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THINK PIECE

THE BIG PINK

21世紀に甦ったポジパン?!
愛を尊ぶ、新・耽美派バンド

09 8/31 UP

Text:Mayumi Horiguchi

UKの音楽メディアがこぞって取り上げている話題の新人、ザ・ビッグ・ピンク。英音楽誌NMEでは、「ザ・ビッグ・ピンクは世界一コネクションのあるバンドか?」と題し、新人としては超異例の中面ファミリー・ツリー特集を組んだほど。ちなみに、この件に関しては、メンバーのマイロとロビー、二人とも「単に扇情的に盛り上げてるだけ。実際には知り合いじゃないバンドがいっぱい繋げられているよ」と苦笑していたが、この2人組が大きな注目を集めていることは、まぎれもない事実だ。

クラブ・アンセム化した「トゥー・ヤング・トゥ・ラヴ」やシングル「ベルベット」をはじめ、彼らのクリエートする楽曲群には、様々な音楽要素がみてとれる。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン的フィードバック・ギター、ダンサブルなビート&サイケデリック感漂うマンチェスター・サウンド、ノイズ、インダストリアル等々……そこに壮大でメランコリックな甘声コーラスが加わり、耽美的な音世界が構築される。アートワークも含め、とても芸術的で、まさに「最新鋭のポスト・ロック」といった感じ。所属レーベルである4ADが80年代に発表したアーティストや作品群は、退廃的な音と耽美的なデザインのアートワークが特徴的だったが、この二人もまた、コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスのように、「ダークサイド」に強く惹かれているのだろうか?!  そんなことを思案しつつ、ザ・ビッグ・ピンクの二人にインタビューを敢行。二人ともナイス・ガイに見える——が、果たして実像は?!

The Big Pink/ザ・ビッグ・ピンク

クラクソンズ、ザ・ホラーズ、ザ・ティーンネイジャーズ、クリスタル・キャッスルズなどを輩出したインディ・レーベル、Merok Recordsの主催者でもあるマイロ・コーデルと、Panic DHHでのバンド活動や、アレック・エンパイアのバックバンドでのギタリスト経験などを持つロビー・ファーズから成る、英国ロンドン出身の2人組。09年に名門レーベル、4ADと契約し、同年4月シングル「VELVET」を発表。英音楽誌NMEの「最も期待される新人」に与えられるRADARアワードを09年に受賞し、注目を集める。マッドチェスターやシューゲイザーの影響を感じさせる、陰影に富んだエレクトロ・サウンドが特徴。サマーソニック09に合わせ初来日を果たし、10月14日にデビュー・アルバム『ア・ブリーフ・ヒストリー・オブ・ラヴ』をリリースする。

http://www.beggarsjapan.com/artists/TheBigPink/
http://musicfromthebigpink.com/

www.myspace.com/musicfromthebigpink

 

──
マイロはMerokレーベルの主宰で、ロビーはアレック・エンパイアのバンドのギタリストや、インダストリアル系のバンド、Panic DHHに在籍していたんですよね。
マイロ・コーデル(以下M)
「そう」
ロビー・ファーズ(以下R)
「ああ、でも、もうPanic DHHはやってないし、アレックのバンドでの活動もオフさ」
──
バンドを結成したきっかけは?
M :
「僕らが出会ったのは10年前……2000年だよ。友だちみんなでワイワイ盛り上がってる、ミレニアムを祝うパーティー会場でのことさ。僕ら二人とも、ウェスト・ロンドンの出身なんだけど、同じ病院で生まれたんだよ。他の友だちもみんな、その病院で生まれてるんだ」
R :
「ある意味、シーンみたいなもんだよ。俺とマイロは、二人ともノイズ系のサウンドに強烈に入れ込んでたんで、ヘイト・チャンネルという名前のレコード・レーベルを始めたんだ。そして、2007年のクリスマスに、マイロが電話してきて、“来年、俺達はバンドを始めるぜ!”って言ったんだ」

