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THINK PIECE

ALL TOMORROW'S PARTIES

これぞDIY精神の権化?! フリーな祭典
『オール・トゥモロ−ズ・パーティーズ』主催者
バリー・ホーガン インタビュー

09 12/8 UP

Text: Mayumi Horiguchi

そのユニークなスタイルと、インディペンデント精神あふれる姿勢により、オーディエンスはもとより、数多くのバンドやアーティストから高い評価と尊敬、信頼を得ている英国発・音楽の祭典が“オール・トゥモロ−ズ・パーティーズ”(以下ATP)だ。

ベル・アンド・セバスチャンが1999年に主催したフェスティバル「ボウリー・ウィークエンダー」をモデルに、2000年にモグワイをキュレーターに迎え、イギリス南東部、イースト・サセックスにある施設、キャンバー・サンズ・ホリデー・キャンプにて第一回目のフェスが開催され、以降、その先鋭的な趣旨に賛同したアーティスト/ミュージシャンたちが続々キュレーションを手掛けることに。今年はなんと、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが担当する。また、アメリカの国民的人気アニメ『ザ・シンプソンズ』の原作者であるマット・グローニングが選ばれたりと、ミュージシャン以外にも興味深い人選がなされている点も注目したい。さすがは、サーストン・ムーアをして「究極のミックステープだ」と言わしめた個性派フェスである。

今年で10周年を迎えるATPだが、このほどドキュメンタリー・フィルムが完成、DVDの発売も決定した。ソニック・ユースやバトルス、ポーティスヘッド、イギー&ザ・ストゥージーズをはじめとする多くのアーティストたちの貴重なライヴ・フッテージはもちろん、バックサイドでの姿も収録。また、会場に足を運んだ観客たちの様子をプロカメラのみならず、モバイルカメラ等でも撮影。ときにまったりし、ときに大酒を飲んではどんちゃん騒ぎするその姿はリアルで、思わず共感してしまう。映像を通して見えてくるのは、音楽やアートを愛するすべての人々の真実の姿と精神だといえる。さすがはATP!

そんなATPにまつわる秘話を探るべく、主催者のバリー・ホーガンにインタビューを敢行。ドキュメンタリー・フィルムやフェスティバルについて、いろいろ語ってもらった。

オール・トゥモローズ・パーティーズ / ALL TOMORROW'S PARTIES

ロンドンを拠点とする団体で、フェスティバルやコンサートのプロモーションをワールドワイドに手掛ける。音楽フェスティバル『オール・トゥモロ−ズ・パーティーズ』を準備する為に、創設者のバリー・ホーガンの手により1999年に設立。組織名と同名の音楽フェスは、毎回1組のアーティスト/バンドがキュレーターを務めるというユニークなコンセプトを掲げ、“オルタナ強化合宿”の異名もとる。イベント以外にも、特定のミュージシャンやバンドが、過去の“名盤”を全曲演奏するライヴ・シリーズ「ドント・ルック・バック」といった人気企画を国内外でプロモートするなど話題に。
アメリカ、オーストラリアでもフェスティバルが開催されている。

 

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音楽フェス“オール・トゥモロ−ズ・パーティーズ”(以下ATP)を始めることになったきっかけは?
「始まりは、1999年にベル・アンド・セバスチャンと一緒にやった“ボウリー・ウィークエンダー”なんだ。当初のアイデアは、バンドと一緒に毎年イベントをやることだったんだけど、彼らがイベントをユニークで貴重なものにしたいから、一度きりにしたいと言い出したんだ。だから、同じコンセプトで俺にプロジェクトを続けさせてくれないかと頼んだんだよ。“オール・トゥモロ−ズ・パーティーズ”に名前を変えてね」
──
毎回1組のアーティスト/バンドがキュレーターを務めるというコンセプトは面白いですよね。
「ATPにおける、大事な要素だと思ってる。このアイデアこそが、ATPと他のフェスティバルとの間に線を引いてるんだ。フェスティバルを支える最大の特徴であり、コンセプトだと思った。“ボウリー〜”を開催するにあたって、モグワイに出演交渉をしていた時に、このアイデアを思いついたんだ。彼らに出演者を選ばせて、キュレートしてもらったら、面白くなるに違いないってね。モグワイのことは前から知っていて、音楽テイストの良さも分かってたからね。実際、彼らが選んだラインナップは最高で、第一回目のショーに相応しいバンドばかりだったよ」

