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BEAUTIFUL LOSERS

映画『ビューティフル・ルーザーズ』が描く
美しい落ちこぼれによる創造するという行為

08 7/30 UP

Text:Mayumi Horiguchi

<ツイスト>というタギング名を持つバリー・マッギーのグラフィティは、サンフランシスコのあらゆる場所に描かれ、人々の目を引いた。シェパード・フェイリーは、オベイ・ジャイアント・キャンペーン(注:伝説のレスラー "アンドレ・ザ・ジャイアント" の顔をモチーフにしたイラストを描いたポスターやステッカーを、ゲリラ的に街中に貼りまくった)にて「反権威」を表明。その行為や作品には、パンクの要素がふんだんに盛り込まれている。

<エスポ>という名でも知られるスティーヴン・パワーズは、ヒップ・ホップのライフ・スタイル雑誌「オン・ザ・ゴー」を刊行し、雑誌を廃刊するまでの間は、夜と週末のみにアート活動を行っていたという。トーマス・キャンベルはサーフィンを愛し、サーフ映画を監督し、インディー・レコード・レーベル=ギャラクシアを運営している。

マーク・ゴンザレスはプロのスケートボーダーであり、わざとスペルを間違えた単語を多用した詩で、パンクな心情を吐露する詩人でもある。エド・テンプルトンもプロのスケートボーダーだ。スケートボードとの出会いによりアーティストとしての方向性が定まったというジェフ・マクフェトリッジは、ビースティー・ボーイズが発行していた雑誌「グランド・ロイヤル」のアートディレクターも手掛けていた。

2001年、癌による合併症で惜しくも他界したマーガレット・キルガレンは、サンフランシスコ・サーフスケート・コミュニティに長年関わっていたし、クリス・ジョハンソンはバンド活動も行い、マイク・ミルズは数多くのバンドのアルバム・ジャケット・デザインを手掛けている。そして今作の監督であり、展覧会「ビューティフル・ルーザーズ」のキュレーターでもあるアーロン・ローズもまた、スケートボードに触発されて、アートの世界に興味を持ったという。

そんな彼らは、長じて、90年代アメリカン・カルチャーを変貌させる存在となった。そして、彼らとその作品を知ることは、同時に、アメリカという国が生んだ文化の底力をも、世界中に知らしめることとなったのである。

ストリートから生まれた彼らの作品は、<現代アート>として評価され、アート史に新たな軌跡を残す。そして我々が暮らす資本主義社会においては、商業的な団体とも結びつくこととなった。作品自体は勿論、そのアティテュードや思考さえもが、ストリート・ブランドのみならず、ラグジュアリー・ブランドにまで起用されたりもしている。この動きは、今後ますます発展していくことになるだろう。

例えばファッション・デザイナーのマーク・ジェイコブスは、ドキュメント番組「マーク・ジェイコブス&ルイ・ヴィトン~モードの革命児」において、ファッションとアートの関係について、以下のようにコメントしている。「創造の階層からいえば、アーティストは頂点で、ファッションは最下層というコンプレックスはある」と。続けて彼は言う。「でも僕にとってアートと仕事、生きることは同義なんだ」と。

ジェイコブスの発言はクリエイティヴな活動に従事している人種のことを、とても上手く表現していると言えよう。アーティストとは、無から有を生み出すことを至上の命題として宿命づけられた人種だ。故に、時には経済的な困難に見舞われることも余儀なくされる。アーティストとして成功する人々は、ほんの一握りであるとも言えるし、今作に登場する人々も、始めから経済的に成功していたわけではない。例えばアーロンも、運営していたギャラリー「アレッジド」の閉鎖後には、借金を抱える羽目に陥ったという。

勿論、金の苦労なんて、ない方がいい。だが、彼ら「美しい落ちこぼれ/負け犬たち」にとって重要なのは、「創造するという行為」そのものなのだ。マーガレット・キルガレンの作品中のコメントが、それを裏付けている。彼女は言う──「アーティストは自分のために創るけれど、それを見る人が何かを感じて喜んでくれるから、続けられるの」と。

映画『ビューティフル・ルーザーズ』を観る日本の観客たちは、「何かを感じて、喜んでくれる」だろうか?! きっと、何かを感じて、喜んでくれるに違いない。だってそれこそが「アート」の持つ、無限の可能性なのだから。

 

『ビューティフル・ルーザーズ』(2007年、米)

監督:アーロン・ローズ/ジョシュア・レナード
音楽:マニー・マーク
出演:トーマス・キャンベル、シェパード・フェイリー、マーク・ゴンザレス、ジョー・ジャクソン、ジェフ・マクフェトリッジ、クリス・ジョハンソン、マーガレット・キルガレン、ハーモニー・コリン、バリー・マッギー、マイク・ミルズ、スティーブン・パワーズ、クレア・ロハス、エド・テンプルトン他
提供:ファントム・フィルム/アスミック・エース エンタテインメント
配給:ファントム・フィルム

8月2日より、渋谷・シネマライズほかでロードショー。

http://www.beautiful-losers.jp/

©keith scharwath