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THINK PIECE

PORT OF NOTES

10年を経て、今なお輝く"青いアルペジオの歌"たち

08 2/29UP

Text:Tetsuya Suzuki Photo:Kentato Matsumoto

──
二人にとっての本格的な音楽活動というのはポート・オブ・ノーツが最初なんですか?
H :
「私はそれ以前にも色々とバンドをやってたんですけど、オリジナルを作って発表するというのはポート・オブ・ノーツになってからだったので、自分のキャリアの根源的なものになっていると思いますね」
──
一方、小島さんはポート・オブ・ノーツを経ることで、表現の方法や場所が多岐にわたっていったと思います。なので、今回ポート・オブ・ノーツのベーシックな部分を集めたベスト盤を作るというなかで、自分の土台になっているものを改めて感じたのではないでしょうか。
K :
「僕に限らず、二人のスタイルの基本というところが出せたという感じですね」
──
全体にひとつのトーンに結ばれているとはいえ、曲ごとにポート・オブ・ノーツの歴史を振り返る中で重要な曲があると思うのですが?
H :
「私は最後に収録した『You Gave Me A Love』という曲。2コードで3つのメロディが生まれてきたという、考えられるうちで最もシンプルなところから広がった、なかなかやれそうでできない曲なんです。あと『More Than Paradise』はちょっとラテン、ボサノバチックな感じなんですが、作った当時は、いなたい感じが強過ぎなんじゃないかと心配したんですけど(笑)、今聴くと逆に、それがスタンダード感を出してるな、と。まあ一曲一曲にそれぞれ思い入れがあるんですが、やっぱり、1曲目の『hope and falsity』は特別かも。この曲の雰囲気は、私がこれまで聴いてきた曲のなかでもあまり無い気がするんですよ。自分が知ってる既存の曲の中で」
──
そう。あまりにベーシックだからっていうのもあるんですけど、意外と何かっぽいというのがないんですよね、ポート・オブ・ノーツって。あったとしても往年のスタンダードみたいだな、という感じで。 
K :
「僕は幸福感というか、包まれるような雰囲気っていうのがあるなって改めて思いましたね」
──
特に楽曲の中でこれっていうのはありますか?
H :
「そういう意味での幸福感は『ほんの少し』が一番強いかなと思う。けれど、全体を通してですね。作っていた当時というのはそこまで感じることはできなかったんですけれど、改めて聴いて、なんとなく自分なりに感じることができました。付け加えると日本語詞の曲に幸せを感じる。日本語の意味を考えながら聴くことができるこというのは幸せだな、と。時代によって響き方は違っても、意味がダイレクトにわかるという意味で。『ほんの少し』とか『僕の見た昨日』とかの日本語の曲を改めて聴いくと、やっぱり凄くユニークな楽曲だと思うし、あまり他に無い感じなんだなと、少し離れたところから見るようになって改めて感じましたね」


 

──
いま、振り返ってみれば、どれもタイムレスな魅力があると言えると思うのですが、実際のリリース時には、あまりにベーッシクなことをやっているが故に、どのシーンにも属さないという、アウトサイダー感覚もあったんじゃないですか?
K :
「まあ、そうですよ。常にありますね、それは」
──
しかしこうして振り返ってみれば、自分達が迷わずやってきたものが、やはり残ってくると。
H :
「やっぱり多少は時代というものに影響されたところもあるんでしょうけれど、それを求めて、その時代に迎合するためにやったことは無いと思います。それは歌詞にもいえて、私の歌詞には、翻訳された詞をまた翻訳するような感じがあると思うんですよ。私はネイティブなイングリッシュスピーカーではないので、日本語で考えますよね。でも聴いてきた音楽とか読んできた文学が海外からの翻訳が多くて、それで自分が英語で歌詞を書く時にも外国の文学の翻訳をさらに翻訳して書くみたいなイメージがあるんです。そういうスタイルって私が聴いてきた中には無かったと思うし、日本語のものも、いわゆる歌謡曲やポップスのフォーマットからはかなり外れた歌詞だと思うので、これはメインストリームにはならないだろうなという風には、あらためて思いましたね(笑)」

──
特に美由紀さんはソロ作品の中では色んなタイプのミュージシャンとのコラボレーションを含め、表現の仕方も様々なスタイルにチャレンジしているわけですが、そのベースにあるものがここで表現されているものなのかなと思うのですが。
H :
「ポート・オブ・ノーツの作品には、その時々の自分の感情が直結していて、その感情を表現しないと、どうにかなってしまいそう、という爆発的な情熱とともにやってる感じがするんですよね。その時の精神状態とか出会いとか、そういうものが凄く影響している」
──
逆に小島さんはポート・オブ・ノーツの曲を作るときに美由紀さんのパーソナリティや存在感を想定する部分があると思うんですが、美由紀さんというフィルターがあったことによって自分の本来の音楽性に違う角度から光を当てることができたという感覚はありますか?
K :
「まさにそうです。共同作業だからこそできたことですよね。まあ、その分、喧嘩もしましたから(笑)」
──
逆に美由紀さんじゃなかったらこうはならなかったということですね。他に違う女の子のボーカルがいれば、それはそれで良かったというわけではない。
K :
「そうではない、ですね。最初に美由紀ちゃんに会って、彼女のライブを聴いて、この人と一緒にやれたらいいなと思ったのがポート・オブ・ノーツのきっかけだったので。そういう意味では、間違いなかったと思いますね」
H :
「最初はもちろん全然曲とか作ったことがなくて、2人でやっていくうちにオリジナルをつくるということになったんですけれど、今思うと不思議だなと思う。よく会えたもんだなって(笑)。そういうの、誰とでもできるわけじゃないですからね」