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THINK PIECE

EDEN/エデン

90年代、パリのクラブシーンで夢を追いかけた若きDJの物語。
瀧見憲司と梶野彰一に訊く、本作の見どころ

15 9/10 UP

photo: Kentaro Matsumoto
interview: Tetsuya Suzuki
text: Aika Kawada

 

K
「最初に、シリルがダフトパンクの絵を描く場面から、デッサンが出てくるのですが、全てシリルのモデルになったマティアス・クザンの本物の絵なんですよ。本が出る前に亡くなったところも、かなりリアルに描いているんです。それには、驚きましたね」
T
「完全に副読本でしょ。読んでから観ると確実に理解が深まるのは間違いない」
──
かつてシーンを共にした、仲間のために作った映画にも思えますね。
K
「マティアスに関していうと、『One More Time』の一番良い時期の後に、9.11のテロが起き、世の中が段々暗くなった頃に亡くなりました。フレンチタッチの盛衰にも時期的にリンクする印象があります」
T
「ポールは、同じDJでも、その辺りでKings Of Tommorowの『Finally』をかけていて、映画でのそのシーンは凄く盛り上がっていたけど、それも実際のシーンの変節期とリンクしていて、この曲はこの映画でガラージといっている歌物ハウスのヨーロッパでの最後のヒット曲的な存在で、その後、よりミニマルでテクノ的なテクスチャー重視のトラックが主流になっていくんだよね。そこから彼がシーンとずれていく姿が描かれていく」
K
「色々な意味で2000年の『One More Time』が頂点で、転換期だったのかもしれないです。Daft Punkのトマと喧嘩別れしたBob Sinclarは、その辺で『Champs-Élysées』というアルバムを出し、一気にメジャーな方向に走り、David Guettaらが続く道を開いた。Daft PunkはJUSTICEら新たなフレンチ エレクトロの流れにバトンを託したわけです」

 

ファンジン「eDEN」の表紙。ファンジン=fan(ファン)+magazine(雑誌)の意味で、ファンが集い評論や創作物を掲載した雑誌のこと。映画のタイトルもここから名付けられた。 mmparis.com

──
2000年代初頭のパリは、音楽に限らずデザインやグラフィックの世界も、クリエイティブな力があったわけです。そこに興味がある人にとっても、このシーンということではアーカイブスといえますね。
K
「『EDEN』とは、“音楽のパラダイス”をイメージしたタイトルですが、実は当時売っていた、ファンジンの名前でもあるんです。そのチームの中には、M/M (paris)のミカエルもいて、改めてデザインを見るとたしかにM/M (paris)っぽい」
T
「同じ時代に世界中で同じことやっている人がいたわけですよね。国や音楽のジャンルは違えど、何か動きが近かったというか。インターネット前夜の当時は世界中でファンジン作っている人がいて、マニアックな情報を軸にコミュニティーを作っていたわけだよね。イギリスでも日本でもアメリカでも」

 

──
小説だったら、どんなにリアルに書かれていても、音は鳴ってくれないわけです。そういう意味では、映画だからこそ完成出来た作品ですね。
T
「作中の時間軸がパリなので、若干リリースの時点と現場での盛り上がりがずれているのも発見でした。当時、曲によっては、時間がずれた状態でパリでは盛り上がっていたというのがわかるのも面白いですね」
K
「Style Councilの『Shout to the Top』が、Le Baronでかかるのも2000年代になった実感がします。Le Baronがリュックスなのにチージーなクラブとして出てくるのも良い。あのダサい盛り上がりも、ちゃんとパリのリアルですよね(笑)。僕もパリの今のクラブシーンには勢いを感じない。それは、自分の年齢のせいなのか、本当に音楽がつまらないのか、わからない時がある。2005年あたり、Para OneやSurkinとの出会いには、新しい刺激を感じましたが、それ以降はどうも……。ダンスミュージックに“パリ”、“フレンチ”というローカル性はもう生まれないのかも。もちろん、個別にいいと思うアーティストはいるけれど」
T
「結局シーンとして、フレンチタッチの規模まではいかないわけですよね。影響力とマーケットの規模は必ずしも比例するわけじゃないしね。でも、現場の当事者じゃないと、年齢とともに(クラブシーンから)離れていくのが普通だと思います。そうやって、世代交代していくわけですし」
──
ちなみに、今のDaft Punkに関してはいかがですか。
K
「僕にとってはずっと、神のような存在ですよ(笑)。でもそれを揺るがす、新しい刺激をずっと欲しています。世紀末周辺はマスの心をつかめる最後の時期だったのかもしれません。極端に言うと、

