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THINK PIECE

CREATION FOR THE EARTH

中村ヒロキ×エドワード・バーティンスキー

08 7/14 UP

Text:Hiroshi Yamamoto Photo:Shoichi Kajino


今の地球は、ブレーキ無しで山を下る列車のような状況。

──
映画を観ると、政治や大企業の在り方に対する一方的な批判ではなく、消費者である僕たちの考え方を変えていこうとする、メッセージを感じたのですが。
E :
「政治家や企業のリーダーは、自分たちをサポートしてくれる人々の声を第一にするため、多くの人が新たな世代への変化を要求すれば、それを可能にできる。株主のみが潤っているのは社会的責任の欠如だし、大企業が安い人件費で非道な生産を行っているのだとすれば、それは誰の責任なのか、ということも考えなくてはならない。我々が企業のやり方自体を変えられないのであれば、個々で出来ることがある。それは、そういった商品を『買わない』ということ。消費者がそういう対応をすれば、企業も変わらざるを得ない。そういった意味では消費者にも、力はあるんです」
──
中村さんはどうでしょう?
N :
「これからは日本や欧米などで、消費の形そのものが変わってくると思います。そのなかでデザイナーとしては、単に消費される物を作るのではなく、消費自体を変えられる物をデザインしなければいけない」
E :
「プロダクトを作るには、多くの人々が関係してくる。そこで、責任を押し付け合っていては、何も解決できない。技術の革新は人々の生活を豊かにして、新たな可能性を見出す一方、石油の枯渇などの危機にも直面している。だから、物を長く使えるようにすることは、より良い未来を作るための最もシンプルで、唯一の手段になるんです」
N :
「そうですね。僕は1人のデザイナーとして、世界を変えることはできない。けれど、長く使える商品を作り、その意識を少しでも消費者に伝えられる。そういうことを1つ1つやっていくしかありません」
──
中国では、自然が破壊されていること以上に、人間が劣悪な環境での生活を強いられています。過剰な消費主義を推進してしまうと、自分達の首をしめることになる。そのことをもっと現実として、理解しなくてはならないと思うのですが。
E :
「今の地球は、ブレーキ無しで山を下る列車のような状況。果たしてこの状況をコントロールすることができるだろうか。カナダでは、人口と土地の割合を計算すると、1人あたり7~8ヘクタール程度あります。その割合を地球の65億人に当てはめると、2ヘクタール足らなくなる。さらに中流階級を目指すインドや中国の25億人近くの人々が、西洋や日本と同様の中流階級の生活を望むと、単純計算で地球が3つ分足りなくなります。映画の中でも言いましたが、我々は満たすことのできないものを、満たそうとしているのです。だから、先進国として何かをあきらめ、逆に発展途上国も今の先進国と同じ形を求めてはいけない。こういった問題は、第三次世界大戦として捉えて、それぞれの国の思想家、政治家、企業のリーダーが総手で取り組むことだと思います」

五感で感じたものがアイディアとなり、直感的に写真としてカタチに残そうと思う。

──
ところで、エドワードさんは写真家として、政治経済や思想などの複雑な問題を写真という1枚の絵で切り取り表現することには、どのような思い入れがあるのですか?
E :
「私にとって写真は、自分の考えやアイディアを人々に正確に伝えるための手段。世界中を回り、自分が伝えたいことやイマジネーションが膨らむ情景を探しています。それは探検やハンティングの様に過酷な場合もあるけれど、それが私のやり方」
N :
「エドワードさんの写真は、とてもスケールが大きく、美しい。写真を撮るうえで、ストーリーが最初にあるのですか、それともビジュアルからインスピレーションを受けるのでしょうか?」

E :
「ストーリーとビジュアルのどちらかと言うよりも、色々なところからインスピレーションを受けます。見たり、聞いたり、読んだり、経験したり。五感で感じたものがアイディアとなり、直感的に写真としてカタチに残そうと思うようになる。クリエイターにとって直感は核になりますから、常に意識をオープンにしておくことを心掛けています」
N :
「オブジェクトは必ずしも美しくはないけれど、エドワードさんが撮影した写真は、悲惨な現実を写しながらも、美しい作品として仕上げられている」
E :
「美しいと感じることは、人にとって大切な部分。共に時間を過ごすパートナーは自分が惹かれる人だし、家具や洋服といった物も美しいと思って選ぶ。ある種の美の追求は、自分を幸せにするものでもあり、自己表現の機会でもある。私の作品は人の家に飾っても、美術館にあってもいい。人のために在る、観た人に何か与えられるものでありたい。それは視覚的でも、精神的でもいい、それがアートの役割だと思っている。作品は観る人が何かを感じることで、完成されるんだ。私自身、そういった写真を撮り続けていきたいと思っているよ」

 

『いま ここにある風景』(2006/カナダ)

監督:ジェニファー・バイチウォル
撮影監督:ピーター・メトラー
出演:エドワード・バーティンスキー
原題:Edward Burtynsky;Manufactured Landscapes
上映時間:87分
提供:カフェグルーヴ
配給:カフェグルーヴ、ムヴィオラ

http://imakoko.cinemacafe.net/

7月12日(土)東京都写真美術館ホール、シアター・イメージフォーラムにて
7月26日(土)大阪・テアトル梅田ほか全国順次ロードショー!