M :
「いや、バンドとは言わなかったぜ」
R :
「そうだ、“なにか、音楽を始めよう!”だったな」
──
なぜ、わざわざクリスマスに?
R :
「(笑)単に退屈だったからじゃない?」
M :
「ええと……年末に、来年は何をやるべきかって考えて、そうしたんだよ。毎年いつも、何かをクリエートしなければならないって考えるんだ」
──
マイロはMerokレーベルを運営していますが、レーベル運営とバンド活動、どちらを先に始めたんですか?
M :
「レコード・レーベルだね。なぜなら、僕は楽器を演奏できないから。だから、レーベルをやったら楽しいだろうな、と思ったんだ。それでTシャツを作ったり、レコードを作ったり、プレス・リリースを作成したり……そういうことをやってたんだ。でも、ある日ロビーが『楽器をプレイする必要はない』って言ったんだ」
R :
「ふふふ(と笑う)」
M :
「僕もそう認識して、音楽を作ることが可能になったんだ。ロビーは、『音楽を創るために、ギターとか弾く必要はないよ。感じればいいんだ』って言った。だから、僕らはそうすることにしたんだ。僕らは何かを生み出さなければならない、それが使命なんだ! ってことになったんだけど、それが音楽になるのか、何か別のアート作品になるのかは、その時点では分からなかった。でも、とにかく一緒にやろうってことになった。まるでダンス・レコードを作るときのように、いろいろやっていくうちに、どんどん膨らんでいったんだ。僕らは二人ともノイズに入れ込んでいたから、キツいノイズをやりたかったんだよね。うまくやれると思ったし、純粋に楽しいと思ったんだ」

 

R :
「グルーヴなプロセスさ。二人で創作活動を始めた時に、ものすごく簡単に、創造的に刺激し合えたんだ。もちろん、俺達はもともと素晴らしい友人同士だったけど、それにしても、驚くほど簡単に、楽曲が生まれてきて……思うに、そんな感じで、発展してきた結果、バンドが誕生したのさ。それに、二人一緒の方が、曲を書く時にもベターだったしね」
──
バンド名は、やはり、ザ・バンドのアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(1968年発表)から取ったんですか?
M :
「うん」
R :
「そうそう、まさにその通りさ。大ファンなんだ!」
M :
「実際、ロビーの名前は、ロビー・ロバートソン(*ザ・バンドのギタリスト/シンガー)に由来してるぐらいさ」
R :
「そうなんだよ、俺の本名はロバートソンっていうんだ」
──
10月にリリース予定のデビュー・アルバムは、メイン・テーマが“愛”で、題名もすばり『ア・ブリーフ・ヒストリー・オブ・ラヴ』ですが、いろいろなタイプの音楽の要素が取り入れられていますよね。シューゲイザーとか、ダンスとか、インダストリアルとか、マンチェスターとか……。
M :
「正しい見解だね。まさに君の言うとおりだと思うよ。ただ、言っておきたいんだけど、僕らにとっては“どんなサウンドから影響を受けているのか”という点は、重要じゃないんだ。単に、成長の過程において、そういった音楽を聴いてきた。それだけのことなんだよね」
──
現在のUKシーンにおいては、例えばザ・ホラーズのような、新しいタイプのゴス/耽美系バンドが流行っているように思えます。ザ・ビッグ・ピンクもそういった雰囲気を漂わせていますよね。なぜ「今」なんでしょう? クラクソンズ的なダンス・ミュージックに観客が飽きたとか、リーマン・ショック後の世界同時不況が、英国経済にも暗い陰を落としているから? あなたたちの所属レーベル、4ADは1980年代初期には、バウハウス、コクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンスといった、ゴス系のアーティストの作品を出していました。その頃の時代背景と似ているから……ってことはあるんでしょうか? ちなみにその頃、今で言うゴシック・バンドは、なぜか「ポジティヴ・パンク」と呼ばれてたんですよね。あなたたちの音楽は、例えばナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソンのような「今っぽいゴス」と比べると、ポジティヴ・パンクに近いような印象を受けたんですが。
M :
「え〜、ゴスが『ポジティヴ・パンク』って言われてたの?」