08 3/6 UP
Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
インドの大地をゆく寝台列車に乗り込んだ駄目人間三兄弟が、家族の絆を取り戻すべく珍道中。線路は続くよどこまでも(たぶん)。オフビートでハートウォーミング。珍奇でお洒落(?)なガタゴト列車コメディが本作。天才若手監督と呼ばれたウェス・アンダーソンが仲間と仕立てた特製急行にあなたは飛び乗れるか?
現代人には「癒し」が必要だ、と言われて久しい。そんな欲求にしたがって、「泣ける」本や犬との約束や猫鍋や前世占いやエステや、そのほかいろいろが、きらびやかな効能書き付きで手招きしている現代——。
そんな時代の中、真っ正面から、「大がかりに」癒しへと向かう三人の兄弟の姿を描いたオフビート・コメディが、この『ダージリン急行』。監督は、かつて「天才若手」の名を恣にしたウェス・アンダーソン。であるから、これは「よくある」癒しのストーリーとはならない。「なんか、うまく行かないんだよな」という人生を送る登場人物たちが、それを修正しようとしても、やっぱり「うまく行かない」。それは正しい。簡単に癒されるなんて嘘だからだ。
そもそも、なんで「癒されたい」と思うほど、人は傷つくのだろうか。それは自業自得で、天罰なんだという考え方もある。そうだとすると、人間ごときが、なにをやっても駄目に決まっている。ヘヴィな話だ。正気じゃやってらんない。そうだ! インド行こう!あそこはスピリチュアルな場所じゃないか! そんな「癒し大作戦」の目論見は横道にそれて、道に迷い、軌道修正して、それでもまだ「旅」は続く……つまり、珍道中だ。
この「珍」の部分に、監督の人間への愛がある。駄目な人生への、やさしい視線がある。嘘八百並べるには誠実すぎるが、絶望するにはナイーヴすぎる。そんな中途半端で、我々とすごくよく似た三兄弟がインドを旅してゆく。
タイトルにもなった一台の寝台列車に、三人のアメリカ人が乗車する。彼らは兄弟だ。長兄の計らいでこの列車の旅がはじまるのだが、次男も三男も、行き先や、目的すら知らされていない。おまけに、三人兄弟は親密ではない。お互いよそよそしく、関係性が薄い感じ。つまり、家族として「壊れている」。どうやら、兄弟の関係を修復するために、長兄はこの旅を発案したようなのだが……というのがストーリー。
まず、映像と色彩が素晴らしい。内装・外装とも作り込んだ実物の列車を用意して、それをインドで実際に走らせて撮影。車内ショットもその「実際の車室内」で撮られている。画面の隅々まであふれかえる「インドな」色彩とモチーフの洪水。その中で完全にミスマッチな三兄弟の姿があるだけでも、これはもう見事なコメディだ。