08 3/6 UP
Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
長兄フランシスを演じるのは監督の盟友でもあるオーウェン・ウィルソン。次兄ピーターをエイドリアン・ブロディ。そして三男ジャックをジェイソン・シュワルツマン。兄弟としては全然似てない上に、それぞれがおかしい。なぜかジェイソンは終始裸足だ。この三人の奇妙な旅が、まさに悠久の大地をゆく列車の旅のようなスピードと「方向性」で語られてゆく。
今作は「列車」だが、前作は「船」だった。海洋冒険映画クルーを描いた監督の前作『ライフ・アクアティック』は、大海原を行く船らしい、大波小波を越えてゆくかの如きダイナミックな「うねり」が基調となった——やはりオフビート・コメディだった。しかし同作は、「天才」と呼ばれたアンダーソン監督にとって、興行的にも、批評的にも、初の失敗作となった。筆者は『ライフ・アクアティック』を生涯ベスト20にランクインさせているぐらいあの作品に影響されている者なので、この結果はショックだった。監督はもっとショックだったろう。傷心の彼は、ジェイソン、ロマン・コッポラとともに実際にインドを旅して、この脚本を共同執筆したそうだ。つまり「癒し」というテーマの本作を撮ることで、監督自身もリハビリを計ろうとしたかのような——今作はそんな「痛みとリアリティ」に満ち満ちている。その高純度の「誠実さ」こそ、この作品最大の魅力だ。
人生を途中下車しちゃいけない(ときどき、してしまうんだけれども)。間違って降りてしまったら、次の列車に飛び乗ろう。線路が続く限り、地の果てまで「いっしょに」旅してゆこう。急ぐ旅じゃないんだから……すごくへんてこな節回しで歌われてはいるが、ここにあるのはまぎれもない人生賛歌だ。
衣装にアカデミー三度受賞のミレーナ・カノネロ。三兄弟が使用するスーツケース他の革小物をマーク・ジェイコブスがデザイン(かなりかわいい)。音楽の使用法に定評があるアンダーソン監督だが、今回は60年代のストーンズ、7 0年のキンクスを、インドの巨匠サタジット・レイの音楽と併用。インド出身のシンガー・ソングライター、ピーター・サーステッド69年のUK No.1ヒット「ホエア・ドゥ・ユー・ゴー・トゥ(マイ・ラヴリィ)」の(しつこい)使用がおかしい。ナターシャ・ポートマンが初のヌードを披露する、パリを舞台とした短編『ホテル・シェバリエ』も同時上映(?)。
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマン
制作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、ロマン・コッポラ、リディア・ディーン・ピルチャー
出演:オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストン、ナタリー・ポートマン
2007年/アメリカ
原題:THE DARJEELING LIMITED
上映時間:(短編『ホテル・シェバリエ』13分・本編1時間31分)1時間44分
配給:20世紀フォックス映画
http://microsites2.foxinternational.com/jp/darjeeling/
2008年3月8日よりシャンテ シネほか全国にて公開
2007 TWENTIETH CENTURY FOX