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THINK PIECE

『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』

笑って泣けて魂焦げる! 各界激賞のロック・ドキュメンタリーがついに上陸。
人呼んで「メタル版ロッキー・バルボア」。(不惑を超えても)不屈の男達による、これぞ不屈のバンド道!

09 11/5 UP

Text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)

これはもう社会現象と言っていい。サンダンス映画祭で爆涙の男泣きを呼び、その後米英そのほか、公開された各地で次々と魂焦がして、熱烈なる支持が津波のように広がりつつあるドキュメンタリー映画、それがこの『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』。そう、アンヴィル──80年代初頭、ハイスパート・ドラムとヘヴィなギター、ナスティでゴキゲンな歌詞でブレイク。後続のメタル/ヘヴィ・ロック勢に絶大な影響を与え……そして、いつのまにか「メジャーなシーン」からすべり落ちていったバンド。そんな彼らが中年になってしまった「現在の現実」から映画はスタートする。ヴォーカル/ギターの「リップス」は、いい歳して地元トロントで学校給食配達のバイトをしている。久しぶりの欧州ツアーでは、客がいないやらギャラがもらえないやら、電車に乗り遅れたりベンチで寝たり……。一念発起して自費でアルバムを制作するも、メジャー・レーベルからは門前払い。しかし、それでもなおかつ、「俺らは、やるんだよ」。リップスと盟友ロブ(Dr.)との友情や喧嘩、ファンや親族の支え。そしていつの日かピカッと光る「ロックの星」のあの場所へ。ガキの頃、俺ら一緒に誓ったあの場所へ!──そんな内容を赤裸々に収録した本作は、これまで我々がほとんど目にすることがなかった「人間としての」ロック・ミュージシャンの苦闘の姿を見せつける。それはおかしい。そして哀しい。しかし、勇気づけられるのだ。魂の奥底で、「俺の尊厳」という名のなにかがフツフツとしてくるのだ! 人呼んで「メタル版ロッキー・バルボア」。これで燃えなきゃ男じゃないぜ!──そう思った観客があまりに多かったせいで、すでにアンヴィルはバンドとしても前線復帰。でかいツアーにもガンガン参入。一般誌の表紙を飾り、そしてなんと本作は、アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネート?などという噂まで飛び交っているのだという!

作品中、メタリカのラーズ、モーターヘッドのレミー、スラッシュにアンスラックスのスコット、スレイヤーのトム・アラヤなどなど、錚々たるロッカーがアンヴィルからの影響を語っている。それはわかる。しかし本作は、メタルやロック・ファンの枠をも軽々超えて、不況やら戦争やらいろいろで折れそうになった現代人すべての心に「不屈」という名の花を咲かすかのように……なんかものすごいことになっているのである。 本作の監督は、これが初作品となるサーシャ・ガバシ。スピルバーグの『ターミナル』の脚本を手掛けた才人──でもあるのだが、10代の頃にアンヴィルのローディーを経験。自身も英バンドのドラマーとしてメジャー・デビューしたこともあるという点がまず重要だ。そんな彼と、リップスとロブの3人に話を聞いた。

 

──
まさに「アンヴィル現象」とでもいうべき、とんでもない反響が広がってますよね。
サーシャ・ガバシ監督(以下:S)
「大きかったのはね、とにかくいろんな映画作家や俳優がこの映画を支持してくれて! マット・ディロンだろ、キャスリーン・キーナー、キアヌ・リーブスは熱烈なファンだし、ミシェル・ゴンドリー監督、キャメロン・クロウ監督、ダスティン・ホフマン、それから……」
スティーヴ "リップス" クドロー(以下:L)
「シエナ・ミラー(思わせぶりな笑い)」
S :
「シエナ・ミラー! ニューヨークにいたとき、シエナ・ミラーとリップスが、深夜の3時にデュエットしたんだ! リップスがブルース・ギター弾いて。もちろん僕は撮影したよ(笑)。そんなわけで、この映画はメタル・ファン以外の映画人やセレブリティの応援で、ここまで広がってきたってことは言えるね」

──
本作の製作中、こんな反響を予想していましたか?
ロブ・ライナー(以下:R)
「彼は予想してたな(とリップスを指す)」
L :
「はっはっは」
S :
「してた。いつもしてた」
R :
「俺にとっては新鮮な驚きだけどね」
──
『ザ・トゥナイト・ショウ』(注;50年代から放送が続いている、アメリカの国民的トーク・バラエティTV番組)にも出演したとか?
L :
「30年かけて勝ち取った10分間だからさ(笑)。すっごいエキサイティングだったよ」
R :
「ほんとに……本当の意味で俺らがブレイクしたっていえる瞬間だったな。司会のコナン・オブライエンもクールガイだった。アンヴィルに対して、すごい情熱的だったよね」

 

──
隔世の感をかんじますよね。本作に収録の80年代の映像では、アンヴィルの歌詞が猥褻だとTVの女性キャスターに叩かれたりしていたのに。
L :
「あー。俺らの <ダーティ> なリリックスがね。でも、いまとなっては、それが面白くて、楽しいもんだって、みんなわかってきたんだろうな。だってさ、ここ15年のデス・メタルとか。ほんとに、真剣に、きっついことを歌いたがるバンドが増えたじゃないか。すごくエクストリームな……ロゴを見ても、俺なんか名前も読めやしないようなバンド……殺人やレイプ、そんな題材について歌ってる奴らもいる」
S :
「おっかしいよな。頭おかしいよ」
L :
「俺はセクシャルな歌詞をいっぱい書いたけど、いまの奴らの姿勢よりも、もっと喜劇的だったと思う。メタル・ファンの男たちに向けて、ガイズ・トーキングっていうの? バーで酒飲んで、馬鹿話する感じ。そりゃ女の子が聞いたら怒るかもしれないけど。猥談だから。でも俺が言いたいのはさ、『ガイズ、盛り上がろうぜ!』ってことなんだ。楽しもうぜ!って」

S :
「『教会を燃やせ!』なんて、全然楽しくない」
R :
「病気だぜ。どうでもいいよ。そんなの」
L :
「そんな世の中だから、俺らも再発見されて、新鮮なんだと思うよ。だからライヴにはオールド・ファンもいるけど、15歳のキッズもいる」
R :
「AC/DCやKISS のコンサートでも、親子で観にくるファンがいるよな」
S :
「KISSはそうでもないよ。モトリー・クルーやKISSは年寄りが多い。AC/DCはイケてる」
R :
「AC/DCはいいよな」
L :
「うん。AC/DCはいい」