──
開催地として、キャンバー・サンズ・ホリデー・キャンプ(*注:UKの労働者階級の人たちにポピュラーな宿泊所付き観光施設。テントをはるキャンプとは異なる)を選んだ理由は?
「ははは(笑)、この質問、よく聞かれるんだよな(笑)。最初にあの場所を使ったのは“ボウリー〜”の時だ。選んだ理由は、ベル・アンド・セバスチャンのスチュワートが、あのキャンプで働いてたことがあるからなんだよ。ATPの会場としてキャンバー・サンズ・ホリデー・キャンプを選んだのは、コンセプトに合っていて、かつ、あの規模のイベントをやれる場所が、あそこしかなかったからさ。でも正直言うと、バトリン(*イギリスの南部にあるリゾート施設)でやりたいと思ってたんだけどね。バトリンは、例えてみると、ホリデー・キャンプの上質バージョン(笑)。二つを比べると、コカ・コーラとペプシって感じかな(笑)。キャンバー・サンズがペプシnextで、バトリンはチェリー・コーラだ(笑)。でも結果的には、キャンバー・サンズにしてよかったと思ってる。ユニークなスポットだしね。このイベントは、とにかく他の音楽フェスティバルとはアプローチの仕方が違うんだ。三日間、一つの場所でみんながアパートをシェアして、バンドを見て音楽を楽しむ。他のフェスでは、キャンプは取り込まれてないからね。キャンプは、イギリスのカルチャーでもあるんだ。イギリス人はみんな、子供の時にキャンプ場にいくから、経験があるんだ。俺自身は、あんまり良い記憶はないけどね(笑)。でも、フェスティバルには打ってつけなんだよ」
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フェスの名称は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲名から取ったんですよね。バンドのファンなんですか?
「もちろん大好きさ! 俺のお気に入りのバンドのひとつだ。良いバンドの中には、最高の映画なんかにちなんで、バンド名をつけた連中もいるだろ? だからその逆手を取って、最高の曲か、もしくはバンド名からフェスの名前を取ろうと思ったんだ。俺たちがホストしようとしていたのは、パーティーのようなイベントだったし、俺は“トゥモロー(明日)”って言葉が好きだったんだ。未来に向けての音楽を思い起こさせるからね。昔は小さなバンドでも、そのうちのいくつかは、将来ビッグになって、彼らの曲が主要な音楽になり、人に影響を与える音楽へと繋がっていく。だからこの名前がベストだと思ったんだ。ヴェルヴェッツの曲だとしても、“ヘロイン”なんかじゃイヤだろ? 俺はイベントを“ヘロイン”にはしたくないからね(笑) 」

 

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ヴェルヴェッツというバンドは真に革新的な存在であり、その後の音楽シーンに与えた影響は多大だと思います。ATPにはヴェルヴェッツ直系の、子孫的なバンドたちが集っているような印象を受けます。
「その通りさ。ATPで演奏しているバンドを見てくれよ。ソニック・ユースとか、ジョン・ケールがファースト・アルバムをプロデュースしたイギー&ザ・ストゥージーズとか……その影響は本当に大きいし、強固なんだ。だからこそ、イベントのタイトルで彼らそのものに触れることも大切だったのさ。彼らの影響は、それくらい大きいんだ。当時は過小評価されてたかもしれないけど、今となっては、全ての人が彼らを理解し、感謝してるんだよ。俺でさえ、いまだに絶える事なく彼らのレコードを聴くほどさ。彼らは全てのルーツのひとつなんだ」
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ATPが「ノー・スポンサー」という運営スタイルと、出演者も観客も同じ施設で過ごすというスタンスを堅持している理由は?
「このイベントに関して、俺は妥協なんかしたくないし、出演者に関して、音楽と全く関係ない飲料メーカーなんかに、とやかく言われたくはないからね。だから、このスタンスは守っていきたいと思ってる。あと、このイベントでファンと出演者が一つの空間をシェアできるのは、VIPエリアがないからだよ。イベント内にエゴを入れないようにするためさ。みんなが志を同じくした空間を保つためにね。
バンドの演奏が気に入ったら、彼らに“Hey!ライブ、超よかったよ!”なんて話しかけて、音楽について語れるんだ。彼らだって、ファン達と話したいしね。そうすることによって、俗にいう“ロックスター”的な要素が取り除かれるのさ。中にはそういったロック・スターっぽいものが好きな人もいるだろうけど、俺は、そういったものがあると、人々が自分の意思ではなく、それに動かされてしまうと思うんだ。だから、みんなが一緒になって平等に楽しむような空間を作る為には、VIPとかは無くしてしまったほうがいいと思うんだよね。このアイデアで10年間やってきてるけど、他のフェスティバルもこれを見習うべきだよな(笑)」
──
キュレーターを選ぶ時のポイントは?
「面白い音楽コレクションを持ってるであろう人を選ぶことにしてる。'05年のキュレーターの中にザ・マーズ・ヴォルタがいたんだけど、初めは、彼らを選ぶ必要性はないんじゃないかと話してた人もいた。ところが、色々言われながらも任せてみたら、フェスティバルの歴史の中でも最高のATPセレクションのひとつが誕生したんだ。彼らは実は、すごく面白いコレクションを兼ね備えていたんだよ。やっぱり、コレクションのセンスの善し悪しは大切なのさ。だから今、俺は(映画監督の)ウェス・アンダーソンに注目してる。彼の全ての作品が好きなんだ。素晴らしい音楽が使われているからね。絶対に、最高でクレイジーなレコード・コレクションを持ってるんじゃないかと察してる。すごくクールに違いないと思うんだよね」