamauchi
interview & text: Misho Matsue

昨年、クエンティン・タランティーノが釜山映画祭にて“the best film of the year”と呼んだことで話題になった、
イスラエル発のクライム・サスペンス『オオカミは嘘をつく』が公開中だ。少女連続殺人事件の容疑者、被害者の父親、
そして粗野な刑事、3人のオオカミたちが繰り広げるスリリングなストーリーを通して監督が描きたかったものとは。
来日したナヴォット・パプシャド、アハロン・ケシャレス両監督に尋ねた。

 

──
ジェットコースターのような展開が面白くて、あっという間の2時間弱だったのですが、まず、オープニングシーンの映像美が非常に印象的でした。
ナヴォット・パプシャド(以下N)「作品全体をダークファンタジーとして捉えることもできると思うので、その導入として冒頭のシーンではおとぎ話のようなムードを重視しました。また、かくれんぼは子供の遊びですが、視点を変えると捕食者による狩りのようにも見えますよね。多くのオオカミたちが登場するこの映画において、そういった意味でのメタファーとしたいと思ったのと、続くシークエンスでは刑事たちによる容疑者への拷問が繰り広げられるので、無垢な子供時代の終焉といった意味も持たせています。非常に重要なシーンとして色彩設計にもこだわっていて、作品におけるすべてのカラーパレットが登場しています」
アハロン・ケシャレス(以下A)「赤いドレスを着た少女はもちろん赤ずきんもイメージしていますが、中盤には銃を持ち狩人のような格好をした老人が出てくるなど、おとぎ話に共鳴するような要素に気付いてもらえると思います。従来のイスラエル映画では、衣装をはじめ美術全体においてリアリズムが追求されてきたのに対し、
この作品ではストーリーにふさわしいかどうか、という視点で衣装やセットを一つ一つ選びました。そういった意味で、これまでのイスラエル映画とは違った作品になっていると思います」
──
今作でお二人は脚本も手がけていますよね。まずは、刑事・ミッキから少女連続殺人事件の犯人であるとされて尋問を受け、被害者の父親からは復讐を受けるドロールのキャラクター作りから始めたそうですが、彼の職業が「宗教学の教師」であるという設定はなくてはならないものだったのでしょうか?
A
「この作品の脚本で目指したのは、イスラエル社会への私たちの思いを表現することです。イスラエルは父親をトップとした男性優位社会であり、徴兵制度があるため、登場する男性キャラクターは皆、軍隊経験者です。また、残念ながら警察をはじめとする国家組織が腐敗しており、映画で描かれているような、容赦ない尋問も行われています。ドロールを宗教学の教師としたのは、教師というものは子供たちに善悪を教える職業だから。そして聖書は大人も含めて、人々に何が正しく何が間違っているのかを示すはずのものですよね。そんな彼に、本人は罪を認めていないながらも“子供に牙をむく悪者”のレッテルを貼ることで、教育についても考察しています」

 

──
イスラエルの社会を描く上で、緊迫した状況に過剰なほどのブラックユーモアも挟みながら、あくまでエンターテインメント作品として完成させたのはなぜですか?
N
「二人とも80年代に育ったので、スピルバーグ、ルーカス、ゼメキス、スコセッシ、コッポラといったアメリカ映画は大好きです。その後、日本や韓国の映画も観るようになり、映画を作るのであれば、まずは自分たちが観たいと思えるような作品でなくては、と考えていました。それから、イスラエルには政治や社会を扱ったテーマがダイレクトなドラマが多く、行間を読めるような作品がありませんでした。第一に、ポップコーンを片手にエンターテインメントとして楽しめ、興味がある人は根底に深いテーマを読み取れるような作品を作ることは大きなチャレンジでした」