THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ
初の日本公演にむけ、パティ・スミスとフィリップ・グラスが語った言葉
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photo: Yoshie Tominaga(p1 Patti Smith)
Questions for Philip Glass
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- フィリップ・グラスさんが完成させた「POET SPEAKS」のコンセプト、アイデアはどこから生まれてきたのでしょうか。
- 「1988年にベトナム退役軍人のための慈善コンサートを主催していたトム・バードから、出演の話をもらったときに、ニューヨークのセント・マーク書店でアレン・ギンズバーグとばったり出くわしたんです。ふたりとも詩集のコーナーにいて、アレンが棚から一冊の本を手に取って、『Wichita Vortex Sutra』という詩を見せてくれました。アレンが1966年に書いたその詩は、当時の反戦への願いを色濃く反映していて、前述のコンサートで演奏するには適しているように思えたんです。その詩に合うような曲を書いて、アレンと一緒にブロードウェイにあるシューベルト・シアターでポエトリー・リーディングのパフォーマンスをしました。アレンとのコラボレーションが本当に楽しくて、パフォーマンスをもっと発展させて、劇場作品の形にしたらどうかって話が出たんです。1988年の大統領選の直後で、候補者であったブッシュ、デュカキスのどちらも当時起こっていた問題について話そうとしなかった。僕はアレンにこう言ったんです。彼らに問題意識がないなら、代わりに僕たちが話すべきだって」
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- 生前のアレン・ギンズバーグと深い親交をお持ちとのことですが、あなたにとって彼はどのような人物でしたか。
- 「すべてのアーティストが、死後も語り継がれる訳ではないですよね。もしあなたの作品がシェイクスピアのようにずっと知られるものになるなら、それは大変幸運なことです。でも今現在こうして存在する自分が、100年後に記憶に刻まれるアーティストかどうかは知る術がありませんし、考えたところで分からない。でもアレンの存在に関して言えば、僕にはひとつ分かり始めたことがあるんです。アレンは恐らく人々の記憶に生き続けるいわば不死身の存在になろうとしている。不死身といったのは、彼の作品はどの時代に生きるどんな人にも訴えかけるという意味においてです。アレンは僕の友人であり、偉大な巨匠でした」
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- ギンズバーグの作品は、今も多くの人に愛されていますが、あなたにとって彼の文学のどのようなところが最も魅力的ですか。
- 「アレンはよく“最初に思い浮かんだ思考が最良の思考だ”と言っていました。彼から多くのことを学びましたが、この考え方もその一つです。その影響もあり、自分の作曲のやり方は昔と随分変わりましたし、より即興的で直感的になりました。彼は長い詩を書くとき、例えば一晩中7、8時間かけて一気に仕上げてしまうことがありました。もちろん推敲することもありましたが、でもコンセプトは最初の瞬間にあるんです。私が彼の作品に魅力を感じるのは、書いているうちにいつしか彼自身が詩の媒介者に成り変わってしまうことがあり、それゆえに作品が強い力を秘めるようになっていた点です」
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- 数多くのアーティストと共演、コラボレーションを行っていますが、パティ・スミスさんとの共演について感想、とりわけ彼女に共鳴する事柄があれば教えてください。
- 「パティとは、1979年からずっと知っている旧知の仲です。でも二人を本当の意味で深く繋げてくれたのはアレンでした。彼が亡くなった後、パティに追悼の意味も込めて詩を読んでほしいと頼みました。でもパティの朗読は、アレンの朗読とは全く違っていましたね。彼女にしかできない独自のリーディングでした。もしアレンのように読んでくれる他の誰かだったとしたら、辛くて好きになれなかったと思います。それは、ただアレンを失ったことをより痛感させるものになったでしょうから。パティが素晴らしいのは、常に自分の詩を読むかのようにアレンの詩を読むところです。だからこそ彼女の声はとても力に溢れていて、僕には彼女とともに演奏することに意味があるのです」
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- 詩の朗読との共演というスタイルは、音楽のみで表現することと違いがありますか。また共演によって、どのような新しい現象が生じるのでしょう。
- 「演劇界で仕事をするようになってから、僕のミニマル作曲家としての日々はある意味終わっていると言ってもよいかもしれません。なぜなら、音楽の進化というものは、往々にしてコンサートホールではなく、劇場(演劇界の)で起こるものだからです。ストラヴィンスキーやワーグナー、多くの作曲家の例を見ても分かるでしょう。作曲家が音楽だけでなく、詩や言葉、動き、視覚的なイメージとともに作品を創り上げていくとき、それらをまとめ上げるより高次の音楽言語を持ち合わせていることが要求されます。つまり、音楽の進化とは、自身の音楽がある日突然進化を遂げるということではなく、外的な要因によって、進化を促されるのです」
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- チベットのミュージシャン、テンジン・チョーギャルさんの出演が予定されていますが、チベットという国や音楽はあなたにどのような影響をもたらしましたか。
- 「チベットの話題について、多くの人たちは仏教的な側面に注目しがちですが、それは私の関心やチベットの多様な文化のひとつにすぎません。これまでリンポチェ(チベット仏教における師僧)にも、多くの思想や内なる意識に目をむけることの重要性を学びましたが、もともと長年ニューヨークにあったチベット公館の会員で、当時チベットで起こっていたことを世の中に知らしめる新たな場所を設立することになり、その立ち上げに関わったのです。同じころにダライ・ラマ法王からも謁見のお誘いも受けていました。私の友人たちは既にニューデリーにあったチベット・ハウスの運営に携わっていたので、私もニューヨークにジャパン・ソサイエティやゲーテ・インスティテュートのような人々が自由に行き来できる文化施設をつくりたいという構想のもと動き出しました。
- 約12年に渡り、ニューヨークのギャラリーやロフトで、アンサンブルの仲間たちと毎週コンサートを続け、僕の知らない間に仲間たちが貯金をしてくれた資金で15番通りにあったビルの一室を購入しました。そこにチベット・ハウスを開設し、展示や慈善コンサートも行ってきました。長年の演奏活動で得た収益がこういった目に見える形で今も在り続けることを誇りに思いますし、チベット・ハウスで演奏してくれるアーティストたちにも、このことはよく話しています」
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- 日本で「Poet Speaks」は初公演になりますが、日本のオーディエンスに向けてメッセージをお願いします。
- 「アレン・ギンズバーグ生誕90周年の年に、そして11年ぶりに日本で、パティ・スミスや日本の偉大なアーティストの方々と競演できることに感謝しています。観客の皆さんにはぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです」
「THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ」
出演:フィリップ・グラス (Piano)、パティ・スミス (Vocal、Guitar)
翻訳(完全新訳):村上春樹、柴田元幸
日程:2016年6月4日(土)14:00〜/19:00〜 計2回公演
会場:すみだトリフォニーホール
演奏予定曲: 「WICHITA VORTEX SUTRA」、「PEOPLE HAVE THE POWER」他
主催:株式会社パルコ
共催:すみだトリフォニーホール
企画制作:株式会社パルコ / POMEGRANATE ARTS / PONDEROSA MUSIC & ART
制作協力:株式会社エフ・スクエア
特別協力:新潮社
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