09 7/3 UP
Text:Koremasa Uno Photo:Shoichi Kajino
2008年5月にデビュー作『シフォン主義』が全国のCDショップに流通するやいなや、口コミやYouTubeやニコニコ動画で噂が広まり、その1年後には第1回CDショップの大賞まで受賞してしまった相対性理論。
2009年1月にリリースされたアルバム『ハイファイ新書』では、ギターポップのフォーマットで音作りがされていた前作から音楽的に進化し、80年代ニューウェーヴからウェザー・リポートのようなエレクトリック・ジャズまでをも咀嚼した音の空間センスと、言葉遊びの中に現在20代前半(推定)の世代感が見え隠れする中毒性の高い詞の世界が炸裂。耳の早い音楽ファンだけでなく、坂本龍一や鈴木慶一といった年長のミュージシャンをも唸らせることになったが、いまだバンドとしてのメディア露出はほとんどなし。カルチャー誌の表紙に抜擢されても、ヴォーカルのやくしまるえつこが描くイラストを「バンドの顔」にするという徹底ぶりだ。
だからこそ、唯一彼らの実体を確認することのできるライヴへの注目度は異常に高い。この日のLIQUIDROOMのチケットもあっという間にソールドアウト。自分の周囲でも、「もっと大きな会場でやってくれないと、永遠に実物が見られないよ」という嘆き声がたくさん聞かれた。
これまで「実践 I」「実践 II」「実践 III」と名づけたイベントを主催してきた相対性理論。4回目の自主イベントとなる今回は、「解析 I」というタイトルの通り、新たなシリーズの始まりとなる。過去、灰野敬二、栗コーダーカルテット、ヒカシュー、ムーンライダーズ、Hair Stylistics、岸野雄一、Shing02などなど、世代からも音楽性からもまったく自由なスタンスで様々なアーティストたちと対バンしてきた彼らだが、今回のイベントで共演するのは、電子音響作品を中心とした先鋭的な表現活動で世界中から注目される渋谷慶一郎と、今年4月には大友良英と共にsim+otomo名義でのアルバム『Monte Alto Estate』もリリースした、ポストロック/ポストノイズ系バンドsim。もちろん、どちらのアーティストも相対性理論のメンバーのフェイヴァリットとのことだ。
開演前から満員で膨れ上がったフロア。最初にステージに上がったのは、数々のインプロヴィゼーション系バンドで活動している大島輝之(guitar)、音楽評論でも知られる大谷能生(computer/electronics/synthesizer)、渋さ知らズのパーカッショニストでもある植村昌弘(drums)の3人編成によるバンド、simだ。大島がシーケンス・ソフトで制作したトラックを、植村が譜面に起こし、3人でそれを完璧に再現するという方法論で作られたsimのサウンドは、音数は少ないのに音圧が凄まじい、アブストラクトなようでいてすべてのタイミングがジャストでコンクリートという、他のバンドでは絶対に体験のできない特異なもの。インプロヴィゼーションバンドにありがちの音の曖昧さのかけらもない、その覚醒しきった音の強度を前に、オーディエンスの一部には戸惑う姿も。大島は作曲する上でPILを参照しているとのことだが、確かにこの感覚は、リアル・ニューウェーヴを通過した人間じゃないとなかなか共有できないものかもしれない。セットのラストでは、相対性理論のやくしまるえつこがステージに登場し、『ハイファイ新書』収録の“テレ東”を競演。曲の前半のバックトラックは、携帯電話に入っていたトイピアノ風の着メロ・トラックをその場でマイクに拾わせるという斬新なパフォーマンス。やがてそこに3人が音を合わせていき、この日限りの貴重な“テレ東 sim version”が目の前で完成していった。