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THINK PIECE

オオカミは嘘をつく

鬼才・タランティーノが絶賛した
イスラエル発のクライム・サスペンス

14 12/2 UP

photo: Satomi Yamauchi
interview & text: Misho Matsue

 

──
まずは自分たちが観たい映画として作られたとはいえ、作品は世界中の映画祭を旅してきました。いわゆるハリウッドのシステムに対するオルタナティヴな映画作りは意識したのでしょうか?
A
「もっともすべきでないのは、アメリカに住んでさえいない私たちがハリウッドをそのままコピーすること。生まれ育った国の文化や歴史を無視して、『13日の金曜日』のような映画を作るのは賢明ではないと考えています。私たちであれば、イスラエルでジャンル映画はどうあるべきなのか、と重視しています。デビュー作の『ザ・マッドネス 狂乱の森』はスラッシャームービーだったのですが、企画の段階では周囲から『イスラエルには殺人鬼なんていないのに、そんな映画を作ってどうする』と笑われました。ですがその状況を逆手に取り、脅威であるはずの殺人鬼は冒頭15分で麻酔銃で眠らされ、エンディングまで目を覚まさない、という設定にしました。またハリウッド映画、たとえば『ソウ』であれば最初から最後まで拷問シーンが満載ですが、『オオカミは嘘をつく』における拷問には、被害者父親の両親によりたびたび邪魔が入ります。ユダヤの母親はタイミングの悪い時に電話をかけてきて、子供の健康を常に気遣い、具合が悪ければチキンスープを作って飲ませる、と言われています。ハリウッドの定型を参照しながらも、
その国ならではのディテールを織り込むことが大切だと思います。もっとも、私たちは日本映画を見すぎていて、王道のハリウッド風映画なんて作れないかもしれませんが(笑)」
──
イスラエルをめぐる情勢についてはここ日本でも報道されていますが、文化やカルチャーについては詳しく知らない人がほとんどだと思います。作品づくりの姿勢においてあなた方が共感しているクリエイターがいれば教えてください。
A
「ご存知のように近年、国内外で紛争やデモが起こっているばかりでなく、物価の上昇や治安の悪化、そして先ほどお話しした腐敗も警察だけでなく政府にまで及び、大統領でさえスタッフへのセクハラで投獄されるなど、イスラエルは変わりつつあります。そんな中、多くの国民が対話をしたいと感じているのではないかと考えています。もちろん映画制作者たちもこういった問題にアプローチしていて、たとえば昨年アカデミー賞にもノミネートされた、Dror Morehによる『The Gatekeepers』は、イスラエルの国内情報機関であるシンベトの活動をテーマにしたドキュメンタリーです。15年前にはあり得なかったような、国民が目にしたくない現実を形にした作品が作られつつあり、テレビ関係者やジャーナリストたちも声を上げてきています」

 

監督:ナヴォット・パプシャド+アハロン・ケシャレス
出演:リオール・アシュケナズィ、ツァヒ・グラッド、ロテム・ケイナン、ドヴ・グリックマン ほか
原題:Big Bad Wolves
製作国:2013年イスラエル
上映時間:110分
配給:ショウゲート
http://www.bigbadwolves.jp/

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