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THINK PIECE

Julian Opie

「世界をどう見るか、見るとはどういうことなのか」
ジュリアン・オピーのフィロソフィーを探る

08 8/12 UP

Text:Naoko Aono

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映像作品でもLEDやレンティキュラー(見る角度によって絵が動いて見える)など、いろいろな手法を使っています。
「LEDを使うようになったのは90年代に韓国でタクシーに乗って、車内に取り付けてあったLEDディスプレイで馬が走っていくアニメーションを見たのがきっかけ。画質の荒い、ごく簡単なものだったんだけれど、道路標識と同じぐらい美しいと思ったんだ。LEDも道路標識も普通は、公式なサインとして使われる。僕はその後ろにある権威やヒエラルキーに対する見方を少し変えてみようと思ったんだ。レンティキュラーは19世紀に発明されたものだ。当時テレビや映画はまだ登場していなかったから、人々は『動く映像』というものに大きな興味を持っていた。その結果、生み出されたのがレンティキュラーだったというわけだ。これってアーティストがやっていることに近いと思う。僕はずっと、「世界をどう見るか、見るとはどういうことなのか」ということをテーマにしている。僕の映像作品が、人間の動きやそれを見ることとはどんなことか、観客が考えるきっかけになればいいなと思っているんだ」
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ポールダンサーのシャノーザは素材や技法を変えて繰り返し、登場します。あなたがポールダンサーというモチーフにそれほど惹かれるのはなぜですか?
「人間の身体は重力に支配されているから、腕や足をドラマチックに動かすようなポーズをとらせようとするとベッドにねそべったりすることになってしまう。ポールダンサーならそうじゃない方法でもっとダイナミックなポーズがとれる。『泳ぐクリスティーヌ』を作ったのも同じ理由だ。これは僕の妻に実際に泳いでもらって、水中カメラで撮影したものをもとにしている。作品を見ただけでなぜこんなポーズをとっているのか、何をしているところを描いたのかがわかるようにしたいんだ」

水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景

【左から】
『Shahnoza dancing in tartan mini, right.』 2007 © Julian Opie,SCAI THE BATHHOUSE and Lisson Gallery Private Collection
『This is Shahnoza.32.』 2005 © Julian Opie,SCAI THE BATHHOUSE and Lisson Gallery
『View of Mount Fuji with daisies from route 300.』 2007 © Julian Opie,SCAI THE BATHHOUSE and Lisson Gallery

 

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今回は空間にあわせた展示構成を考えたそうですが。
「展示室ごとにまとまったインスタレーションになるように考えた。まず、歩いている人のグラフィックといっしょにギャラリーに入る。作品を見ながら一列に並んだ展示室を奥に向かって歩いていくと、正面にLEDの『下着で踊るシャノーザ』が見えてくる、という仕掛けだ。手前の作品はできるだけ『下着で踊るシャノーザ』をじゃましないように置かれている。これはヨーロッパの教会の空間構成を引用したもの。正面奥に祭壇があり、そこにあるキリスト像などに集中できるよう、両脇の壁の高いところに絵がある。何世紀もかけて洗練されてきたスタイルだね」

水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景

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浮世絵のコレクターとしても有名ですね。
「浮世絵には食事や子育てなど、ごく普通の人の日常的な暮らしを描いたものがよくある。そこには特別なものは何もない。僕の『寝室の窓からの眺め』という作品はその考え方からインスピレーションを受けた。朝から晩までの変化をコンピュータによる映像やペインティングで表現したものだ。毎日、ベッドルームの窓から見える景色に、特に見るべきものなんてない。でも僕は、うつろっていく世界を描こうとしたんだ。浮世絵にもよく描かれているけれど、僕が性的なモチーフを描くのも同じ理由だ。そこには二度と帰ってこない重要な瞬間がある。それをとらえることこそがアートの本質じゃないかと思うんだ」
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これからやってみたいことはありますか。
「人間の『足』を描いてみたい。これまで長いこと、足首から先を描いていなかったんだけれど、最近バレエダンサーを見る機会があって、この躍動感のある足を切り落としてしまうのはもったいないと思ったんだ。靴の素材の違いにも興味があるし。でも今、10件ぐらいのプロジェクトを抱えている。それぞれの作品を完成させるのに半年から1年ぐらいかかるから、なかなか新しいことに取り組む時間がなくて、それがちょっとフラストレーションだね」