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THINK PIECE

TOKYO MOOD PUNKS

怒りと悲しみが生み出す
突き刺さるようなメッセージ

09 11/10 UP

Photo: Erina Fujiwara Text: honeyee.com

イラストレーター、文筆家、小説家、絵本作家……。実に様々な方法で表現活動を行うリリー・フランキー。その彼が、2006年、富澤タク、笹沼位吉、松下敦、松田“chabe”岳二と共に結成したロックバンド、TOKYO MOOD PUNKSが、映画『ブラック会社に勤めているんだが、もう俺は限界かもしれない』の主題歌『ストロベリー』を収録した2nd CDをリリースする。そのCDリリースを記念し、リリー・フランキーとギタリスト、富澤タクにインタビューを敢行。TOKYO MOOD PUNKSの意外とも思えるほどにストレートな音楽性、怒りと悲しみから生み出される、突き刺さるようなメッセージ性について語る。

TOKYO MOOD PUNKS

リリー・フランキー、富澤タクa.k.a遅刻(グループ魂、Number the.)笹沼位吉(SLY MONGOOSE)、松下敦(ZAZEN BOYS)、松田“chabe”岳二(CUBISMO GRAFICO)からなるバンド。2006年、リリー・フランキーを中心に結成。2008年、デビューシングル『ジェイミー』をリリース。2008年、11月からは、サポートメンバーとして上田禎が参加する。

 

──
TOKYO MOOD PUNKS結成の経緯について教えて下さい。
リリー・フランキー(以下 : L)
「昔からの知り合いなんですよね。僕とタクは大学の先輩後輩の関係で、一緒にバンドを組んでいましたし、ハナちゃん(笹沼位吉)も、chabe君(松田“chabe”岳二)も、15年くらい前からの友達で。敦(松下敦)だけは、ドラムの人は誰にしようかな、ということで(笑)」
富澤タク(以下 : T)
「ずっと前から、いつかバンドやりますか、みたいな話は時々していたんですよね」
L :
「昔、峯田(和伸)くんのサイン会に行った時、峯田くん個人のサイン会なのに、バンドメンバー全員が見に来ていたんですよ。それを見て、いいな、やっぱバンドいいなみたいな(笑)」
──
ストレートなロックをやる、ということははじめから決めていたんですか。
L :
「こういう音楽をやりたい、というのは明確にありましたね。それは、単純に言いたいことを普通に表現したい、というか。僕が若い時にやっていたロックとかパンクは、そこで表現する怒り自体が『借り物』だった、というか、どこか怒っているフリしていて、流石に40歳も過ぎれば、人間も丸くなって、ネルシャツ着ながら、ジャムでも作るんだろうな、と考えていたんだけれど(笑)。でも、この年になって、本当に怒ると悲しみを伴うし、センチメンタルになるんだな、ということが分かったんですよ。それで、やっぱり自分の言いたいことをストレートに表現していこう、と。『ストロベリー』という曲は、僕の身の回りの人が会社に抑圧されて、利用されて、本人は大人がずるいことを知らないままに怒ることも忘れて……、でも、それはおかしいよ、という気持ちを表現したものなんですよ。でも、そういう気持ちを原稿にしても説教くさくなるし、絵で描いてもわけが分からないし……。そう考えると、音楽の歌詞にのせざるを得ないのかな、と。バンドをやりながら遠まわしな表現をしても意味がない、ということですかね」
──
ロジックにするより、音楽を通じて感情に訴えたい、ということですね。一見すると、リリーさんを含めてこのバンドのメンバーは、感情にダイレクトに訴えかける表現みたいなものを、一歩引いたポジションから冷静に捉えているようなタイプに思えるのですが。
L :
「以前はそうでしたけれど、もう、そういうポジションにいること自体が格好悪いし、意味がない、と思うようになったんですかね。一歩引いたところで自分のアイデンティティを確立する、というのに飽きたのかもしれないです」

 

──
TOKYO MOOD PUNKSというバンドの中で、コンセプトや音楽性に関してのメンバー同士のコンセンサスは取れているのですか。
T :
「リリーさんの思いを中心にみんなが集まっている、という感じですかね。コンセンサスは、野放し状態です(笑)」
L :
「メンバーそれぞれが別々の活動をしていて、全員でスタジオに入ることもなかなか出来ないから、常に解散直前の状態ではあります(笑)」
──
『ストロベリー』という曲はストレートなロックですよね。裏の裏をついてあえてストレートにした、という見方をする人もいるんじゃないですか。
L :
「普通にやったらこうなった、という感じですよ。音楽的に凝ったことをしようとして、良くなった試しがないですから(笑)。結局、もともと自分たちが好きだったロックに落ち着くんですよ。サウンドに関しては、お洒落なものや前衛的なものにしようとするつもりがほとんどないから、スタジオでそれっぽいことをしたとしても、結果すぐに辞めちゃいます(笑)」
T :
「今のメンバーでセッションをはじめた頃は、色々とトライはしてみたんですよね。ハードコアやエレポップ、ネオアコ、インストものなんかもやりました。ただ、現時点では、リリーさんが考えるものをバンドの柱に据えながら、周りのメンバーがそれに肉付けをしていくようなやり方がいいのかな、と思ってますね。未だにメンバー全員で揉み合い圧し合いしながらやっている部分もありますけれど、今回の曲は、時間はないながらもスムーズに出来たと思います」
──
『ストロベリー』は強いメッセージ性を帯びた曲ですが、世の中に対する怒りをダイレクトに伝えるようになったのは、時代のせいなのか、それとも、メンバーそれぞれがキャリアや年齢を重ねてきた結果からなのか、どちらだと思いますか。
L :
「両方あると思いますよ。あと、昔は、サブカルに対するメインのカルチャーがしっかりしていたと思うんだけれど、今は違うじゃないですか。そもそも、世の中の主流となる部分がしっかりしていれば、僕たちは何も言わなくていいんですよ。それに、僕たちがいたサブカルのところが、メインのカルチャーの中に入っちゃった、という感じもしますね。例えばテレビ番組でも、雑学の番組がやたら増えて、それは『タモリ倶楽部』でやっていればいいじゃないか、みたいなことがあるじゃないですか(笑)」
──
メインカルチャーの大きな枠の中に自分たちは取り込まれているかもしれない、ということに対して苛立ちを感じたりしますか。
L :
「苛立ち、というか戸惑いですね。ここ最近、ウンコとかチンコとか言ってみたり、『面白コラム』みたいなものも書かなくなったんですけれど、それは、世の中の主流のところで起きていることの方がよほどおかしなことだからなんですよ。世の中の常識がどんどん低俗化して、嘘をつこうが、人を騙そうが、それが当り前の時代になって。政治の世界でも、『年金記録が消えちゃいました』とか……。そんな面白いことやられたらかなわないじゃないですか」