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THINK PIECE

Smart Bands to Watch

VOL.6 HOT CHIP
掴めそうで掴めない英国エレクトロ・ポップの不思議

08 10/24 UP

Text:Yu Onoda Live Photo:Ryota Mori

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柔軟なレコーディング・スタイルはもちろんのこと、『メイド・イン・ザ・ダーク』はヘヴィ・メタルを含めたロックからヒップホップ/R&B、ハウス/テクノ……色んなスタイルが混在していますよね。そうした多様性の追求はホット・チップの命題と考えていいんでしょうか?
「うん、全くその通りだよ。音楽性ってことで言うと、個人的にも、グループ全体でも、僕らは色んな音楽を聴いているからね。今日ここに向かう途中は60年代のケイジャン・ミュージック、アーサー・ラッセル、ビョーク、映画『赤ちゃん泥棒』のサントラなんかを聴いてきたんだけど、そうやって色んな音楽を聴くのが今の時代にあっては自然だと思うし、そうしたインスピレーションをもとに他とは違う音楽を作ってみようと考えるのも、これまた自然なことだ。メンタルな部分においても、僕らは音楽を通じて自分たちの感情を表現しているわけだけど、その感情にしたって、場所や時間によって変化していくから、そうなると作品に込められた感情も自ずと多様なものになってくるよね。ただ、色んなアイディアが混在しただけで、普遍性に欠ける音楽に陥ることは避けたいから、ある種の統一性を出そうと心掛けると同時に僕たちのリスナーはオープン・マインドだと信じているし、リスナーも僕たちがそういうバンドであることを分かってくれているっていう、ある種の信頼関係が築けているから、どの作品、どの曲にも異なる音楽要素を混ぜ込んでもいいんじゃないかなとは思っているね。だから、例えば、僕がピアノでウィリー・ネルソンやランディ・ニューマンに影響された曲を作ったとしても、他のメンバーがグライムのリズムにインスパイアされたなら、それを積極的に試してみるね。そういう要素は分解してみれば、奇妙かもしれないけど、そうやって音楽を聴くことってないじゃない?」
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しかし、さきほど言われた"ある種の統一感"を導き出すことも決して楽な作業ではないですよね?
「僕らは基本的に頭の中で作品の方向性を考えるんじゃなく、まずは一緒に音を出してみてから、方向性を考えていくっていうナチュラルなプロセスを踏んでいるんだ。その上で今回はライヴのエキサイトメントを生で表現したかったし、それでいて、プロダクションのディティールを極めていくっていう真逆なベクトルを共存させたかったから、ナチュラルとはいっても、確かに楽な作業ではなかったよね」

 

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しかも、アルバム完成後はツアーのみならず、あなたとジョーはDJユニットのグレコローマン・サウンドシステムであったり、DFAから変名プロジェクトのBOOJI BOY HIGHでの作品リリース、あるいはリミックスであったりと、課外活動も積極的に行っていますよね。そうした活動のモチベーションはどこから来ているんですか?
「僕らはホット・チップだけに長年時間を費やして、ある程度の成功を収めたことで、ライヴやこうした取材なんかに時間が取られるようになって、逆に時間が貴重に思えるようになってきたんだ。だから、少しの空き時間をいかに有効に使うかは課題でもあって、フィリックス(・マーティン:ドラムマシーン担当)は他のスタッフと映画を作っているし、ジョーはプロデュース業、僕はオーエン(・クラーク:ギター/シンセサイザー担当)との音楽制作、アル(・ドイル:ギター/シンセサイザー/パーカッション担当)はアルでLCDサウンド・システムに参加したり、彼個人の活動がある。そういう音楽に限らない、それぞれの経験をまたバンドに持ち寄ることでホット・チップの作品もまた変化していくだろうし、決まりきった方程式に陥ることもないだろうね」
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ちなみに今後控えているプロジェクトは?
「こないだ、ロバート・ワイアットと一緒にレコーディングしたんだ。ヴォーカルや音を足して『Whistle for Will』と『Made in the Dark』、『We're Looking for a Lot of Love』の新しいヴァージョンを作ったよ。あと、一時期、カイリー・ミノーグとレコーディングしたっていう噂が流れていたけど(笑)、それはないね。彼女は確かにナイスだけど会ったことも話したこともないんだ(笑)。それよりも僕らにとってはロバート・ワイアットに会うことの方がよっぽどエキサイティングさ」