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THINK PIECE

ポチの告白

桜タブーをエンターテインメントで暴く。
『ポチの告白』高橋玄監督インタビュー。

09 1/23 UP

Portrait:Kentaro Matsumoto Text:honeyee.com

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単に警察犯罪を告発したい、ということならこのような映画にはなっていないし、それ以前に映画である必要がないわけですね。エンターテインメント性のある映画だからこそ、テーマや、メッセージが伝わると。この作品はシリアスでヘビーな内容ですが、シリアスでヘビーであるが故に笑える部分もありますし、作品を観た後には「少しは警察に用心しないといけないな」という実感もわいてきますね。
「アメリカや韓国の人たちは政治的、社会的な事柄に対する意識が高くて、例えば韓国では、大統領の発言一つでデモが起きたりしますが、日本は違いますよね。麻生太郎が馬鹿面下げてハローワークを訪れて、そこにいる若者に『何かありませんかね、と言うのでは、仕事は見つからない!!』みたいなことを言っていましたけれど、僕があの場にいたら麻生を引っ叩きます(笑)。でも、誰もそうしないのが日本という国なので、そこで、エンターテインメント性を持ったイメージで社会的なテーマを伝達する必要性が出てくるというわけです。小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』のような漫画が話題となったのも、そこにエンターテインメント性があったからですよね。僕の場合は映画なので、例えばですが、犯罪に手を染めていく警察官のいやらしい目つきをスクリーンに映し出して、そのイメージを媒介にして警察犯罪の恐さを伝えていくわけです」
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高橋監督が今おっしゃったエンターテインメント性を持ったイメージを媒介にしてテーマやメッセージを伝えていく映画が、日本では減少している気がするのですが。
そうかもしれません。社会派モノで言えば、若松(孝二)さんや、熊井啓さん、原一男さんらがヒットを飛ばした時期もありましたが、現在は日本の映画産業全体が弱体化しているんです。ハリウッドでは能天気な映画がある一方で、最近のものでいうと『ナイロビの蜂』『ロード・オブ・ウォー』のような社会派エンターテインメントに資金が投じられ、それなりの結果が出ています。そもそも映画の歴史を遡っていくと、映画はエンターテインメントであると同時に、政治的、社会的メッセージを伝えるものとして機能してきました。ヒトラーのような独裁者が政治の道具に映画を利用したのはその典型ですね。それに、現代でも、戦争をスタイリッシュに見せる目的でペンタゴンがハリウッドの映画産業に関与している、という話があるくらいです。ただ、日本の場合は、映画産業は国から切り捨てられていて、『映画をやるやつは道楽者だ』とされているので、作る側としても『そうだよ。俺たちは道楽者だ』と言って、単にエンターテインメント性のみに特化した作品しか作れなくなるわけです」

 

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ベストセラーやコミックを映画化し、その中にちょっとしたテーマ性やメッセージ性を忍ばせるような作品はありますけれど、『ポチの告白』のように正面切った題材で、なおかつエンターテインメントとしても優れている映画を作らなければ、ハリウッドと競うことなんて到底できないですよね。『ポチの告白』では警察犯罪を題材としたわけですけれど、次回作の題材は既に決まっているのでしょうか。
「具体的に企画が進んでいるものは、性同一性障害を題材に取り上げたものです。性同一性障害を障害という括りにするのは止めよう、というものですね。当事者の人たちは『障害と言われることが最大の障害である』と言っています。うまくいけば、今年の10月に撮影開始の予定で、有名な方が主演となります」

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マイノリティと言われる人たち、またタブーとされているものをテーマとして取り上げることで、そこから社会全体の形を浮き彫りにするということでしょうか。
「そうですね。社会は複雑であるがゆえに、局所的な部分にスポットを当てることで、全体が理解しやすくなるということはあると思います。例えば金持ちはマイノリティですけれど、差別はされませんよね。『マイノリティ=差別の対象』ではない。そうなると『人間の差別感情はどこからくるのか?』ということを考えるようになるわけですけれど、そのようなこともあり、僕の作品は差別問題が絡んだものが多いのかも知れません。例えばですけれど、ウサギの耳が生えた人間が突然目の前に現れたら、僕にも差別感情が生まれるかも知れない。それは極端な話ですけれど、僕に差別感情が無いかと言えば、そうとは言いきれません。しかしながら、世の中には未だに黒人を差別しているような人たちもいますよね。だから、様々な差別を解消するためのメッセージを、映画を通じて残そうと考えているんです」

 

『ポチの告白』

高橋玄監督作品
出演:菅田俊、野村宏伸、川本淳市、井上晴美、井田國彦、出光元
製作:田村正蔵、高橋玄
原案協力:寺澤有
脚本・編集:高橋玄
配給・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
製作年:2006年日本映画
上映時間:3時間15分
©2009 GRAND CAFE PICTURES corporation

2009年1月24日より新宿K's cinemaにてロードショー

http://pochi-movie.com/