「eDEN」の編集ページ。1992年から1996年まで刊行され、デザインにはM/M(paris)のメンバーも 携わっていた。HPからアーカイヴが閲覧可能。

いつまでも『Born Slippy』や『Star Guitar』がある世代のアンセムで、ロックではOASISを超えられないのと同じ状況かも……」
T
「ロックでいうウッドストック世代とも同じかもしれないですね。型や音響としてのロックの全盛期が70年代辺りにあるとしたら、クラブ ミュージックの型や音響としての全盛期は90年代だろうし、要するに、クラブ ミュージックも完全に歴史化したということでしょうね。大体音楽ジャンルはスタイルが確定すると、リサイクルされていく過程で、意味性が喪失してフォーマットや音響の強度や転換、もしくは様式美の追求で生き残っていくのですが、DJやクラブ ミュージックもそういうものになったという現実を突きつけられているという感じがします。『EDEN』は、音楽があり、風俗があり、恋愛があり、夢をみて破滅するという部分でも、『さらば青春の光』(79年)にも近いのかもしれませんね。いや、歴史化することによって型としては普遍性を獲得して、筋としては現在進行形にもなるので、世界中の観る人それぞれが「Eden」を、というのがいいのではないでしょうか」

 

赤い照明が印象的なクラブ、Le Baronのシーン

デヴィット・リンチが手がけたクラブ、SILENCIOでDJするClara 3000

 

「EDEN / エデン」

監督: ミア=ハンセン=ラヴ
脚本: ミア・ハンセン=ラヴ、スヴェン・ハンセン=ラヴ
撮影: ド二・ルノワール
出演: フェリックス・ド・ジヴリ、ポリーヌ・エチエンヌ、ヴァンサン・マケーニュ、ロマン・コリンカ
フランス/2014年/131分/フランス語/カラー/DCP上映/原題:EDEN
9月5日(土)より新宿シネマカリテ、大阪ステーションシティシネマほか全国順次ロードショー

www.eden-movie.jp

 

「EDEN Sound Track」

3,300円[税抜き]
©Hamburger Records/CG Cinema/ Rambling RECORDS

SideA
01) Plastic Dreams (0riginal version) – Jaydee
02) Sueño Latino (Illusion first mix) – Sueño Latino
03) Follow me (Club Mix) – Aly-Us
04) The Whistle Song (Original version) – Frankie Knuckles
05) Sweet Harmony – Liquid
06)Promised Land (Club mix) – Joe Smooth
07) Da Funk – Daft Punk
08) Get up Everybody (Parade mix) – Byron Stingily
09) Solid Ground (Spensane vocal mix) – Jasper Street Company
10)The Mkappella – MK&Alana Simon
11) The Cricket Song (Joe T. Vannelli’s club mix) – Unique

SideB
01) Venus (Sunshine People)(Dj Gregory full length mix)– Cheek
02) Make a Living – The African Dream
03) Happy Song (4007 Original mix) – Charles Dockins
04) Sweet Music – Terry Hunter
05) Veridis Quo – Daft Punk
06) Amazing – Catalan FC & Sven Løve feat. Kenny Bobien
07) Finally (Orignal extended mix) – Kings Of Tomorrow
08) Blackwater (Strings vocal mix) – Octave one ft. Ann Saunderson
09) Little Girl (Original version) – Viola
10) Brotha (DJ Spen & Karizma remix) – Angie Stone
11) Gypsy Woman (La Da Dee) (Basement Boy Strip to the Bone mix) – Cristal Waters
12) Just As Long As I Got You – Love Committee

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